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十五枚目 「真実とは、残酷なものだ」

 クトゥリとマキラが出ていってからしばらくの間、この客間に沈黙が続いた。

 なんだか気まずい、というのか。

 オルフェリアと、面と向かって話すことができない。

 その間、オルフェリアといえば、(うれ)いに満ちた顔で窓から外の景色を眺めていた。

「失礼いたします」

 終わることのない沈黙に困り果てていると、クトゥリが言っていた使用人が軽食を持ってきてくれる。

 格好からみれば、クトゥリと変わらないメイドにしか見えないんだけど。でも、彼女らはみんなノーパンなんだろうな。

 使用人って言うくらいだから、位はマキラよりも確実に下だろうし。

 ああ、パンツ丸見えのメイドが見たい。

 俺がそんなことを考えてる最中、使用人は一人ではなく、ぞろぞろと五、六人ほど入ってくるのだ。

 そして、持ってきた軽食を机の上に並べ始めた。

「……これ、軽食?」

「そうでございます」

 俺は使用人さん達が持ってきてくれた軽食の量を見て、驚愕する。

 二人分の軽食にしては、量が多すぎやしませんかね。

 俺からしたら、これからパーティーでもするんですか? って言いたくなるぐらいの量があるんですけど。

 唖然とその料理を眺めていると、使用人の一人がポットに入ったお茶をティーカップに注ぐ。

 ハーブの香りが客間中に充満した。

 その匂いと、美味しそうな食べ物を目の前に、俺の腹の虫がくくくと鳴る。

 俺、この三日間? ……いや、四日間?

 もう日付の感覚すらわからないのだけど、そのぐらいの間、まともな物を食べてない。

 ……よく今まで生きてたな、俺。ゴキブリ並みの生命力だな。まあ、主人公なんだし、このぐらいの補正はないといけないよな。

「どうぞ、遠慮なくお召し上がりくださいませ」

 お茶を注いでくれた使用人の娘がそう言うと、机から離れ一礼してから壁際の方へと移動する。

 本当に食べて良いのか不安になった俺は、壁際に佇んだ使用人に再度確認した。

「……本当に食べていいの?」

「はい」

「全部食べちゃうかもよ?」

「お召し上がりください」

 その言葉を聞いた俺は、無心でそこに並べられた食べ物を頬張った。

 うまい、うまい、うまい、うまい、うまい、うまい!

 頭がたまに痒いけど、うまいッ! かゆ、うま。……ぽりぽり。

 ……うん、言ってみたかっただけ。

 っていうか、この世界に食べれるものあったんだねッ! 俺、本当に嬉しいよ!

 このサラダの絶妙な塩加減といい、焼きたてなのか、肌のように柔らかいパンは甘くって、口の中でとろけて……! ああッ! 幸せだ!!

 無我夢中で食べ物を頬張っていると、今まで窓の外を眺めていたオルフェリアが俺の近くにやってきた。

「……キドウ」

 もの悲しそうな表情で、俺を見つめてくる。

「ぼぶびば? (どうした?)」

 俺は飲み込めない量の食べ物を口に含みながら、オルフェリアに返事をした。

「……話しておきたいことがあるのじゃ」

 その言葉を聞きながら、俺はティーカップに入っている紅茶っぽいものを飲み、口に入っていた食べ物達を胃に流し込んだ。

「そなた達は席を外してはもらえぬかの?」

 オルフェリアは使用人達にそう言う。

「ですが、お茶を……」

「そんなもの、自分でできるからそこに置いておけばよい。……お願いじゃから、キドウと二人きりにさせてくれ」

「で、ですが」

 使用人の一人がティーポットを持ったまま、困った顔で言う。

 すると、オルフェリアの表情がみるみる険しくなった。

「聞こえなかったかの? 席を外してもらえぬかと聞いたぞ」

 この俺だって引いてしまいそうな怖い顔で、オルフェリアは使用人達を威圧する。

 すると、その恐怖に怯えてか、一人は大きくずっこけて、一人は辺りであたふたし、あとの何人かは震えながらその場に立ち尽くしているだけであった。

「早くここから立ち去るがよい!!」

「はひぃっ! おおせのままにっ!!」

 恐怖に怯えた表情をしながら、使用人達は客間から出ていってしまう。

 ……いったいどうしたんだ。

 オルフェリアだけは優しいと思っていたのだけど、こう見ていると「女性が怖い」と言っていた父ちゃんの言葉を思い出した。

「ど、どうしたんだ?」

 俺はひきつった笑顔でオルフェリアに聞く。

 オルフェリアは反対側のソファーに腰掛けると、とても暗い表情をしている。

「すまぬの、大声を出して。キドウはこの世界に来て、まともな食事をしていなかったじゃろう。ゆっくり食べながらでよい。……わらわの話を聞いてくれるかの?」

「あ、ああ。わかった」

 俺は遠慮することもなく、口に食べ物を詰め込みながらオルフェリアの話を聞くことにした。

「キドウ、わらわはそなたに謝りたいのじゃ」

「ふぁひぃお? (なにを?)」

「その……」

 とても言いにくそうに喋るオルフェリア。

 なにを謝るというんだ?

「…………そなたを召喚したことじゃ」

 その言葉を聞いた俺は、頬張っていた食べ物を飲み込むと、 お茶をすすってから口を開く。

「だから、気にしてないって。むしろ、俺は満喫してるぞ?」

「そうじゃない! ……違うのじゃ」

 苦しそうに息を吐くオルフェリアを見て、俺は心が苦しくなった。

 また……また、彼女の目から涙がこぼれ落ちているのだ。

「ど、どうして泣くんだよッ!」

「わらわは……そなたを」

 苦しそうに息を荒げながら、オルフェリアは言葉を口に出す。

 ゆっくりとだったから、俺は耳を傾け、オルフェリアが言い終わるのを待った。


「わらわ……は、そなた…………を。……()()()()()()()()


 それは前にも聞いたことのある言葉だった。

 確か……そうだ。オルフェリアがまだ老婆の姿だったとき、その言葉を口にしていたな。

「利用、って?」

「…………わらわの()()()()()()()()()……()()()()のじゃ」

 そう言い終えると、オルフェリアは気まずそうに俺の顔色を覗った。

 ……どういうことだよ、それ。

 確かに、『復讐』とか『利用』とか、オルフェリアは口にしてはいたけど。

 俺には意味がわからない。

「どういう意味だよ。ちゃんと説明しろよ」

「……っ」

 オルフェリアを問い詰めてみるが、彼女は言いづらそうに口ごもる。

 なんだよ、そこまで言っておいてだんまりかよ。

「俺には全然、意味がわからないんだよ。…………話すなら最後まで話せよッッ!!」

 俺はまた、声を荒げて叫んでいた。

 なんだか、心が痛くて……今にも張り裂けそうだ。

「…………、〈ザンムグリフ帝国〉への、復讐のため。……そのためだけに、わらわはそなたを召喚したのじゃ」

「で? 俺を使って、どのように復讐したかったんだよ」

「……それは」

「言えよ!!」

 多分、ショックだったんだと思う。

 本当に……本当に、オルフェリアのことを守ってあげたかった。

 オルフェリアと過ごした、この数日間が俺にとって大切な一時(ひととき)になっていたのに。

 オルフェリアのこと、俺は本気で…………。

 ……なのに、言われた言葉に対して、俺は――。

「…………、ナティスの……いや、〈ザンムグリフ帝国〉の皇帝の目の前で、そなたを……〈ザンムグリフ帝国〉の希望となったそなたを、見せしめに殺そうと思っておった。じゃがな、キドウ。わらわは――」


 ――俺は、心が傷ついたんだ。


「もうなにも聞きたくねぇよッッッッッ!!」

 オルフェリアが何を言いかけたかわからない。

 だけど、俺はもうなにも聞きたくなかった。

 この世界に呼ばれた理由。

 それが、オルフェリアの都合で、見せしめに殺される運命だったなんて。

 信じたくもない。

 聞きたくもない。

「キドウ……わらわは」

「もう、お前の声も聞きたくない」

「キドウ……」

「話しかけるな!! 早く、早く元の世界に帰してくれッッッ!!」

 俺は失望感と怒りのあまり、机の上にあった料理の全てを床に落す。その食器の殆どが無惨に割れ、床に散らばる。

 そして、なにも無くなった机に向かって、拳を何度も何度も打ち付けた。


 騒ぎを聞き付けた使用人達が、慌てて客間に入ってきた。その時の使用人の顔面が蒼白になっていたことだけ覚えている。

 だが、あとのことは頭に血が上りすぎていて、あまり覚えていない。


 ただ唯一覚えていたことと言えば、それからオルフェリアと目を合わすことはもうなかったということだけである。



   ***



 あーあ。なんかすっかりやる気無くなっちまったなぁ。

 っていうか、なんだろう。

 俺、なんでここに居るんだろう。

 ……早く帰って、『むちきゅん☆魔法少女』やりたいな。

 画面の中の嫁に、俺のまじかる☆注入! したいな。


 てかさ、会社どうなってんだろう。

 もうすぐ無断欠勤一週間とかじゃね? やばくね?

 なんせ「異世界に召喚されてて」とか言えないし、「拉致されてました」とか言えば、なんとかしてもらえるのかな?

 そんなこと言ったって、信じてもらえるわけないか。

 就職氷河期とか言われてるのに、会社クビとか困るんだけどな……。

 あーあ、損害賠償とか払って欲しいよ。

 俺の一週間返してよ。

 魔法があるんだから、時魔法とかあるよな。

 元の世界に戻るなら、召喚された直後に帰ろうか。

 あー、早くエロゲーやりたいな-。『むちきゅん☆魔法少女』だけが俺の心の支えだよ。

「失礼します」

 そんなことを考えて暇を持て余していると、扉が開き、クトゥリが顔を覗かせる。

「よおー」

「『よおー』じゃありません。あの騒ぎはどうしたのですか」

「さあなー。どこかの誰かさんに聞いてくれよー」

 クトゥリの言葉に、俺はやる気無く答えた。

 もうどーだっていいんだ。

 もうどーにでもなーれっ! 状態だよ。

 ハーレムとか、童貞卒業ヒャッハー! とか、もうどうだっていい。

 引きこもろう。

 ビバ、引きこもり生活。ヒャッハー。

 日本に帰ったら、自宅警備員になります。

 うん、天職だッ!

「キドウ様の目が逝ってしまわれてますが、どういたしましょう」

「大丈夫です。わたくし、どんなキドウ様でも愛すると自分に誓いましたからっ!」

 クトゥリは扉の外で誰かとこそこそ話している。

 ……なに。誰と話してるんだ?

 そんなことはいい。

 それにしても遅い。謁見とか言うのはまだなのか? こんなに長い間待たせやがって。

 まったく、鏡餅め。謁見だとかの時間になったら鏡開きしてやるッッ!

 俺はそう思っていると、クトゥリは客間の中に入り、深々と頭を下げた。

「キドウ様、オルフェリア様。ナティス様がこちらに直々に来てくださいました」

「……え、謁見とかじゃないの?」

「残念ですが、謁見の時間は終わりました。ですが、ナティス様直々に会いたいとのことでしたので、こちらまでお連れしました」

「え、それで大丈夫なの?!」

「はい。この国の未来を託すお方ですから、このくらい大丈夫かと」 

 あーあ。まーたそんなこと言って。

 俺は残らないよ、帰るよ。

 この世界が滅びようが、どうってことない。

 俺は俺の妄想ハーレムで、賢者タイムを味わうんだ。

「クトゥリ、入りますよ?」

「申し訳ありません、ナティス様。今、お開けいたします」

 俺が自分の世界に浸っていると、クトゥリがゆっくりと客間の扉を開ける。

 俺はソファーでやる気無く座っていると、そこに立っていた人物を見た瞬間、物凄く驚いた。


 ピンクの髪の毛の、小さな女の子。

 あどけない顔付きで、翡翠色の目を真ん丸くする。

 顔を赤らめながら、とても嬉しそうな声を発して俺に近付いてきたのだ。


「キドウ様、キドウ様ぁっ!」

 幼女のような可愛らしい声が、またその子を引き立たせる。

 誰だ、この子誰だ。

 それにしても、可愛い娘なのだが、それ以上に目を奪われるものがある。


 ……なんだ、あの爆乳は。けしからん。

 たゆんたゆんって表現が合うほどの爆乳だ。

 なんだ、この淫乱ピンクは。

 …………け、けしからんッッ!

 あんなご立派なものを見せ付けられたら、俺のご立派なムスコ様がヒャッハーしちまいますって!

 うああ! もうムスコはヒャッハーしてたよッ! 久しぶりにピラミッド……いや、エッフェル塔? うーん、ここは日本人らしく世界遺産の富士山とか言っておこうか。

 ヤバイぜ、今にも俺の富士山から白い溶岩が噴火しそうだぜッ!


「けけけ、けしからん乳の――」

「今、何て言いましたか」

 俺が思ったことをそのまま口走りそうだったが、クトゥリが睨みを利かせて俺にそう言う。

 なんてメイドだッ! ……怖い。

「スイマセン、ごめんなさい、言い直しますから許してください。…………こちらの可愛らしいお嬢さんは?」

「キドウ様……もしかして、わたくしのことを忘れてしまいました、か?」

 可愛らしいお嬢さんの瞳がキラキラ輝いている。

 うう、俺としたことが。こんなに可愛い娘を忘れちまうとは、この鬼童貞胤、一生の不覚ッ!

 ……って前にもこんなこと言ってたな。

「ご、ごめん……。ここ最近色々ありすぎて、だな。思い出せないんだ」

「そう、ですか。それならば仕方がないですね」

 女の子は残念そうな表情をする。

 そのときにふいに漂ってきた甘ったるい香りが鼻につあた。

 ん? この香り、どこかで嗅いだことあるぞ?


 すると、彼女は満面の笑みで名乗ってくれた。

「わたくしです。ナティス・レイヴィン・ザンムグリフです」

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