華燭の典2
王太子夫妻の控えの間にはジルベールだけがいた。
「失礼します。王太子殿下この度は誠におめでとうございます。」
「ル〜ディ〜、君らのお陰でウルリヒ史上最高の婚礼の儀が出来た!感謝するありがとう。おや?カリンはどうした?」
そこで様子を説明すると成る程と納得したようで、奥の部屋に声をかける。
「ミンナ、ルディが祝辞に来てくれている出て来られるか?」
どうやら着替えの最中のようだ。
「ち、ちょっと待って。すぐ行くわ」
言葉通りヴィルヘルミナがすぐに出てきた。。
「隣でちょっと聞こえたけどカリンはいま眠り姫なのね。」
「はい、大層緊張していたようですみません。」
「いいえ、いいのよそんなこと。それより、貴方とカリンにはハヴェルンからこちらに来て色々大変な目に合わせたし謝るのは私達の方よ。」
大きな空色の瞳が潤んでいる。
「カリンにはいくら感謝しても足りないわ。あの子のお陰で私達、素晴らしい婚礼の儀を挙げられたわ。女神様があの子に降臨して祝福してくださるなんて・・・本当にありがとう。目が覚めたらちゃんと伝えてね。それから、帰国前には必ず二人で会いに来て。約束よ。」
「わかりました。カリンも妃殿下の御言葉を聞けば喜ぶでしょう。」
「しかし、何故女神はカリンに降臨したんだ?」
それは・・・
「なんでも女神様にとってカリンは愛し子だそうですよ。余程波長が合ったのでしょう。」
そう述べるのに留めておいた。それから必ず後日挨拶にうかがう胸を約束をし部屋を辞した。元の控えの間に戻るとまだカリンはぐっすりだ、オブリーが目立たないよう仮住まいに帰る手配をしていてくれたお陰で誰にも見られず帰宅できた。まだ眠ったままのカリンを寝室に運び着替えが必要かと思い一度起こして後の用意をしてもらうようルイゼナさんに頼み自室に戻る。今頃は魔法師達が煌びやかに飾り付けた大広間で絢爛豪華な華燭の典が開かれていることだろう。湯浴みをし服を着替えソファに疲れた身体を投げ出す。ベッドに飛び込みたいがそうすると眠ってしまいそうだった。カリンを護る約束をしたからとこちらに二人だけ戻ってきたがそれは確かに正解だった。さっきから耳飾りをしている方の耳がチリチリと痛む。試されてるのかな・・・。そう思いながら廊下に出てルイゼナさんを探す。カリンの様子を聞くと何とか湯浴みをして着替えたらしい、またお腹が空いたというのでしっかりした食事を二人分用意しているというのでカリンの部屋で待っていると伝えて部屋に向かう。ノックをすると返事があった。
「僕だけど、入ってもいいかな?」
「ルディ様?はい、どうぞ!」
様になっていた巫女服を脱ぎ軽装に着替えている。目はすっかり覚めたようだ。部屋の隅々を伺う。嫌な気配はないが、ただなんというか昼間のフィフスがふと浮かんだ。と、いうことはまさか・・・。
「私はおやめ下さいとお止めしたのですけど。」
いつの間にか例の主巫女が室内にいる。今日はなんだが疲れた顔をしている。カリンと僕は自然と背中合わせに立った。
「彼の方、諦めが悪いですからねぇ。しかもハプトマン様にあんな事を抜け駆けされたともう荒れて荒れて。今日はおめでたい日ですから無理矢理閉じ込めてしまいましたが。」
見るとその白く細い掌に彼女の瞳と同じ色の丸い硝子球の様なものを持っている。
「ごめんなさい、私にはここまでが限界です。今から放ちますね?多分危害は加えないと思いますが・・・」
なに、その自信なさげな視線の外し方。というか、その中ってまさか。
「酷いぞ、いきなり閉じ込めて。私はただ二人に会いに来ただけなのに!」
丸い球体からすぅっと出てきたのはカリンと変わらぬほどの少年だった。
「やぁ、カリンには一度あったけど姿をちゃんと見せるのは初めてだね。それから君があの時の赤ん坊だった今では立派な魔法師ルディか。私はね、想像ついてるだろうけど世間では大陸の主神ハーヴェイと呼ばれている者だよ。一応二人ともに初めましてと言おうかな?」
ニコニコと笑いながら挨拶をしてきた少年が大陸の主神だった。