シュヴァリエ公爵家の慶事
翌朝食堂から漂う匂いに誘われ目が覚めた。ウルリヒと違いハヴェルンの春は暖かく気持ちのいい朝を迎える。ベッドの中で伸びをし起き上がって窓を開ける、小鳥の囀りが耳に心地いい。服を着替えて階下に降りる。驚いたことに食事の用意をしているのはカリン一人だった。ルディの気配に気づくと振り返り笑顔で挨拶をし、後少しで出来るという。足音がしてオブリーが降りてくる。カリンによるとフェンリルは家の事を終わらせてセシリアを預けてから出勤してくるという。なので食事も一通りできるよう僕らが留学中に仕込まれたそうだ。味も悪くなかった。フェンリルのものをベースにカリンなりのスパイスがかけられたといった感じでこれからはこの味に馴染んで行くんだろうなと考えながら食べていると不意にオブリーさんが思いつめた顔で食事の後フェンリルが来てから大事な話があるから集まって欲しいと言う。カリンが食事の後片付けを済ませる頃にはフェンリルが出勤してきたのでオブリーが声を掛ける。四人で居間に集まりオブリーに向かって三人でソファに腰かけると、最初落ち着かない様子だったオブリーが覚悟を決めたといった感じで重大発表をした。
「えー、私エイナル・オブリーはウルリヒの留学とこちらに帰ってから魔法省での試験を受けニームの称号を頂きました。で、爵位を承ることになりました。伯爵位です。最後にこれが一番肝心な話なのですが・・・私、ニーム・エイナル・オブリー・・伯爵は昨晩シュヴァリエ公爵夫妻のお許しを得て」
三人は息を飲んだしオブリーさんは大きく息を吐いて言葉を続けた。
「シュヴァリエ公爵家令嬢アナスタシア様と婚約を致しました。」
「「「えええええっっっ」」」
ショックから一番に立ち直ったのはフェンリルだった。
「おめでとうございます!オブリーさん。この日がホントに来るなんて‼︎すみません、私一足先に本邸に行ってきますわっ!」
残されたルディとカリンはあまりの事にポカンとするしかなかった。
「ショックが大きいようですね。すみません、驚かせて。」
「え?あ、いえ。いや、驚きました。力が抜けて立てない程度には。」
「あの、ウルリヒにいた時からずっとお忙しくされていたのは・・・」
「ええ、このためです。私は魔法魔術技師学校の頃からこの離れで休みの間はお世話になってましたからアナスタシア様とはまあ、幼馴染みたいなものでした。私は庶民ですし身分を考えればそんな気にはならない。大叔父の立場もありますし、ところがいつの頃からか彼女が私に友情以上のモノを抱いていたようで、私は彼女の幸せを願いあくまで無視を貫いていたのですが・・・。負けました、国境での事件で自分の蓋をしていた想いに気づいたんです。ルディ様が危ないところを見てあれが自分だったらあるいは彼女だったらと考えるとゾッとしました。そう考えるとそろそろ潮時というか降参だと思いまして。更に婚礼の儀の際女神ハプトマンに後押しされましてね、それでヴィルヘルミナ様の婚礼の宴の最中に求婚したんです。彼女も驚いていましたがね。」
「じゃあ、そのために称号を上げ公爵令嬢を娶るためにふさわしい爵位を取得するために一足早く帰国した。」
「はい、女神との約束でしたので。」
ああ、そういえばあの時やけに神妙な顔をしていたな。
「あ‼︎大変!」
「な、何カリン⁈」
「ルディ様っ、私たち一番大切な事を言ってません。」
あ、そうか。
「「ご婚約おめでとうございます。」」
「はは、ありがとうございます。」