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魔法使いの恋  作者: にしのかなで
七章
35/59

護るべきもの護られるもの

ブランディーヌの事件から既にひと月が経っていた。ここウルリヒ王宮の敷地に建つハヴェルンからの賓客を迎える離れには今日も重い空気が漂っていた。あの日、ブランディーヌは王宮の屋上から身を投げ、下にあった鉄柵に身体を突き刺す形で息絶えた。奇しくもそれは古の魔女ブロワトが処刑された様子に酷似していた。


ブランディーヌが屋上の端に駆け寄った時、魔法師らは止めに走ったがその中で唯一人ブランディーヌが先程までいた方向へと駆け寄った人物がいる。ニーム・ロドリゲス・ガウスだ。彼は、倒れこんだ自分の侍女だけしか目に入らないかのように近付き恐る恐るその細い体を抱きしめる。カリンは国境での時よりも息が細く聞こえた。周囲はブランディーヌに気を取られる中、若い魔法師の叫びが彼と彼女をよく知る者の耳に届く。彼の養母がいつかの時のようにカリンを引き離そうとしても既に青年へと成長した彼は誰にもカリンを触らせなかった。遠まきに見ている両国の王太子に向かいなぜあの場にいたと怒鳴るように問う。あそこにいなければカリンは魔術を例え僅かばかりといえど受けずに済んだ。あの時カリンは何事もなげに「大丈夫」だと言った。しかし本当はあの黒い魔術の欠片を身に受けていた、いくら魔法が通じないとはいえ呪詛はどれほど影響するのだろう・・・。王太子二人は自分たちの犯した過ちの大きさに打ちひしがれていた、そこへ更にアナスタシアと駆け付けたヴィルへルミナからの叱責を受ける。ゆらりとカリンを腕に抱きしめ、この屋上に出てきた場所まで戻るとルディはそこにある魔法陣を使って仮住まいの離れへと飛んだ。


それからのひと月はブロワト家の男爵位返上に城の解体作業。地下から出て来た魔術道具らの処分とウルリヒ魔法省は大忙しだった。ついでに騒ぎに紛れ尻尾を出してきた大物高位貴族に端を発し次々と反ヴィルへルミナ派が押さえられ、幸いにも未来の王太子妃の安全はひとまず確保できた。


そして、仮住まいの離れはそんな外の世界に関係なく日々静まり返っていた。ハヴェルンで話を聞きつけたウィレムが自分の小隊を率い仮住まいの警護をしている。時折誰かが様子を訪ねてくるが皆、暗い表情で帰って行く。窓辺には毎日ヴィルへルミナから届けられる華が生けられ季節も秋が深まろうとしていた。

仮住まいの主の部屋にあるベッドには今日も物言わぬ主とその侍女がピクリとも動かずに手を繋ぎ寄り添って眠っている。まるで呼吸を忘れているようで、ヴィルへルミナから遣わされたアナスタシアとオブリーが時々二人の呼吸を確認し安堵する。そう、あの事件からひと月の間も二人は目覚めることなくこの寝室で静かに体力と魔力を繋いだお互いの手から互いの力を交流し回復するのを待っていた。

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