シュヴァリエ公爵家の慶事2
シュヴァリエ公爵家は何時もにも増して華やいだ雰囲気に包まれていた。公爵夫人はルディとカリンを暖かく迎えてくれた。
「この度はアナスタシア様のご婚約おめでとうございます。」
「ええ、ありがとう。あの子がお嫁に行くなんて夢の様よ。何となくオブリーを想っているんじゃないかと感じてたけど、あの子も公爵家令嬢の肩書きが邪魔していたのね。だから、私も主人も相手の身分仕事にこだわらないと言ったのだけど・・・。でも、彼が慌てて一人で帰国してきて娘さんを頂戴したいと。それから魔法省に通い詰め試験を突破し更にあんなに爵位を拒んでいたのに娘のために伯爵位まで・・・・」
最後は涙声だった。
「私達公爵家はあなた方二人にお礼を言わなくては。ウルリヒで女神の降臨があったそうね、そのおかげで覚悟を決めたと。本当にありがとう。」
それからアナスタシア様の部屋に向かった、ノックをし名乗るとどうぞと言われ中に入る。アナスタシア様の隣にはフェンリルさんが付いていた。
「アナスタシア様、この度はおめでとうございます。」
「おめでとうございます、アナスタシア様。」
「ありがとう二人とも、どうぞかけて頂戴。」
「いや、でも驚きましたまさかお二人がご婚約とは。」
「私自身も驚いているのよ。もう諦めていたから、ずっと一人でいようと思っていたのにヴィルヘルミナ様の婚礼の儀でブーケは渡されるし隣であの人が私にはわからない女神様のお言葉を神妙に聞いていたなぁとは思ったのだけど。」
そういえば女神はアナスタシアには何も語りかけてなかった。
「ところがよ、披露宴の場でアルベリヒ殿下のお相手を務めていたら珍しくダンスを申し込んできたのよ。滅多にないから嬉しくて素直に応じたらダンスの後庭に連れ出されて・・・」
嬉しそうに話しながら頬を赤らめている。
「自分は明日朝一で帰国する。でも、その前に言っておかなければならない事があるって、離れてみて危険な目にあって、そして王太子夫妻を見てもう諦めることはやめたと、遅いかもしれないけれど、その・・・結婚を申し込むって。」
普段は快活な令嬢が両手で顔を隠しながら喜びを全身で表している。
「ルディ様、カリン申し訳ないのだけれど暫くの間奥様からの要望もあって私はアナスタシア様付きの侍女として本邸の方に入ることになりますがよろしいですか?」
「大丈夫です!フェンリルさんから仕込んでいただいてますし、離れは人も少ないですので私にお任せくださいっ。」
「まあ、頼もしいわ。では困ったことがあればいつでも言ってきてね。」
「僕も異論ありません。元々公爵家の侍女なのですから。」
「ありがとう、ルディ。カリン。ところでルディ、あなたも身の振り方を考えないといけないんじゃなくて?留学も終えたわけだし、やはり魔法省での仕事かしら?」
「それについては、養父から近々連絡があるようです。そういえばアルベリヒ殿下はまた離宮にお戻りになられたのですか?」
「・・・あの方、まず王宮に帰って陛下にご報告やら何やらしているうちに執務室を与えられオーランド殿下が付きっ切りで今回の詳細を書類にまとめさせているんですって。もう、逃げられないんじゃないかしら?」
「そうですか、大変な作業ですね。」
「でしょう?でも今まで好きにやってきたのだから仕方ないわ。」
「あの、オブリーさんは伯爵位になられたそうですが。となると、離れの執事というわけにもいきませんよね?」
「ええ、それを一番気にしていたようなの。どうなるかはまだはっきりしないのだけれど。暫くはあの人も魔法省と離れの行き来で忙しいと思うわ。迷惑をかけてごめんなさい。」
「いえ、お気になさらずにいてください。」
暫く話をしたあと、ルディとカリンは離れに戻った。オブリーは出かけたようだ。小さな離れだが二人だけだと結構広い。ふと、公爵夫人の言葉を思い出した、カリンが僕の専属侍女になったことだ。いままでカリンのお給料は公爵家から出ていたがこれからもそれでいいのか?それから主巫女の話も思い出す。幸いまだ昼前で十分時間があった。
「カリン、ちょっと行きたいところがあるんだけど,君、馬に乗れる?」
「はい、殿下から教わりましたから何とか。」
「じゃあさ、つきあってくれるかな?」
「お昼はどうされます?」
「うん、街で買おう。僕は馬を借りてくるよ。」
「では、私は着替えて来ますね。」
あの場所に何となく二人で行きたかった。