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魔法使いの恋  作者: にしのかなで
十章
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外出の日

帰国を決めてからは時間が経つのが早かった。とにかくこの国で起きた事件ではカリンに助けられっぱなしだった。とにかく自分の力のコントロール、経験、そんなことを積み重ねそして一人前になっていく、誰かを護るために。


雪に埋れていた地面が顔を出し始め、氷柱の下がっていた軒先からは時折ぽすんっと音をたて地面に落ちてくる。雪を被っていた樹木も暖かい陽の光に白い衣装を脱がされ緑の芽がこれからの季節に備え次々と新しく樹木を彩るために我先にと生まれ始める。ウルリヒ側には婚礼の儀の後に帰国をする旨を伝えた。非常に残念がってくれたがやはり、あの件の事もあり強く引き留められる事もなく了承された。ここの所ずっと魔法省にひどい時には泊まり込んでいたので少し休みを取ることにした。オブリーはというと何だかいつも以上に魔法の鍛錬に励んでいて声を掛けるのも躊躇われるのでカリンを誘って観光と買い物に出かけることにした。


カリンの方もそれなりに忙しく過ごしていた。実はヴィルへルミナ直々に婚礼の儀に際し誓いをたてる巫女の役目を打診されたのだ。勿論ウルリヒ側の立場もあるので王家及び宰相ら国の上層幹部そして神殿の司祭様らとの会議を重ねに重ねた結果、ウルリヒに来てからの実績が功をなしウルリヒ王家と神殿から了承を得て婚礼の儀に際し戦と祝福の女神ハプトマンの代理巫女として新王太子夫妻の婚儀を見届ける大役を担った。これには流石にカリンが抵抗したが周りから知らぬ間にガッチリと固められていて引き受ける他になかった。


そんな神経を使う日々だったので気晴らしになれば、と休みを合わせてもらい無事外出に漕ぎ着けた。思えば結局なんの土産も買えてないし、ハヴェルンでも今まで数える程しかカリンは外出していない。だから、今日は普通の娘として自由にさせてやりたくもあった。ウルリヒに来てからのカリンの服装はヴィルへルミナやアナスタシアから贈られ更には王子しかいない王太子兄弟からも妹の様に大事にされこちらからも色々と贈られているらしい。だから出かける前日にはあれでもないこれでもないと服装に悩んでいたが結局シンプルなワンピースにヒールの低い靴を合わせて出てきた。


「お待たせしました。あの、おかしくないですか?」


「その髪・・・」


「あ、これはルディ様と出かけるというとルイゼナさんが巻いてくれて・・・や、やっぱり目立ちますし変ですよね!直してきます。」


「いやいや、そのままでいいよ。ただいつもと違って、女の子って服や髪型で変わるんだなぁって感心してたんだよ。ハヴェルンに帰ったらもっとそういう格好をすればいいよ。」


「それを言うならルディ様もですよ。いっつも癖毛を整えずに。今日はルイゼナさんが整えてくださったんでしょう?ルディ様ちゃんとしてたらモテモテですよ。勿体無い。」


そこで二人は吹き出した。


「って、ルイゼナさんに言われた?」


「はい、言ってやらなきゃダメだって。下手したらお嫁さんも貰えないって心配してましたよ。」


クスクス笑ながら玄関に向かう、ルイゼナは仮住まいの古参の侍女で婚約の儀の晩もカリンの着付けを手伝ってくれた。息子が三人いてカリンさえよければいずれ嫁に欲しいと零している。ウルリヒの人間でなくて残念だと、余程引き止めたい気配がしたが、さりげなくシュヴァリエ公爵家の侍女だからと話した事がある。内心焦ったが諦めてくれてホッとした。執事がドアを開けいってらっしゃいませと送り出してくれた。


なるだけ地味な馬車を用意してもらい街の近くで降りる。一年中頂上に雪を被った山脈から流れてくる豊かな雪解け水が大きな河になり街の真ん中を流れている。春が来たとはいえまだ肌寒い。この時期から夏の終わりまでは過ごしやすいこの首都フロレンツは観光客や夏には避暑地として賑わう。ハヴェルンの首都アデーレとはまた違った景色に二人ではしゃぎながら歩く。カリンは今日どうしてもフェンリルにお土産を買いたいと張り切っていた。二人が帰る頃には産まれているであろう彼女の初めての出産祝いを選ぶのだそうだ。それなら僕からもなにか贈ろう、以前は失敗したから。雑貨屋やお菓子屋などを回り二人とも目当てのものは手にしたがまだ時間はある。


「カリン、ゴンドラに乗ろうか?」


「あの船ですか?ホントに⁉乗ります!」


ルディも船は初めてだ、カリンも嬉しそうに乗り場に行く。船賃を払いゴンドラに乗り込む。


「お客さん、まだ寒いからねそこの毛布を使うとイイよ。」


気の良さそうな船頭が気を利かせて言ってくれるが一枚しかない。確かに雪解け水の流れる春先のゴンドラは少し寒かった、二人で顔を見合わせ一枚の毛布に包まる。


「今年は春の女神様がこちらの王太子妃様になってくださる、ありがたいことだ。最近暗い話が多かったからねぇ。パレードもあるし、観光客も見込めるってみんな国中喜んでるよ。」


世間話や観光や歴史と話題豊富な船頭との短い船旅は楽しかった。中でもカリンは船頭と奥さんとの馴れ初めや痴話喧嘩の話に楽し気に笑い転げていた。またおいで、と言われ船を後にする。


「ルディ様、今日はありがとうございました。とっても楽しかったです。」


「いや、僕こそ楽しかったよ。ハヴェルンに帰ってからもこうして出かけよう。」


「ホントですか⁈楽しみです。あ、でも留学がまだ終わらないんですよね・・・」


ん⁈しまった、まだ大事なことを言っていなかった。


「ごめんカリン、それがさなんかオブリーさんが急な用が出来たって先に帰るって言うからさ。実は僕もカリン達と一緒の便で帰るつもりなんだ、忙しくて言いそびれてたね。」


「そうなんですかぁ!じゃあ、またあの離れに皆そろうんですね。」


あの離れ、ルディにはあそこが帰る場所だ。


「うん、でもあっちに帰ったらまず就職活動だなぁ。」


「そうですね、卒業されましたものね。でも、魔法省じゃないんですか?」


「うん、そうなるかなと思って最近は魔力のコントロールとか励んでたんだ。」


ふふ、頑張りましたねと笑うカリンと並んで歩いていると声をかけられた。


「お久しぶりでございます。」


一度見たら忘れられないあの日と同じ姿でその人は僕らに微笑んだ。






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