アレクシア・カーテローゼ・ハプトマン
僕の両親の墓は今もそのかつて住んでいた村に家と共にあるという。それがわかれば十分だ。アデーレ戻り、落ち着けば墓参りに行こう。そこで僕についての話は終わった。
「ではアレクシア、次は貴女の番です。お覚悟は?」
今度はカリンがルディの手をギュッと握りしめ深く頷いた。
「貴女のご両親はご健在です。当時からお母様は神殿の巫女としてお務めでした、しかしある日偶然に出会ったお父様と恋に落ちました。」
「恋・・・」
「巫女はその身の純潔を一生神に捧げるものです。貴女のお父様は神殿の警備として優れた騎士です。そして、お二人は神殿の禁忌を破り新しい命を授かったのです。」
「では、追放を・・・」
白い髪が左右に揺れ、紺碧の瞳が優しく見つめた。
「お二人は戦と祝福の女神ハプトマン様に仕えておられます、ハプトマン様は寛大な神で貴女に最大の祝福を贈る代わりに手放す事を条件に、ご両親には神殿に残る事を打診しました。最大の祝福とは先ずはその貴女のお力です。なにせ、神殿で産まれた者は先例がありません。ハプトマン様は貴女の持って生まれた神殿が影響したそのお力とこの先の幸せを授けました。貴女のご両親はガウス様のご両親と同じく敬虔な信仰心があり神殿以外で生活をする事は考えられませんでした。しかし、そのまま子を持つ巫女として仕えるには周りの目もあります。何よりお二人共貴女には自由に外の世界で育って欲しいとお望みでした。アレクシアはお母様がカーテローゼはお父様がお付けになられたお名前です。そして、ハプトマン様はその名を最後に授け名乗る事をお許しになられました。貴女もご両親に愛され僅かな時間ですが共にしその額にはいまも隠れていますがハプトマン様からの祝福の証がございます。神からも愛されたお子様です。」
カリンがポロポロと涙を零す。コクリコクリと何度も頷く。ルディはカリンの小さな手を片手で握りしめ震える肩を抱きしめた。
「私の両親は元気なんですね。」
「はい。今も神殿の主だった巫女としてお務めでございます。お父様もやはり神殿を護る騎士としてお務めになられています。しかし、女神様のお許しで貴女を産み出したとはいえその後、共に住むこともお顔をお互いに見られることも叶わぬ生活をなさっておられます。ですが、お二人ともお幸せなことに代わりはございません。ハプトマン様の名を名乗ることの許されたお子様が神殿の外の世界で幸せに暮らしているそれだけでよろしいのだそうです。そしていつか、自分達のように真に愛し愛される方と巡り会い幸せな家庭を築いて欲しいと願っておられます。」
僕にしがみつきそれでも目の前の主巫女を見据えるカリンの髪を優しく主巫女が撫でながら話終えた。
「さあ、お話はここまでです。今日の私のお仕事は終わりました。そういえばガウス様も随分魔力が安定してきたようですね。これなら安心してアレクシアを任せておけると先日ハーヴェイ様が仰っていらっしゃいました。それからアレクシア、貴女は少々お転婆すぎるところがあると嘆いていましたよ。私は元気があっていいと思いますけどね。」
カリンの素行は主神に覗き見られているようだ。
「では、日の暮れる前に帰りましょうか。」
外に出るともう陽が傾き始めていた。別れの挨拶をしようと振り返ると主巫女はまだ教会の前に立っていた。
「お二人ともブロワトの再来をお見事に防がれました。神々はあなた方をいつも祝福しています。アレクシア、今度の婚礼の儀落ち着いてしっかりとお務めください。ガウス様、アレクシアをこれからもよろしくお願いいたします。」
そう言うと二人に深々と頭を下げ、再び頭を上げた時には風がどこからか花びらを運び彼女を包みそして掻き消した。
「不思議な方・・・」
「うん、そうだね。でも知らないことを知ることができた。」
「・・・はい。はい、そうですね!」
主を見上げニッコリと笑うその子どもらしい表情にホッとする。このまま時が止まってずっと子どものままでいてくれるといいのに・・・。