乙女心は複雑に2
「恐れながらヴィルへルミナ様。ウルリヒの民は心よりヴィルへルミナ様を歓迎しております。長い冬に閉ざされるこの国にとって、ヴィルへルミナ様は春の女神の様に慕われているのです。どうか、私達の事とは別としてジルベール様と仲直りをしてくださいませ。」
カリンも縋る様に言う。
「ふう〜ん。春の女神ねぇ、そう言われると悪い気はしないわね。」
三人の顔が一瞬明るくなった。
「でもね、私はあの方とは一度婚約破棄したと思っているの。幼い頃から一途に想っていただいているのは嬉しいけれど、国同士の縁談や婚約の決まりなんて紙切れ一枚よ。この前あなたたちを見て思ったのだけど、私に何かあった時にあの方は命懸けで守ってくださるのかしら?」
・・・・・
そうなのだ、ブロワト家取り潰しの際ついでに出てきた反ヴィルへルミナ派は実はヴィルへルミナ本人と第二第三王子が中心となり討伐したと聞いている。
「でも、ジルベール様はヴィルへルミナ様の事がそれはそれは大好きなんですよ。」
あぁ、子どもはいいなぁ・・・とアナスタシアと共にカリンを見る。
「私、眠っている間にいろんな方が見えたのですがジルベール様はいま真剣に国務をされていてヴィルへルミナ様の隣に立つのにふさわしい男性になりたいとお考えです。」
途端にヴィルへルミナは真っ赤になる。
「本当です。アルベリヒ殿下も物凄く反省されていてユベール様のお仕事を手伝っていらっしゃるし、イニャス殿下の近衛に直に稽古をつけています。それもすべてこの後ヴィルへルミナ様がこちらの王太子妃としてなにも心配なく過ごせる様にとの思いでされているのです。ですから、どうかお二人にお会いして下さい。」
嘘だ、嘘だ〜。眠りの最中にそんな事はできない、でもグッジョブ!カリン、とルディは心の中で密かに思う。
「・・・で、でもねカリン。女の意地があるのよ!どんなに頑張っていても私はあなた達の様になりたいの、これだけは譲れないわっ!」
「は?私達みたいにってどういう事ですか?」
「ちょっ・・・誤解を招くような表現はやめて下さいヴィルへルミナ様。」
「え?あら、違うの⁈まさかそんないえいえ、そうねルディ暫く待たないとね。わかるわその気持ち。」
ってどの気持ち⁉
「コホン。とにかく、あなた達には信頼と親愛があるでしょう?言葉にしなくてもわかるような。私も王女に生まれたばっかりに自由な恋愛は諦めてきたの、だからせめて旦那様になる方にはキチンと言葉と態度で示して欲しいのよ。特に今回は政略結婚ではないのよ⁉なのに、なんなのあの呑気さっ!もう私が手中にあると思って安心しすぎよ、今回の事はちょうどいいお灸です。もぉっ!帰るわよアナスタシア。ではまたね。」
首すじまでほんのりと赤く染まってヴィルへルミナは慌てて帰って行った。
「こういうのがあれですか?犬も喰わないとか言う」
「そ、そうみたいだね。」
「ところで、ルディ様は何を待たれてるのですか?」
「え⁉いや、よくわからないなぁ・・・」
「ふーん、大人って面倒ですね。私もいつか好きな人が出来たりしたら、こんな面倒な思いをするのでしょうか?」
カリンが恋・・・そのことを考えるとなんだか胸に違和感を覚えた。
「カリンもいつかあれ?えーと、お嫁さんに行きたいとか思うの?」
「うーん、まだよくわかりません。でも、フェンリルさんを見ていたらいいなぁって思いました。フェンリルさんは旦那さんと、とても仲睦まじくて見ていると私も幸せな気分になるんです。だから、本当に好きな方と結婚できるならヴィルへルミナ様はそろそろお許しになってあげないときっと後悔すると思います。」
ニコニコして話すカリンはまだ11歳だから後4年で青年の儀。その時ルディは22だ・・・と計算しながら、いやいやないからと頭を振って想像を払拭する。それと同時にそれでも・・・あの時感じた様にカリン以上に大事な女性ってできるのかな、と思う。今回の件でちょっと女性恐怖症になってしまったし・・・いやいや、落ち着け。この子は妹のように可愛い侍女だ。それ以上でもそれ以下でもない・・・あ、時に相棒の様になるけどそれも仕事に巻き込む形でだし。うん、大丈夫。自分たちはこのまま変わりない、胸に少しの痛みを感じながらそう考えることにした。