入城
国境で時間を取られたせいで、ハヴェルン一行の到着は随分と遅れてしまった。
先触れを出していたお陰で、ウルリヒ王家は心配しながらもジッと待っていたようだ。ルディとカリンは馬車を降りるとアルベリヒ殿下から仮住まいの離れで待機するよう命ぜられた。国境での事はアルべリヒや、二人以外の当事者から説明をしてくれるらしい。有難くその通りにさせて頂く事にした。馬車で休んだとはいえまだ、体が疲れている。カリンの入城手続きを行ない離れではまた客人扱いの手続きを行う。侍女が離れの客室の準備をしている間二人で向かい合わせてグッタリと客間のソファに座り込む。部屋の準備はすぐにでき荷物を運び込み湯浴みをしてこざっぱりとしたドレスに着替えカリンが客間に帰って来るまでの間に、ルディも湯浴みをし着替えていた。すると侍女が客人の来訪を伝えに来る。誰だろうと尋ねたらブロワト家令嬢だと告げられ心臓が跳ね上がる。思案しているとカリンもその話を聞き二人で相談したが、カリンの存在は伏せ少しの時間ならと面会を許可する。扉をノックし入室を許可すると心なしか以前あった時よりも大人の雰囲気で色合いは落ち着いているが胸元がやけに強調されたドレスで現れた。とりあえずソファに掛ける事を勧めると大人しく座り、突然の来訪の無礼を詫びてきた。
そして、その見事な空色の瞳で僕を見つめると我慢ならないといった様子で涙を零し告げたのは先日会った侍女のクララ嬢が急に亡くなったという話だ。残念ながら僕には惚れ薬の効果もなく、クララ嬢の死も今日の身の上に起きた事に関係しているのだろうと思ったがここは手の内を明かせない。僕はブランディーヌの隣に座り直し同情の言葉をかけた。まだ,年若い年齢で何が起こったのか。先日の土産物を選んで貰った時の事が忘れられないなどと言い、泣き崩れ僕に身を預けるブランディーヌを嫌悪感を抱きながらも抱きしめ励ました。それからあまり長居されるのも嫌なので、自分はハヴェルン一行のお供をしたこと。この後はその事で色々と忙しくなる事を伝えて、名残惜しいが時間がない事を告げる。素直にそれに従い、別れ際に例の土産物の事を聞いてきた。まさかまだここにあるとは話せないので、店に取りに戻り手紙を添え送ったと告げる。今頃はハヴェルンに届いているのではないかと告げると大層喜んでお気に召したかお聞きしたいと言い残し去っ行った。また、頭痛がしてきたがすぐにカリンがやってきて部屋の空気を入れ替える。何でもブランディーヌの香水にまで惚れ薬が仕込まれていて、会えば会うほどその魔術に取り込まれるだろうと言う。しかも、的確にルディだけに効果があるようだ。
「よっぽどルディ様がお好きなんでしょうか?」
小首を傾げて呟く。
「そこがはっきりとわからないんですよね。確実にルディ様しか狙ってないですし、ヴィルへルミナ様に害を及ぼすならば既にこちら側でジルベール殿下に何らかの接触を図れば魔力持ちでない殿下にはもっと簡単に効果がが出ますし。うーん、わかりませんねぇ。」
いやぁでもなんか違うんじゃない?と、土産物の話をする。
「まぁ、そんな手の込んだことを⁈」
処分するとその場ですぐに相手にバレる可能性があるため取っておいたストールらを見せる。
「まあ素敵‼でも確かによろしくない魔術の匂いがしますね。こんな物身につけていたらフェンリルさんとお腹の赤ちゃんが大変な事になるところでしたわ。」
品々を見て頬を膨らませ憤慨している。自分宛の贈り物にも魔術が施されているのに、それよりも何の力もないフェンリルを狙った事が許せないらしい。そこへオブリーが帰ってきた。今日の出来事は粗方報告したが、時間も遅いので明日以降またルディらも交えて話をするという事だ。アルベリヒとヴィルへルミナにはハヴェルンからの一行が片時も離れないようにし更にこちらの魔法省も動いているらしい。ルディはブランディーヌが訪ねて来た事、クララ嬢が亡くなったらしいという事を話した。
「えっ⁈亡くなったんですか。本当かな。」
「はあ、亡骸も見てないですし。命まで落とさずとも、呪いをかけたのがクララなら何かしら大きな打撃を受けはしたでしょうね。」
「葬儀は?」
「何も聞いてません。参列してみましょうか?」
「それはダメです。あの方に必要以上に近付くのは危険です。アレは、まだ効力がある気配でした。これ以上関わるのは・・・」
そこまで反対の意を唱えたカリンがふと黙って自分宛の贈り物を見た。
「私が行きます。これを身につけて行けば向こうは動揺するはずです。」
「それこそダメだよ!君が危ないじゃないかどんな魔術がかかっているかわからないんだよ⁈」
「あの、私どんな魔法も跳ね返すらしいんです。この髪のお陰で。」
明かりの下、湯浴み後で更に輝く銀の髪を触りながら言う。
「それと、魔力持ちではないけど私の能力はやはり魔力が通じない様なんです。私に影響を及ぼすならルディ様の力しかありません。繋がってますから。」
馬車の中での事を思い出し思わす赤くなってしまったが、クッションに顔を埋めてごまかした。