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魔法使いの恋  作者: にしのかなで
序章
3/59

シュヴァリエ家のアナスタシア嬢

国境の街はウルリヒとハヴェルンの文化が入り混じった様な雰囲気があった。両国は友好国で行き来も盛んである。入国してからウルリヒ王家が用意した馬車に乗り替え、途中宿舎に一泊し後は全て馬車の旅になる。


「オブリーさん、今回同行するまで僕あなたが魔法技師だなんて気づきませんでした。なんで教えてくれなかったんです?」


「あ〜、すみません。私がルディ様をお預かりしたのが確か5歳のときでした。あの頃の貴方は魔力に喰われそうになっていてかなり衰弱してましたし。当時私はまだまだ学生の身だったのですが大叔父が離れの執事を勤めていまして、休みの時には歳がまぁ近い事と実家が遠方でしたので奥様のご厚意で離れに帰っていたのです。私は守護と戦術を学んでいましたのでガウス夫人と奥様からの要望で主に守護の立場でお小さい頃は接していました、そのうちルディ様は入学され暫くして私は卒業し大叔父の引退に伴い公爵家に雇用されまして。気づけば12歳でルディ様が屋敷預かりとして戻られた時にはすっかり執事の顔が板に着いてまして、何とな〜く流れでここまで来てしまいましたねぇ。魔力もルディ様は測り知れないほどありましたからご自分のお力のため私に気づかなかったのでしょう。私もルディ様が離れに帰られる頃には殆ど魔法を使う事はありませんでしたし、何せ戦術の方もあるので魔力の気配を隠す事も同時にしていましたから。それに、あえて言う事でもないかな〜っと。」


ルディはオブリーを胡散臭い目で眺める。やっぱりなんか掴みきれない人だ、酷い。人間不信になりそうだ。


「あれ、怒ってます?」


「い〜いえぇぇ、気づかなかった僕も悪いですしぃ。」


「はっは、怒ってるじゃないですか。いや、すみません。それにほら、あの頃はカリンの事もあってバタついてたでしょう?」


「・・・そうでしたね。あの頃は自分の力の制御とカリンの扱いで確かに気を取られてました。」


「可愛い妹分を置いて来て心配でしょう、二年離れますからね。」


アレクシア・カーテローゼ・ハプトマン。皆からはカリンと呼ばれ可愛がられている置いてきたルディ専属の侍女。もうじき11歳になりしっかり者の先輩侍女フェンリルさんに仕込まれて離れの仕事はすっかりなんでもこなす様になった。彼が国家試験やら留学の用意やらで忙しくしている間に本邸のお嬢様から兄君仕込みの体術や馬術まで習っていたらしい。公爵令嬢アナスタシア曰く


「あら、フェンリルも結婚するしこれからは一人で街に買い出しなんかに出る事も増えるでしょう?あんな可愛い娘が一人歩きしていたら危ないじゃない。あなたもオブリーもあの子を置いて行くんだから自分の身を護る術は学んでおいて損はないと思わない?だって、あなた達が置いて行くんだから。」


と、オブリーと二人で女の子なんだから危ない事はあんまり教えない様にと抗議に行ったら責められる様に却って叱られた。しかも、


「筋がいいのよあの子。私ももうすぐ王女様方からお暇をいただくし、そうなれば本格的に鍛えておくわ。二年後、楽しみね。」


と、まだ更に何か仕込む様子でしかもチクチクと二年、二年と嫌味を言われ胃が痛くなっていた。実際のところ、この留学はアナスタシアも行きたかったのだ。世間ではシュヴァリエ家の宝石だのなんだのと大切に育てれた深窓の令嬢だと評判の高い公爵家の一人娘であるお嬢様は上には二人の兄、二つ下に弟が一人と男兄弟に囲まれ育ち兄からは乗馬・剣術・体術とあらゆる事を真似して学び取り更には魔力持ちとして生まれた為7歳から高位貴族としては珍しく魔法魔術技師学校の寄宿舎に入り癒術師としての才能を開花させ優秀な成績を修めるも10歳で屋敷に連れ戻され公爵家令嬢としての教育を施され15歳で社交界デビューするや、世間の注目を浴び各方面からの縁談の話が舞い込むがそれをよそにすぐに同い年のヴィルへルミナ王女とその下に生まれた双子の王女達の筆頭侍女として王宮勤めを始める。


ところが、この度めでたくも王女ヴィルへルミナの婚約が隣国第一王子ジルベール殿下と整いそれを機に王宮勤めを辞する事にした。その事に今回の留学も絡んでいるのだが王女殿下を身近で見て来た上、両親の反対を説得しなんとか国家魔法癒師第3級まで取得しており現在も実力は第1級に相当するという自負もあり、この留学に自分も入れてもらえないかと両親はもとより、魔法省へも食い下がったがその高貴な身分と元来の無鉄砲さが災いし願いは叶わず現在は実家にてあちこちからの縁談話に辟易しつつ、庶民であるカリンを鍛えいずれ果たせなかった自身の夢を委ねる事に全力を注ぐ事にしているらしい。


「それにしても、アナスタシア様なら国内はおろか国外の王侯貴族に嫁ぐ事も可能でしょうに。結婚するつもりが全く見えないんですが。」


「お嬢様は、ご自身が魔力持ちであることで子孫を成す事ができないのではないかというのが気になっているのではないでしょうかね。確かにあの方は身分・容姿共に魅力的でしょう。ま、性格に少々難ありなのが残念ですが見事な猫を被られますからね。しかし、縁談の殆どはそんな本当のお嬢様ではなく、シュヴァリエ家の令嬢に価値を見出しています。魔力持ちなのも公然の事ですし、それが子を成す事に不利な事を承知で申し込んでくる。つまり、シュヴァリエ家との縁戚さえ出来ればあとは夫となる方は他の女性と子を成せばよいのです。最初から家名目当ての縁談に賢いお嬢様が首を縦に降るわけがありませんよ。その点は公爵夫妻も理解しておられ身分などは問わないから一生独りで過ごす事だけは可愛い娘に避けて欲しいといったところらしいですね。それに、お嬢様は案外ロマンチストで愛ある結婚を望まれていますからあれで。」


「へぇ〜、随分お詳しいんですね。」


「これでも執事ですので本邸の情報もさりげなく仕入れているんですよ。それに私はあの方の上の兄君ディルク様と同い年ですしお小さい頃から離れの大叔父の元に行く度に顔を合わせていますしね。兄君も近頃はやっと妹君の幸せを願ってか近衛隊の同期や後輩などを屋敷に招いておられるようですが、お嬢様の婚礼が決まるのはまだまだ先の様に思えますね。」

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