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十三枚目 「変態だから、仕方がない」

 俺達一行は、日が傾く頃にようやく森の外へと出ることができた。

 途中、パンツだけ穿いた緑色の肌の女の子に誘惑され、それがなんと()()()()()()の一部だったことは今でも衝撃である。

「まったく、キドウ様は手がかかって困ります」

「まったく同感じゃ。あの()()()()()()に食べられるなど、下心丸見えとしか言いようがないのぅ」

「あは、ははは……」

 この世界のウツボカズラは食虫植物ではないらしい。

 なんでも、(しょく)(じん)植物……そう、こいつらは人を食べるというのだ。

 ウツボカズラの中で誘っていたパンツ一枚の緑肌美女は、ウツボカズラが作り出した擬人であり、本物ではないらしい。

 一種の擬似餌のようなもので、それに釣られた馬鹿な男を食らうのだとか。

 それにしても、俺の趣味をわかっているウツボカズラだったな。あの擬似餌にかなり興奮してしまった。たぶん……いや、絶対にあれで何発かはヌける。

 そして、俺はまんまと発情してその餌に釣られた、ウツボカズラの中に閉じ込められて消化されそうになる、という恐怖体験をしたのだ。

 ウツボカズラの中はどうだったって?

 ぬめっとしてて、温かくて、中で行き来してました。

 だけど、案外、その中は気持ちよくて居心地が良かった……です。

 ……はい、スイマセン。


 だが、オルフェリアとクトゥリにとって驚きだったのは、俺がウツボカズラに食べられたことらしい。

 今となってはこの世界に女性しか居ないから、あの手のウツボカズラに食べられる者すらいなかったらしい。

 だって仕方がないじゃないか。

 俺、今はこの世界でたった一人の男なわけだしィ。

 ていうか、この世界のことまだわかっていないわけで。

 そんな中で、全裸……もとい、パンツ一枚の緑肌のかわうぃ娘ちゅわーんを発見したものならば、童貞である以上……いやいや、男なら食い付くってものさ。

「そう、俺は男なんだ。漢字の『漢』と書いて『おとこ』と読むんだッ!」

 俺がそう熱弁したところで、この二人にわかってもらえるわけがない。

「申し訳ありませんが、キドウ様の不思議な言動にお付き合いしていられないので、さっさとこちらに来ていただけないでしょうか?」

 クトゥリは相変わらずの冷たいジト目をこちらに向けて見てくる。

 うん、パンツ穿いてないけどなかなかいいキャラだよ!

「まあまあ、そんなこと言わないでくれって。ちっぱいメイド!」

「キドウ様、『めいど』の意味は理解しましたが、『ちっぱい』とはなんでしょうか?」

「『ちっちゃいおっぱい』を略した言葉、それがちっぱいだッ!」

 そう、ちっぱい。

 今となっては、萌えジャンルのひとつとなったちっぱい。

 別に俺にとってはちっちゃくたって、おっきくたって気にしない。

 パンツさえ穿いてくれていれば、俺は何杯でもメシウマできる。

 そう、もはや時代は「萌え」でも「爆乳」でも「貧乳」でもない。「パンツ」の時代がやって来たのだッ!


 つい興奮気味でそう考えていたので、クトゥリの異変に気付くことができなかった。

 俺が気付いた瞬間には、鋭利な刃物が何本か俺目掛け飛んできたのだ。

「うおッ! ひょぉッ! ひぃッ!!」

 その鋭利な刃物は俺の肌をスレスレに飛んでいく。

 二ヶ所ほどかすめ、ピリッとした痛さを感じた。

「……今度、その『ちっぱい』などという言葉を使いましたら、殺します」

 クトゥリは俺に不気味な笑顔を向けながら、そう言う。

 ……俺、地雷踏んじまったらしい。

 俺はその笑顔に恐怖しながら、その場に立ち尽くしていた。

 足の震えが止まらない。

 やっぱり怖いよ、怖すぎだよッ! この世界の女性は、とてつもなく怖いよッ!!

「さあ、キドウ様。()に乗っていただけませんか? 早くナティス様にご報告したいのですが」

 クトゥリがそう冷たい言葉で俺に言ってくる。

 だが、俺は不思議に思った。

 あの猿といい、ウツボカズラといい、呼び名が一緒だと言うのに見た目はまるで違うのだ。

 そしてクトゥリが馬、と呼んだこの生物。

 確かに俺の世界の馬に近いものはある。だが、俺の世界に居た馬と似て非なる生物なのだ。

 額から角が生えていて、どちらかと言えば神話に出てくるユニコーンのようだ。

 だが、そいつはユニコーンとはまた違って、毛並みは黒く、目が一つしかない。 

 アニメとかで言えば、冥界とかに出てきそうな馬なのだ。

 なぜ、そいつを『馬』と呼ぶのか。普通だったら、この世界の呼び方で呼ばれるはずじゃないのか?


 そこで、俺の中に一つ疑問にが生まれる。

 なぜ、今まで俺はこの世界で言葉に困ることはなかっのか。

 俺が目にした異世界転移の物語では、言葉の壁が主人公を苦しめていた。

 だけど、俺にはない。

 この世界に召喚されたときから、いや、オルフェリアと〈契約〉しているときから、言葉の壁というものがないのだ。

 日本語で喋っても通じ、日本語で相手の言葉を聞き取れる。

 まるで、翻訳してくれるこんにゃくを食べたように、言葉がすらすらと通じてしまうのはおかしい。

 もしや……俺って天才? もしくは、言葉のチート?

 まさか。いやいや、もしかしたら、こちらの世界も原語が日本語のようなものなのかもしれない。


 俺はそんなこと考えながら頭を抱えていた。

「キドウ、大丈夫かの?」

 オルフェリアは心配そうに俺のことを見つめてくる。

 俺の目に映る、彼女を含めた全ての世界が紅に染まっていた。

 よくよく周りを見ればもうすっかり夕暮れで、空は鮮やかな夕焼けが目に止まる。

「あ、ああ。大丈夫だ」

「では、馬にお乗りください」

 冷たい視線を俺に向けたまま、クトゥリはそう言い放つ。

 どうしよう、クトゥリよりもオルフェリアの後ろの方が安全な気がするのだが。

 ……不慮の事故ってことで、おっぱいも揉めるし。

 でも、もしクトゥリの後ろに乗ったとして、だ。そうなると、ちっぱいどころかまな板だから、揉めないし。

 俺はオルフェリアの胸とクトゥリの胸を見比べながらそんなことを思っていると、クトゥリの目の色がまた変わる。

 え、考えただけだよ? 口に出して言ってないってッ!!

「……キドウ様はわかりやすいですね」

 クトゥリはお得意の換装魔法で右手に武器を取り出す。

 その武器と言えば、忍者とかが使っているクナイのように見えた。

 そしてクトゥリは、また満面の笑みで俺を見ながら言葉を吐く。

「いっぺん、死んでみてくださいませ」

「ひえッ、いやッ、やめッ!!」

 確実に殺されると確信した俺は逃げようと試みる。

「クトゥリ、やめるのじゃ!」

 オルフェリアが止めに入ろうとしたが、クトゥリの投げたクナイのような刃物は俺の額にぷすりと刺さった。

「い、ひ、ひゃあぁあああぁぁあぁあああッ!!」

 見事に刺さった刃物をすぐに抜き取ると、見事なまでに鮮血が吹き出てくる。

 激痛だ、痛い。

 俺はその痛みに耐えかねて、その場に膝を付く。

「いたッ、痛いいッ!!」

「キドウ、キドウっ!!」

 オルフェリアが俺に近付いてくる。

 やばい、目が霞む。

 ……俺、ここで死ぬんだ。

「ごめん、オルフェリア……。俺、もう…………」

「キドウ……っ! クトゥリっ、なんてことをしたのじゃっ!!」

 意識が(とお)退()き始めた中、オルフェリアがクトゥリ向かって叫んでいるのがわかる。

 段々と力が入らなくなり、俺はそのまま地面に顔を付けてしまう。

 死ぬときって、走馬灯のように思い出が蘇るんじゃないのか? 今はただ、瞼が妙に重い。

「オルフェリア様、落ち着いてくださいませ。大丈夫です。ただの睡眠薬を打ち込んだだけなので、キドウ様は眠気に襲われているだけだと思います」

「なぜ、そんなことを……っ!」

「キドウ様が、変態だからです」

 クトゥリの最後の言葉を聞いて状況を理解したのだが、その睡眠薬の効果に逆らうことが出来ず、俺は瞼を閉じたのだった。



   ***



「んん……」

「キドウっ! 目が覚めてよかったのじゃ」

 心地よい揺れと、その声で俺は目を覚ます。

 あれ、死んでなかった。

 ……ってそうか。俺は睡眠薬を額に打たれたのか。

 俺は自分が生きていたことにほっと胸を撫で下ろす。

 だが、後頭部に妙な感触を感じる。

 むにむにしてて、ぼいんとしてて、むっちっちで……。

「キドウ、額は痛むかの?」

 俺の頭上から、オルフェリアの声が聞こえた。

 顔に当たる、くすぐったい感触。

 目を開いてまず、顔に当たるそれを確かめた。

 これは……オルフェリアの髪の毛だ。

 そして、次に視線を上げる。

「顔色は良さそうじゃな」

 そこには安心したような笑顔で話す、オルフェリアの姿があった。

 俺は慌てて正面を見つめた。

 その視界の先には、暗闇になってしまった風景と角の生えた馬の後頭部が見える。

 この感じは、オルフェリアの馬に乗っているようだ。そして、彼女は後ろで馬の手綱を引いているのだろう。

 ……ってことは、だ。後頭部に当たる感触。もしやッ!!

 俺は背伸びをするふりをしながら、頭に触れる物体の正体を突き止める。

「きゃっ!!」

 柔らかいのに、この弾力! まさしくこれは、おっぱい!! オルフェリアのおっぱいッ!!

「じゃから、揉むでないわぁっ!!」

 オルフェリアはそう叫ぶと、俺の額に目掛けて平手打ちをしてくる。

「いッ……でぇぇえぇッッッ!!」

「……はっ、すまぬ! …………大丈夫かの?」

 俺はあまりの激痛に、両手を自分の額に伸ばしてから擦る。

 そんな俺を心配そうに見つめるオルフェリアは、やっぱり可愛い。

 潤んだ瞳を独り占めしているようだった。

「キドウ様はしぶといお方なのですね」

 いい雰囲気に浸っていたと言うのに、左側から憎らしい声が聞こえてくる。

 その声の方を向くと、案の定、この世界の馬に跨がったクトゥリの姿があった。

 暗がりの中、浮遊する光の玉に照らされる彼女の姿を見るのは正直嫌な気分になる。

「この、ちっぱいメイドめッ!!」

 俺は痛む額を擦りながら、大きく舌を出してクトゥリにあかんべーをした。

「…………キドウ様は、どうしてもクトゥリに殺されたいようですね」

 クトゥリはそれを見て、笑顔をひきつらせながらそう言う。そして、魔法陣から武器を取り出した。

 やる気か? どうしても鬼童貞胤様に変態行為されたいようだな……!!

「やってやろうじゃないか!! じっちゃんの名にかけて、俺が倍返ししてやるッ!!」

 俺も負けじと睨み返す。だが、それを良しと思わない者が居た。

「……二人とも、いい加減にするのじゃ」

 俺の後ろでオルフェリアがそう言う。

 だが、その声が聞こえても俺とクトゥリの睨み合いは収まらない。

「オルフェリアッ! 黙っててくれ!!」

「そうです、オルフェリア様。クトゥリはこの変態を――」


「じゃから、いい加減にするのじゃっっ!!」

 オルフェリアが叫んだ、そのときだった。

 俺とクトゥリの頭の上に、げんこつほどの石が落ちてくる。

「イデッッッッッッ!! お、んッッッ?!」

「ひぎゅっ?!」

 俺の声とクトゥリの声が同時に出ると、それと同じくして激痛が頭上を走った。

 しかも俺の場合、額に傷がある。

 頭上の痛みはついに額をも巻き添えにし、せっかく塞がっていた傷口がぱっくりと開き、またそこから血が滴れてきたのだ。

「血、血がッ!!」

「自業自得じゃっ!」

「どうして、クトゥリまでこんな目に……」

「知らぬっっ!!」

 俺とクトゥリはズキズキと痛む頭上を押さえながら、目を見合わせる。

 それは、「今は休戦としよう」という合図でもあった。

「まったく、世話のやける者達じゃなっ! ……ほれ、〈ザンムグリフ帝国〉の王都が見えてきたぞ」

 オルフェリアが指差す方向に明かりが見える。

 俺の目に飛び込んできたのは、とてつもなく大きい城であった。

 夜だというのに煌々と輝き、威厳の風格を思わせる造りの城は地球にある世界遺産の建物をも凌ぐ造りである。

 だが、それは一部に過ぎない。

 城の下の方を見るには、巨大な外壁が邪魔をして、その城の全貌を把握できないのだ。

「あれが〈ザンムグリフ帝国〉の……城?」

「そうです。外壁は猛獣や敵襲に備えて、国民を守るための物です。そして、あそこに見えますお城こそが、〈ザンムグリフ帝国〉の命とも言える建物でございます」

 その光景を見た俺は目を疑う。

 俺は一番最初、あそこの中にあるナティスの部屋に居たのだ。

 どれだけ大きな城の一角に居たのだと驚愕していると、後ろで手綱を扱うオルフェリアの異変に気が付いた。

 ……震えている。

 自分の国を滅ぼされた、憎き敵国。

 きっと、クトゥリやマキラと一緒に居ることすら苦痛だったに違いない。

「……オルフェリア?」

 心配になった俺はオルフェリアの顔色を覗う。

 憎悪に満ち溢れ、それでも唇を噛みしめて耐えるオルフェリアの顔がそこにはあった。

 今にも壊れてしまいそうなオルフェリアの姿を見た俺は、そっと手を握る。

 その手からも、震えが伝わってくるのだ。

 だが、俺にはそれ以上なにも出来ることがなかった。


 ……俺には、彼女の気持ちを全て察してあげることは出来ない。

 それよりも、軽はずみの言動が彼女を傷つけてしまうのではないか。

 それこそが心配だったから、なにも声を掛けることが出来なかったのだ。


 この世界の馬は、オルフェリアの心情を察することもなく、〈ザンムグリフ帝国〉の王都へと向かう。


 ナティスと会うことによって、なにも起きませんように……。と、神様に願う俺であった。

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