王宮への道程
完全に魔力の統制が取れなくなり身体もふらつく役立たずな身体となっているルディは、恐れ多くもハヴェルン王家の馬車に乗せられ移動する事になった。そして必要以上の能力を使わなければならなかったカリンも同じ馬車に乗せられている。こちらはルディ以上に辛そうで横たわり苦しそうな息遣いをして目を閉じているその隣では養母が懸命に癒術を試みているがなかなかうまく作用しないらしい。
「この子は魔力持ちでもないし、かといって普通の子どもじゃないからね。」
遂にお手上げだと、カリンから身体を離したツェツィーリアが次にとんでもないことを言った。
「あんた、まだ調子悪いんだろう?遠慮せずそこに横になりなさい。」
王家の、更に旅行用の馬車の中はちょっとした部屋の様に広い。ツェツィーリアの言った「そこ」と言うのはカリンの隣だ。
「いやいや、養母さんそれは流石に・・・」
「いいから黙って言う事を聞く!」
無理やり隣り合わせに寝かされて間近で見ればかなり顔色が悪いのがわかる。
「いいかい?あたしはとりあえずお前を回復させる。お前はカリンの手を取って、ほら早くっ。そうそう。で、その繋いだ手からお前の魔力をカリンに注ぐんだよ、わかった?」
「あ〜、僕が通り道にならないと回復しないんですね。」
「そうなんだよ。さっきお前の術を解いた時はあれお前の魔力を吸い取って使ってたからね。」
二人に上掛けを掛けて回復魔法の準備をしながらあの時の話を聞かされる。
「オブリーからお前が得体のしれない薬を飲まされたり、フェンリルとカリンにまで呪いをかけようとされてたから、かなりまずい事になると思うって連絡が来る前からアルベリヒ様がカリンに魔力の使い方を教えといた方がいいって仰るんで離宮に連れて行って色々教えたんだけどさ、当たり前だけど、これが何にも使えないんだよねぇ・・・。そしたらアナスタシア様が指輪を見てお前の魔力を引っ張り出して使う事はできるんじゃないかって。確かにあの子はお前の魔力を制御できるからそれを自分に繋げて使う事は、聞いた事はないけどなんだかできそうだと。で、いろいろ三人で研究して結局教えられたのは魔法陣の描き方と一応詠唱なんかなんだけど。」
「あの魔法陣、僕らが使ってるのと微妙に違ってなかったですか?」
「そーうなんだよねぇ。あの子にどう教えてもさ、どの魔法もマトモに発動しなくって。こっちも手を焼いてたんだけどそのうちあの子、自分で手を加えて何でも自己流にして使う様になっちゃって。ま、魔法技師じゃないから仕方ないんだけど驚いたわ〜。そうそう、あんた手紙貰ったでしょ?あれの仕掛けもあの子が研究棟の本で見たのを見様見真似でやったんですけどって、一回見せに来たのよ。あのあれ!薄い飴みたいなのあれはフェンリルと二人で離れの台所で試行錯誤して、できた物にやっぱり自己流の魔法・・・だかなんなんだかわかんないけど折混ぜて、あたしも食べたけどこの才能は凄いね。」
「それ、僕がまだアデーレにいた頃じゃないですか。全然気づかなかった、そんな事してたなんて・・・あ!そうだ、あれ。どういうわけですか?アルベリヒ殿下。全然お元気じゃないですか。」
「あぁ、身体は確かに一時弱られてたからまだ今の王妃様がいらっしゃる前に心配した国王陛下が若くして亡くなられた王妃様の事もあって、大層ご心配されてね、当時の王宮は殿下のお身体の調子もあるし、新しい王妃をってことでも陛下をせっついてさ。その事も殿下を煩わすから亡くなられた王妃が静養されていた離宮に匿ったんだよ。そのうちに陛下も今の王妃様に出会われて亡くなられてから間も空いてたしね、離宮にある日陛下が来られてその話をしたらアルベリヒ様は喜んでたよ、父上もお寂しくなくなるって。そのうちに、表立ってないけど兄妹も出来て結構行き来はあるんだよ。」
「そうですか、ならよかった。世間ではアルベリヒ殿下とオーランド殿下の派閥に分かれてるって話もありますし。実際王宮にはオーランド様しかおられないし。」
「面倒臭い事は弟に任せて自分は優雅に遊んで暮らす、世間には病弱としておく様に。全く勝手な兄君に振り回されるオーランド殿下も可哀想なもんだよ。それでもって、ちゃんと王太子らしく国の全貌はそれなりに掴んでるからね。」
「はぁ、曲者ですね。」
「カリンの事もちゃんと知っててさ、特訓なら離宮を使えって。しかもかなり気に入った様子で自分の侍女に欲しいからくれって。犬猫じゃないっつーの。そこはアナスタシア様が激怒して治まったんだけどね・・・あら、寝ちゃった?ルディ?」
ルディは養母の話を子守歌に侍女カリンの手をしっかりと握り向き合って寄り添う様に眠り始めた。馬車の揺れ具合も心地いいのだろう、カリンの様子を伺うと苦しげだった息遣いがスヤスヤと寝息をたてている。ルディに握られた手にある指輪とルディの耳飾りがぼんやりと光を放っている。この二人にはきっと他の者にはいや、本人達にも理解出来ない何かがあるのだろうと、ガウス夫人は両手を二人の繋がった手の上にかざす。
「・・・ふーん、わからないねぇ・・・」
感じ取ったのは二つの力が交流していることだった。ルディには確かにカリンに力を流す様言った。しかし、今の状態は二人の力がお互いを行き来している。
「まぁ、世の中不思議だらけだからこんなこともあるわ。」
車窓から外を見ると随分都の中心部に来ている様だ。ぐっすりと眠る二人を微笑みを浮かべて見つめる。ヴィルへルミナの言う「伏魔殿」。これから婚礼の儀までなにが起きるかわからない。ただ、この二人の力が必要だと言うことだけは確かだから。今だけは、
「ゆっくりお休み」
予定が遅れたお陰で陽が暮れかけている車窓からのオレンジ色の陽射しを受けながら束の間の休息にガウス夫人も身を委ねた。