乙女心は複雑に3
カリンがヴィルへルミナを真っ赤な顔にさせてから数日後、ウルリヒ王家から王太子婚約のお披露目の招待状が仮住まいの三人に届いた。どうやら、カリンの思惑通り二人は仲睦まじい間柄に戻ったようだ。そして更に両国の王太子の彼らへの接近禁止命令が解かれたらしく二人揃ってわざわざ仮住まいをまで訪れて来た。特にカリンに対し何度も詫びの言葉を述べ是非とも婚約披露に参加して欲しいと請われたが、彼女は一介の侍女でありそのような場へ出るドレスの準備もない。すると、それはヴィルへルミナとアナスタシアが準備するからとの事で費用など一切気にせずウルリヒとハヴェルンからの贈り物として受け取って欲しいと言われると従うしかなかった。
成人の儀を終えてないカリンはまだ髪を結い上げる事をしなくていいがそのままというのも味気ない。僕にはさっぱりわからないがオブリーさんから幾つか髪飾りを贈られた。多分これならあの姫君達の選ぶドレスに合うだろうと自信たっぷりだ。それからのカリンは忙しかった、ヴィルへルミナの部屋に赴き採寸に生地選び靴を幾つか選ばれてオブリーの髪飾りも役に立っているらしい、更にダンスの稽古やマナーなど普通の侍女ならば必要のない事も学ばなければならずそうこうしているうちに、あっという間に婚約披露の当日になる。ドレス類一式は仮住まいに届けられ、熟練の侍女が身支度を整えていく。
オブリーからの報告によると、ジルベールはヴィルへルミナに会える許可が出ると直様赴き自分がいかにヴィルへルミナを欲しているかと思いの丈を正面からぶつけたそうだ。その事に感動したヴィルへルミナは再度婚約披露を行う事を条件にジルベール殿下を許し受け入れた。披露の宴まで時間が迫っている。今日はルディがカリンをエスコートする。オブリーはアナスタシアをエスコートするらしく、既に迎えに上がっている。少しして年配の侍女が満足気にカリンを連れてきた。銀の髪によく映える深い朱のベルベットのリボンで何時もより高い位置に髪を結んでいる。ドレスは薄い青色の生地で華美ではなく寧ろ少女らしさを活かした清楚な作りになっていた。露出も避け首元まで襟のある作りにふと思い出した事がある。
「あれ?カリン、指輪はどうしてる?」
すると自分の手をうなじの方へ回し襟の中から何か取り出そうとするので
「え⁉ごめん、もしかしてあの時のまま⁉」
こくんと頷きなおも首すじをまさぐっている。どうやら指先に革紐が引っかかったようで慎重な顔をして今はネックレスの飾りの様になっているそれを襟元に取り出す。
「すみません、うっかりしてました早く言えば良かったですね。えっと、これどうなさいますか?私はどちらでもよろしいですが。」
「いや、僕こそごめん。やっぱり指にはめよう。革紐が切れたらいけないし。」
「ですね。この革紐どうやってはずしましょうか?今は髪を整えていただいたので自分では外しにくいのですが・・・」
「ちょっと待ってね。ん〜、切らなきゃダメか、よし。」
革紐はそう長くなかったので切るしかなく魔法で元の形に戻すと輪になっていた部分が離れた。それをカリンの首からそっと外し紐を抜き取る。それからカリンの手を取りいつもの詠唱と共にはめていきながら気づく。
「ルディ様、石の色が微妙に変わってないですか・・・?」
確かに変わってる、石の一つが暫く一際輝いて見せたがこの色、この石は・・・。
「ルディ様の方はどうなのか見ましょうか?」
僕の石も同じ様に変化していた。
「スゴく綺麗な碧色ですね。でも、なぜでしょう?」
思わず赤くなる・・・これは確かにその時々で変化する石だけど。
「えっとね、指輪も耳飾りも同じ石を使ってるから一緒に変化をしたんだと思う。それで、この石の色の意味は「無事を祈り、信用しています」って意味だよ。多分、例の件の時に本当は変化したんだろうけど今まで指輪の方は僕が失念して指に戻すために触ってなかったからね。」
「無事を祈り、信用しています」
カリンが復唱する。ルディは何だか照れ臭くて顔を見れない。
「つまり、私達はヴィルへルミナ様の仰った通り信頼と親愛があるということでいいですか?すご〜い、ヴィルへルミナ様はこれを見ていないのによくわかりましたね。」
あぁ、ほんと無邪気で良かった。
「だね。さて、じゃあ行こうか?ダンスは練習したの?」
「アナスタシア様が鬼軍曹の様に鍛えて下さいました。なるだけ足を踏んづけないよう頑張ります。」
同じ敷地内だが馬車で移動する間、初めての夜会に少し緊張しているようだった。
「大丈夫?僕から離れちゃだめだからね。」
「へ?あ、はい。絶対離れません!」
そして、馬車を降り腕を組み王宮内に入っていく。場内は魔法師たちにより煌びやかな明かりが灯っていた。カリンはさすがアナスタシアの指導を受けただけあり優雅に歩く。そして二人は広間へと続く廊下を並んで歩いて行った。