金と銀の輪舞3
ウルリヒ王国王太子の婚約披露が無事に終わった。それから数日して雪が舞い始めたと思うともうあたり一面真っ白に覆われてウルリヒの長い冬が始まった。その雪が降り積もる前にウィレム率いる近衛隊は先にハヴェルンに帰郷し、後は婚礼の儀までのスケジュールに沿って時は流れてゆく。ルディとオブリーは一応留学の身であるから毎日魔法省に詰める。一人賓客扱いとなったカリンを置いて行くのが気になったがどうやら杞憂でヴィルへルミナのところで婚礼の儀に向けての準備を手伝っているらしい。婚礼の後、妃殿下となるヴィルへルミナについてこちらに残るのはほんの僅かな侍女2名でアナスタシアはその二人の教育係として忙しい様だ。二人にとって、幼い頃から姉妹の様にいつもそばにいた関係が離れ離れになる事はさぞや辛いだろうと思えば
「会いたかったら私がいつでもウルリヒを訪ねればいいのよ。それにね、もうミンナ様はジルベール殿下にベッタリで私の出る幕はないのよ。」
と、あっさり言われた。共に残る侍女二人もヴィルへルミナ様からの信用が厚く、安心しているらしい。ジルベールは今までの様に飄々と好き勝手に動き回らず、国政をいずれ支えるユベールに仕事を叩き込まれている。そして、知らない間にうちのツェツィーリアはハヴェルンに帰っていた。
「え!いつの間に⁉」
何でもルディとカリンがバタバタとしている間にこちらの王妃陛下の癒術を終え、ウルリヒの癒術師団に後は任せたと言い残しハヴェルンの癒術団を率いて帰国したらしい。まだ雪の降る前だった。
「で、ルディ様はどうなさいますか?」
ある日の朝魔法省の一室に詰めていた時にオブリーに問われた。そう言われると主に養母の代理でこちらにきて留学はついでだったようなものだ。しかし、ヴィルへルミナの婚儀が終わればすぐ帰るというのも如何なものかと思案していると。思いも寄らない事を告げられる。
「ルディ様、大変申し訳ありませんが私はヴィルへルミナ様の婚儀の後はハヴェルンに帰国しようと思います。いや、帰国します。」
「えっ⁉何か急用でも?」
「ええ、まあ少し私的な問題が出来まして。よろしいですか?」
「あ、はい。でも、僕はどうしようかな。」
「私の事で、まずヴィルへルミナ様にお伺いをたてたところ、こちらの方は心配ないので後は国王陛下に許可を頂ければよいと申されまして。」
「で、オブリーさんは許可を頂いたと。」
「はい。」
「では、アナスタシア様達と帰られるのですか?」
「・・・いや、それがその・・・急ぎの用事でして一足先に・・・」
という会話を交わしたものの身の振り方がまだよくわからないので暫く考えてみると答えておいた。オブリーは、皆より一足先に、カリンは?アナスタシア一行と一緒に帰るんだろうなぁ・・・。そうなると一人で残るのも寂しいような。かといって、賓客扱いとなったカリンに残ってもらうのも悪いし。でも、正直言ってルディもなるべく早くこの地を去りたかった。良くない思い出が多い。腕を伸ばし身体を反らす。
「ん〜。よしっ、帰ろ!」