毒の華
「あら、お二人ともまだ手をつけていらっしゃらないの?わざわざ取り寄せた異国の茶葉ですのよ、冷めないうちに召し上がって下さいな。」
にっこりと微笑みながらお茶を勧められるが、そこへ扉の開く音がし三人が目をやる。
「お帰りなさい、アルフォンス。遅かったけれど大丈夫ですか?王宮の方でなにか?」
「・・・」
アルフォンスはルディを一度見つめ、すぐにオブリーに視線を移した。オブリーは、黙って頷く。それは、辛くともやるべき時だとの合図だと受け止めた。
「ブロワト家から出入りしている業者からヴィルへルミナ様への献上品として先程の茶葉を納品されましたね?」
「ええ、とても良い品ですので。何か?」
アルフォンスはこの部屋に持ち込んだ茶葉をカップに入れる。
「次は私どもが普段使っている茶葉です、そしてこれがヴィルへルミナ様に献上された茶葉。」
3つのカップにそれぞれ茶葉をいれ新しい湯を注ぐ一つ目と三つ目の茶葉がカップの中で弾けた。
「この離れの茶葉に何かしらの魔術及び毒物が入っていた場合この様に弾ける仕掛けになっております。二つ目は、いつもと変わりないですね。」
「・・・」
「何か仰りたいことは?」
「いいえ・・・まさか、取り寄せた茶葉にそんな毒だなんて・・・私は知らなかったのです!どうしましょう、未来の王太子妃様に・・・」
「茶番はもうやめましょう、ブロワト男爵令嬢ブランディーヌ様。私、申し遅れましたがお会いするのは二度目にございます。」
「え・・・」
「その節は手の込んだ品々を選んでいただきありがとうございました。クララさんの埋葬に参列いたしましたのは私。今回ハヴェルン王家より王太子癒術師団特別所属であり、任務はこちらのニーム・ロドリゲス・ガウス様の特別癒術師としてウルリヒに参りました。」
「でも、あの時は女の子・・・」
にこりともせず話を続ける
「はい、本来はハヴェルン王国でガウス様の専属侍女を務めさせて頂いておりますアレクシア・カーテローゼ・ハプトマンと申します。」
「・・・ハプトマン・・・・」
震える声が呟いた、かつて、古の魔女ブロワトの処刑に立ち会った女神の名。
「ブランディーヌ様、今なら全てお認めになることで温情をいただける様両国にお願いしてあります。私と来てくださいますか?」
「な、ぜ?なぜ私が⁈知らなかったのよ茶葉に何か含まれているなんて、それに知っていたらルディに持ってくるわけないじゃないっ!」
カリンが憐れみの表情で見つめる、厚顔無恥なブランディーヌへの怒りのためか髪の色が紅から元の銀の髪に戻っていく。
「そのお目当てのルディ様に秘薬を盛るために今日いらっしゃったのでしょう?」
口調は静かだ、本当に憐れんでいるのだ。
「秘薬ですって⁉・・・あなた、何その髪の色それが本当の姿なのっ‼馬鹿にしてるわ‼」
ブランディーヌは既に立ち上がり叫んでいる、バッグの中から何やら液体の入った小瓶を取り出すとすかさずそれをカリンに向け撒き散らした。
「カリンっ‼」
その声にブランディーヌがルディを睨みつける。
「カリンですって?あなたの大事な侍女は時期に死ぬわよ。あんな私より綺麗な髪の娘なんていらない。私がいればいい、そうでしょ?ルディ。」
液体は確かにカリンに届いたがそれは弾き返され一滴も触れる事はなかった。
「ふふ、忌々しい娘。あなたがダメなら他を当たるわ。」
ブランディーヌは知らぬ間にソファに描いた魔法陣を使い姿を消した。
「まずいっ!居場所がどこなのか⁉」
慌てるオブリーにカリンが言う。
「王宮です。でも人気のある場所には飛ばさせてません。まさか、本当にこんな事までするとは・・・」
既に走り出したカリンをルディが止める。
「どこが出口?」
「・・・王宮の屋上に出るよう細工しておきました。ガウス夫人始め両国の高等魔法魔術師が待機しています、行かせて下さいルディ様。私はあの方をお止めしたいのです・・・!」
「うん、わかってる。行こう、オブリーさんすみません僕じゃ二人で飛ぶのが精一杯です。」
「すぐ追います、お気をつけて。」
カリンの手を取ると二人は魔法陣もなしに移動した。
「全く、二人揃えば最強だ。さて、行きますか。」
二人は屋上の隅に現れた。前触れも魔法陣も無く現れた二人に両国の魔法師達は驚くがすぐにブランディーヌを追い込んだ魔法陣に意識を集中する。