決意
なんなんだ⁉
あいつは幼女趣味かっ⁈
いや、確かにあれはあと数年すればスゴイ事になる、うん。あれは美人になるな。
しかし・・・犯罪じゃないか⁈
「イニャス殿下、お心の声が丸聞こえですわよ。」
クスクス笑いながら注意を受ける。
「あ、これは失礼致しました王女殿下。」
ルディの意識が回復した事により外で待機していた両国の近衛兵達は慌ただしく準備を始めている。あと半刻も経てば出発できるだろう。それを待つ間、訳あって癒術を施されているハヴェルンの守護魔法師オブリーに代わりヴィルへルミナ王女とアルベリヒ王太子の側に付き警護をしている。
「私もあれはどうかと思う、その点ではイニャス王子に同意だな。」
「兄上、あの二人は兄妹のようなものですよ。二人ともお互いを大事に思っていますがそれ以上のことはありません。ルディは幼女趣味かなんかではありません!」
「そうかぁ?私は二人が一緒にいるのを見るのは初めてだが、お似合いだと思うぞ。今のうちに話を進めよう。」
「先走り過ぎです。それより,オブリーは大丈夫かしら・・・」
イニャスの頭に恐ろしいほどの勢いで攻防を繰り返す二人の姿が蘇る。
「あの、あのお二人はどういったご関係で?」
「あれで女性の方はハヴェルン王国三大公爵家の一つシュヴァリエ公爵家令嬢アナスタシアだ。幼い時から男ばかりの兄弟に囲まれ外では猫を被っているがアレが本性だ。魔力持ちに生まれたため私の妃候補からは早くに外れたが、正解だな。私もあそこ迄お転婆娘は面倒見きれん、せいぜいオブリー辺りが適任だろう。あれに魔法を教え込んだのも彼奴だしな。しかし、惜しい娘だな公爵家に生まれなければ間違いなく有能な特別国家魔法魔術師になれる器があるんだがなぁ。公爵家が許してくれんからなぁ・・・。」
「はあ〜、本当に余計な能力さえなければ今頃は兄上と・・・」
「だから私はアレは嫌だって。」
「申し訳ありませんわね、大層なお転婆娘でっ‼」
「おっ、着替えたのか何だソレいつの間に近衛隊に入隊した。」
先程までの王女付き侍女の服装から簡素な近衛隊服に着替えている。
「アナスタシア殿、騎乗警護は十分人数が足りています!どうぞ王女殿下の侍女として馬車でお越し下さいませ。」
全くなんなんだ、この国の人間は・・・
「カリンにあそこ迄させておいて、更に後方支援をさせるなどできませんわ。ですから私が後方からしっかりと入城迄お護りいたします。」
「ええぇ、シア!貴女また婚期を逃すわよ!」
「ちょっ、ミンナ様なんてことを。こちらは幸い国外ですのでどんな風に見られてもいいんです。」
「いや、でもですねアナスタシア殿。我が国にまでシュヴァリエ公爵令嬢の噂は届いています、期待している貴族の子息もいるのですよ。ここはおとなしく・・・」
「失礼ながらイニャス殿下、それは無理難題でございます。一度決めたら頑として考えを変えない。そういうお方です、このご令嬢は。さて、皆様方隊列の準備が整いました。大変お待たせいたしましたがこれよりウルリヒ王宮へ向かいましょう。」
オブリーが入って来たが若干疲れた様子が・・・癒術を施されたはずの顔に青痣が残ってるぞ大丈夫か?
「ははっ、派手にやられたなオブリー。色男が台無しだ。」
アルベリヒが手を叩いて喜ぶ。
「流石にこちらの方は一国の王太子に喧嘩を売る考えはないようで、その分私一人に怒りの鉾先が向いたのですよ!あれ本気の攻撃魔法でしたからね、下手したら死んでますよ。」
「あたりまえです、私の実家の大切な侍女と屋敷預りの国家魔法魔術師を危険な目に合せたのですから。あの子達は私にとっては家族同然、その家族にあの様な苦しい仕打ちがあったのです。更に全て処理する様指示された例のモノがあの様な形で残っていたとは・・・許される事ではありませんわ。お陰でカリンは自害まで決行しようと・・・アルベリヒ様!今後は王太子というお立場をしっかりと認識なさってその行動に責任をお持ち下さいませ。次は殿下であろうと許しませんからねっ‼」
そう言い放つとシュヴァリエの宝石は颯爽と立ち去った。
「だから私は反対したのに・・・」
溜息をつきながら頭を抱えて守護の称号を持つ男は続いて外へ向かった。
「さて、では我々も行こうか。ヴィルへルミナ、今一度確認するぞ国境でこれだけの事が起きたのだ。ここより一歩前へ進めばお前は帰る事は叶わぬ。鬼が出るか蛇がでるか、これは予想を上回る敵陣に一人向かうも同じ事。今なら・・・まだ国許へ帰る正当な理由もある。それでも行くか?」
イニャスのいる場でこの様な事を話すという事はウルリヒに喧嘩を売るに等しい。しかし、イニャスにはあの出来事を見聞きしている以上なにも言えなかった。ヴィルへルミナは暫く兄を見上げていたが不敵に微笑むと立ち上がった。
「ご心配ありがとうございます兄上。ですが、私は予定通りジルベール様の待つウルリヒに参ります。鬼が出ようが蛇が出ようが、私を受け入れたウルリヒ国民の期待を裏切るわけにいけません。また、私に反旗を翻す者達には必ずや後悔させて見せましょう。このヴィルへルミナ・ダニエラ・プラン・デアを敵に回した事を。私とて可愛がっているカリンにあの様な真似をさせた相手は許せません。」
イニャスはまた胃の辺りが重くなってきた。ひょっとして大変な王女を花嫁に迎えるのではないか・・・この先、婚礼の儀までになにが起きるのかを想像するのも頭が拒否をする。
「よく言った!それでこそ我が妹。安心しろ婚礼の儀までは我等もそなたを護る。必ずやウルリヒの地下に巣喰う悪の種を間引いていこうではないか、な?イニャス王子。」
「イニャス殿下、これからも何卒宜しくお願い致しますわ。では、参りましょうか伏魔殿へ。」
「ははっ、お前本当に怒っているなぁ。ジルベールは尻に敷かれそうだ。」
恐ろしい・・・でも、なにも言えません兄上達‼ハヴェルンだけは敵に回してはいけない。そう子々孫々に伝えようと密かに思ったウルリヒ第三王子であった。