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魔法使いの恋  作者: にしのかなで
七章
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華の散り際

既に禁断の魔術を使ったブランディーヌに対し魔法師達は、まずその身体から禍々しい力と欲望を抜き去る作業を始めている。カリンは見ていられず近づこうとした。しかし、その身体を後ろからルディに押さえつけられる。


「離して下さい、ルディ様は平気なのですか⁉あれでは、あれでは廃人になってしまう。」


魔法陣の中では国境でのルディ以上に苦しむブランディーヌがいる。落ち着いて周りを見ると両国の王太子も来ていた。


「離して下さい、ルディ様。やる事があります、私にはいまブランディーヌ様よりお護りせねばいけない方が・・・もぉ、来るなと行っても聞かないからっ‼」


緩んだルディの腕からスルリと抜け出し、屋根を飛び交い王太子の元へ行く。二人をかばう様にブランディーヌに背を向けた時、それを狙っていたかの様にブランディーヌの口から一際大きな黒い塊が飛び出しカリンの背中へと吐き出された。皆が息を飲んだ、カリンは膝をつき座り込んでいる。そして、その背を守る様にルディが杖を持ち寸でのところで塊を消した。


「大丈夫か、カリン。」


「勿論です・・・あ、オブリーさんこの話のわからない王太子様方を安全な場所へお願いします。」


辿り着いたばかりのオブリーに二人を頼むと何やら呟き始めた。


「古より目覚めし魔女ブロワト。汝、その身体を再び手に入れんとし罪なき憐れな者の命を命とも思わず利用した事、戦と祝福の女神の名をいただく我・・・」


立ち上がりルディの隣に立つ。


「我が名、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンの名の下に命ずる。その娘の身体を解放し、今一度永い眠りにつかん事を。」


「ふ、ふふふ。無駄よハプトマン、この娘はもう空っぽ私の身体だ。いわれのない罪を着せられ、永きに渡りようやく手にいれたのじゃ。たかだかハプトマンの名を持つからとて妾になにができる?この魔法師らも既に限界ではないか、これからは妾がウルリヒを治めるのじゃ。邪魔者は帰れ‼」


凄まじい波動に魔法師達が吹き飛ばされる。カリンはウルリヒ特有の尖った三角の細長い屋根を飛び回り身体に忍ばせた小刀をブランディーヌ目掛けて投げつけるがどれも擦りもせず、屋上に突き刺さるばかりだ。遂に最後の小刀が振るわれたがやはり無駄だった。しかし、


「下がって‼」


その合図に魔法師らが何とか立ち上がり、動けぬ者は防御魔法を張る。


「何のつもりだハプトマン?」


勝利を疑いもせずにブランディーヌが問いかける。いつの間に帯刀したのかカリンが腰から剣を抜き構えを取る。


「貴女は魔女ブロワトではない。」


「私はブロワトだ。」


「妄想と狂気に満ちたただの娘だ」


「負け惜しみ?」


「ルディ様、力を・・・」


その言葉にブランディーヌの周りを見る、それは単に打ち込まれた刃物ではなく紛れもなく魔法陣だった。


「ブランディーヌ・デ・ブロワト。汝のあるべき姿に還れ」


ルディの言葉と共に魔方陣が光出す、一瞬怯んだその隙を見逃さずにカリンがブランディーヌの懐に飛び出し斬りつけた。断末魔の叫びとはまさにこういう声なのだろうと、他人事の様にしか思えなくなっている


「あ・・・あああ、術が私の術が。」


身体から消え去る魔術に空を掴みながらフラフラとブランディーヌが歩く。


「いや、嫌よ!ただの娘だなんて、私には相応しい場があるのよっ‼返して、私の術を返してっ‼」


フラつきながらもカリンを目掛けて手を伸ばす。


「何よ、その髪にその瞳‼さぞや自慢でしょうね、ルディに可愛いがられて。たかが侍女の分際でっっ‼」


カリンは息が上がっていた、今にも倒れこみたいが何とか立っている。


「ブランディーヌ!責めるなら僕だ、カリンに罪はない。その子に危害を加えるなら僕は何をするかわからない。」


ふらり・・・とルディに向き直ったブランディーヌは確かにあの日の彼女だった。


「治療を受けよう、それからだよブランディーヌ。君だけじゃない皆、なにかが足りないと思いながら生きているんだ。」


ルディの言葉にブランディーヌは一度空を見つめもう一度ルディを見つめた。


「私は償いきれない罪を侵しました。カリンさん、貴女にもごめんなさい。ごめんなさい、ルディ様。でも、私・・・私は」


「貴女の気持ちはルディ様はちゃんとご存知です。」


力尽き、膝をついて剣に縋りながらカリンが続ける。


「だから、癒術を受けて下さい・・・お願いします」


翠の瞳からはポロポロと涙が零れているのだろう、地面にシミを作っていった。


「どうし・・・て?こんなに酷い事をしたのに。なぜあなたの周りは優しい人で溢れているの?私も、その中に入りたかった・・・」


カリンは何か音を聞いた気がしたがもう力尽き剣に縋る事も出来ず倒れこんだ。誰かの泣き声が聞こえた気がする・・・誰だろう?泣かないで、大丈夫だから。意識はスウっと遠のいていった。


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