華燭の典
パレードの後は披露宴が王宮内の大広間を会場に開かれるが王太子夫妻は暫しの休息に入られる。その間にルディらにあてがわれた控えの間でオブリーとアナスタシアと三人がかりでカリンの身体の調子を視る。何と言っても女神がこの小さな体に降臨したのだその負担は計り知れない。しかし、拍子抜けする程何もなかった。さすが女神の愛し子だけに負担のないよう女神ハプトマンが気遣いをしてくださったのだろう。朝から緊張で何も食べていなかったカリンはお腹が空いたといいだし、軽食を用意してもらいペロリと平らげるとソファにパッタリ倒れてすやすやと寝息を立て始めた。
「嫌だ、ちょっとカリン!寝ちゃダメよ、披露宴の準備が・・・」
慌てて起こそうとするアナスタシアに起こさないようにと静かにジェスチャーで伝える。
「パレードの最中に言ってたんですけど、今日の主役は王太子御夫妻で特にヴィルヘルミナ様にとっては国中の貴族達へのその立場を示す大切な日でそこに自分のように目立つものが入ると邪魔になるからと。そして、それは女神の御言葉でも御夫妻に伝えられているそうです。」
「えぇっ!折角ドレスも新調したのよ、それは・・・その、女神様の仰ることもわかるけど少しでも・・・」
「すみません。僕は女神様にカリンを護ると誓いましたので今日は譲れません。ヴィルヘルミナ妃殿下も了承されていますし。それに、僕にはよくわからないんですが今回のドレスは無駄にならず近いうちにハヴェルンの方で披露する事になると仰られたとか。なんでしょうね?まだ成人の儀ではないし、祝い事でもあちらであるのでしょうか?」
「・・・わ、わかりました。ハヴェルンの事はともかくカリンは欠席ね。はぁ、ウルリヒ中にこの愛らしさが語り継がれただろうに。」
案外あっさりと引き下がられたのでちょっと疑問に思ったけどまあ納得していただけてよかった。
「で!貴方はどうするの⁉︎」
「すみません、僕の方も女神様との約束を守らなければいけませんので・・え〜、このままカリンを連れて仮住まいに戻ります。僕も騎乗でカリンを乗せてたので悪目立ちしてますし、今回の事でカリンの力を手に入れたい者も出てくるかもしれませんし。側にいないと。」
アナスタシアが何か言おうとしていたがオブリーが中に入ってくれた。
「まあ、アナスタシア様今日はご勘弁して下さい。ルディ様には宴前に御夫妻に一度お会いできるよう取り計らってもらいましょう。」
「〜・・・・・っっ!わ・か・り・ま・し・たっ!じゃあ私は用意してきますから、御機嫌よう‼︎」
よく大きな音を立てずに扉を閉めたと感心しながらオブリーを見る。
「ありがとうございます。じゃあ、僕ちょっと面会の申請をしてきますね。カリンをお願いします。」
「わかりました。ん?なんか、顔についてますか?」
どうしようか迷ったが思い切って聞いてみることにした。
「あの、オブリーさんも女神様に御言葉をかけられていましたよね?あの時いつも見ないような深刻な表情で聞いているのを見てなんていわれたのかな〜・・・と、気になって。」
ブハっと吹き出された。ちょっと真面目な話じゃなかったの?
「そんなに深刻な顔でしたか?」
「えぇ、そりゃもう。相手は戦女神でもあられるしオブリーさんはスティルの称号を持っているのでてっきり戦でも始まるのかと。」
「いやいや、ご心配ありがとうございます。私はですね、長年放っておいた事があるのでそろそろ片を付けろと言われまして。まぁ、ちょっと難題ではありますが幸い祝福もいただけまして。直に片が付きそうですよ。」
「はぁ・・・よくわかりませんが悪い話ではなかったのですね。なら良かったです。じゃあ、行ってきますね。」
廊下に出て近衛に用件を告げると侍女が案内に来てくれた。