妹の幸福と兄の嘆き
婚礼の儀の次の日早朝にオブリーが部屋を訪ねてきた。何事かと思えばもうハヴェルンに向けて出発するのだという。あまりの早さに驚くと、帰ったら多分もっと驚きますよと言い残し、ハヴェルン一行の中でも一番速いと名高い馬に乗りあっという間に帰国した。昨日から想定外の事ばかりだ、我々はあと三日滞在した後にこの国を後にする。朝食の席でヴィルヘルミナにいつ挨拶出来るか伺いをたてないとなど話しているとアナスタシアからお呼びがかかっていると連絡があり二人とも着替えて王宮へと向かった。アナスタシアの侍女に取り次いでもらい待っているとすぐに呼ばれる。
ルディの癖毛ともカリンの真っ直ぐな髪とも違うシュヴァリエの宝石と呼ばれるだけある髪を見事に結い上げ豪奢なドレスを見にまとったアナスタシア様は昨晩はさぞやウルリヒの男性陣の注目を浴びただろう。
「おはよう。ルディ、カリン早くから呼びたててごめんなさいね。」
「おはようございます、アナスタシア様。今朝は早くからオブリーさんも帰国しましたし、昨日何事かありましたか?」
カリンも不安気に見つめている。
「オブリーが?そう・・・。大丈夫、あなたたちが心配することは何もないわ。ただね、私達の帰国も早くなりそうなの。」
「「え!」」
「アルベリヒ殿下が長居すると妃殿下に里心がついてはいけないとおっしゃってね。まぁ、本当は昨日から新婚さんに当てられっぱなしでうんざりみたいよ。で、その帰国に関して話がしたいと仰ってこれからアルベリヒ殿下を訪ねて行くのだけどいいかしら?」
「はい、もちろん。」
国賓を迎える部屋へと続く長い廊下を歩いていく。先触れはしてあり部屋の前の近衛が直ぐに扉を開けてくれた。
「失礼します、アルベリヒ殿下。ルディとカリンも連れてまいりました。」
殿下は窓際に立ちウルリヒの街並みを眺めていた。
「ああ、ご苦労だった。まあ座ってくれ。」
言われるままに席に着くと侍女がお茶を入れてくれた。
「あのな、急で申し訳ないが明日帰国しようと思う。オブリーにはその先触れも頼んだ。」
「だから、あんなに急に帰国したんですか?」
「いや、アレにはアレの事情もあるんだが。まあとにかく我が妹は昨日無事めで
たくもこのウルリヒ王国王太子妃となった。婚礼の儀では女神ハプトマンからの祝福を受け国民の誰もがこの奇跡の花嫁を迎え入れてくれたのはひとえにアレクシア、お前の尽力のお陰だ私からも礼を言う。」
「い、いいえそんな。」
「いや、さすがハプトマンの名を持つだけある。国王夫妻も大層お喜びだった。だかな、式が終わってからのあのミンナの変わり様を見ていればもう我等ハヴェルン一行は用無しだとしか思えんのだ。あんなにお兄様お兄様といつもくっついて来ていた可愛い妹が今ではジルベール一色。で、つまらんからもう帰る。」
えええぇぇぇ〜っ。カリンとつい顔を見合わせた。すると横からアナスタシアが、
「確かにあれは独り身の殿下には目の毒ですわね。この機会に帰国されたら早々に花嫁探しをされねばなりませんわね。」
と、愉快そうにいう。
「あ〜、確かにな。お前が魔力持ちでなければ話は早かったのに。」
「あら?私のようなじゃじゃ馬娘は嫌なんでございましょう?私からも国王御夫妻や父に働きかけて必ずや殿下に相応しい方を見つけて差し上げますわ‼︎」
「お前・・・やけに力が入っているな。」
「はい。ヴィルヘルミナ妃殿下にもしっかりと頼まれましたから。」
にっこり微笑むアナスタシアからはいつも以上に張り切りモードが漂っていた。