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魔法使いの恋  作者: にしのかなで
四章
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突き落とされた魔法使い3

「コレは確かに私が術を解きましたが、高等癒術師達あってこその解術でした。・・・しかし、全く全部消して下さいと言っておいたのに。」


最後の方は小声でブツブツと文句を呟いていた。


「ハプトマン、私は貴賓室へ入れるか?」


「はい、もう大丈夫でございます。どうぞお入り下さいませ。」


にっこりと微笑みながら促す娘の顔を見て、あぁ、これが例の置いて来た侍女かと気づく。貴賓室ではソファに寝かされたルディが王太子と何事が会話をしている。イニャスが入って来たことに気づき癒術師らが平伏し出迎えた。


「ウルリヒ第三王子イニャスだ。いま、ハプトマンから話を聞いた。皆ご苦労であった、疲れているだろうからもう少し出立は遅らせる。ルディの様子を見てもよいだろうか?」


ガウス夫人が答える。


「イニャス殿下におかれましては、この度のハヴェルンからの一行の為に近衛隊を率いておいでいただいた上にご説明もなくお待たせいたしまして大変失礼致しました。私の養子であるロドリゲス・ガウスは先程の意識が回復しました。大まかな説明は先程のハプトマンから説明がありました通りでございます。体力と魔力を相当消費致しております故、これより先の王家後方護衛役は私とハプトマンで務めさせていただきます。ロドリゲス、起き上がれますか?」


オブリーが背中にクッションを幾つか差し込みかろうじて寝たまま王子に顔を会わせるのは避けられた。歳が同じで共にジルベールから可愛がられているという事もあり、二人は割と親しい仲であった。その魔法使いがこれほどの打撃を受けている。イニャスは背中に嫌な汗をかいていた。


「ルディ、具合はどうだ?」


「はい、こんな姿で申し訳ありません殿下。養母始め癒術師達のお陰で随分と楽になりました。じきにここを立てます。」


「無理はするな、お前に何かあれば俺は兄上に殺される。」


「そうだルディ。ジルベールなど待たせておけば良い、しっかり休め。」


両国の王子にそう言われても、これ以上入城が遅れれば僕がジルベール様に殺される・・・。


「あ・・・」


「ん?なんだオブリー。」


「いえ、控えの間から殺気が二つ・・・様子を見て来ます。私も殺されるかも・・・」


オブリーが隣室に入り扉を閉めた後、何事か騒音と怒鳴り声が聞こえた。しかも、女性の。


「あぁ、しまった。バレたか、私もまずいな。」


アルベリヒも少し青い顔になる。次の瞬間、オブリーが閉めたドアが勢いよく開いたと思えばオブリーが吹き飛ばされて来た。体制を立て直す間もなくアナスタシアが杖を振るい容赦なく攻撃魔法を仕掛けてくる。


「貴方は‼一体なんの為にあの子の側について行かせたかわかってないでしょうっっ‼」


オブリーとアナスタシアの攻防は見物ではあったが、その後ろから静かな怒りを身に纏いアルベリヒ王太子に近づく少女の迫力に一同は思わず身を引いた。手には例の小瓶が握られている。


「アルベリヒ王太子殿下に申し上げます。私はこの危険な代物をす・べ・て、消滅させる必要があると申し上げました。また、ハヴェルン王国王太子である殿下に何事かあればこのアレクシアの命だけでは足りぬので何卒コレに近づかないようにとお願い致しました。しかし、先程控えの間にてこの小瓶を見つけ更にオブリーさんが嫌がるのを根拠なく大丈夫だとその御手に取られたとのこと。」


そこでカリンは顔を上げた。


(あ、凄く怒っている・・・っ!)


付き合いの長いルディにはその怒りが半端ない事が解った。しかも、王太子相手に・・・え、まずいよカリン。相手がまずいってっっ‼しかし、次の言葉に王太子が凍りつく。


「申し訳ありません・・・ガウス夫人及び高等癒術師の方々。あれほどお力を貸していただいたのに、まさか・・・まさかコレがまだ残っていたとは。このハプトマン一生の不覚でございます。気づかなければ危うく王太子殿下、ヴィルへルミナ王女殿下まで害成すところでありました。この不祥事は、私一人の責任です。かくなる上は、皆様。お目汚しになりますが、アレクシア・カーテローゼ・ハプトマンこの命を持って償わせて頂きます・・・!」


いつどこから出したのか銀色に光る小刀を自分の首筋に置き止める間もなく刃を引いた。


「カリンっっ‼待て、早まるなっっ‼」


咄嗟に近くにいた癒術師が腕を取ったため傷は深くなさそうだ。カリンの足元にはアルベリヒ殿下が平伏してい・・・る?一国の王太子が一介の侍女に⁉


「すまん、すまなかった。しかし、事態は深刻故イニャス王子にも見せた方がよいかと思い」


「オブリーさんの反対を押し切り回収させ手に取った」


「〜っ、そうだ、その通りだ。許せ、許してくれ!」


白い首筋に紅い線が走り僅かだが血が流れ落ちている。癒術師が治療をしようと近づくが何故かカリンの周りに結界があるように弾かれて手当もできない。


「王太子殿下、コレはただの魔術とは違うのです。何より、我らはヴィルへルミナ王女殿下をウルリヒ王宮へ無事入城させる勤めがあります。その為にハヴェルンから長い旅を人も馬もその為に動いて来たのです。それを・・・それを殿下の興味本位でもし王女殿下にまで何かあればどれだけのクビが飛ぶかお考えでしたかっ⁈」


王太子殿下は一瞬、思考が止まった様子だったがすぐに先程よりも更に真摯に謝罪をした。


「・・・すまぬ。私の見解が甘かった。久方ぶりの外出で少しはしゃいでしまった・・・お前の言う通り、アレは研究に使おうと密かに考えていたのだ。それが、近衛達やましてヴィルへルミナに害を及ぼす事に繋がるのはすぐにわかる事なのにな・・・。なぁ,カーテローゼ。カリン、その結界を解き許してくれ、もう二度とバカな事はしない。この場で誓う、だから手当をさせてくれないか?」


「・・・承知・・・致しました。次は本当に許しませんよ、あとこの結界?無意識にやっているので、その・・・解けないんです。」


全員が唖然としてカリンを見つめた。養母はまるで魔力が暴走したルディを目の前にした養父の様に頭を抱えている。


「・・・っぷ」


思わず吹き出した、そして自分の元にカリンを呼ぶ。膨れっ面でジワリと近づいてくる。


「なんですか、笑うなんて。大体ルディ様のせいですよ、私帰ったらきっと不敬罪で処刑されます。」


「・・・カリン、痛い?」


それまで怒っていた顔が途端にくしゃりとなり


「い・・痛、痛いですぅ〜」


そういうと涙がポロポロ零れた。ルディは身体を起こしそっとカリンの結界に手を入れる。やはり僕には効かない様だ。安心して首筋に手をやり癒術を施す。怖かったろうに・・・こんなことまでして、いや。させたのは僕だ。


「カリン、僕がマトモじゃない時にもう一人で無茶するんじゃないよ。」


傷が消えた、それから結界も。


「ルディ様がさせるんですっ!私は大人しく離れで待っていたのにぃ〜」


僕の薄っぺらい胸板をポカポカと泣きながら叩く専属侍女を受け止め小さな子をあやすように背中をさする。


「ご、ご無事でよかったです。皆さん心配してましたっ」


「うん、うん。僕からもごめん。心配かけて、本当にごめんあと助けてくれてありがとう。」


「〜っ、お留守の間に、いっ、一生懸命練習したんです。アナスタシア様とガウス夫人と王太子様が御教授下さいました、わた・・私には能力の使い方などわかりませんので・・・」


それはそうだろう。それにしてもこの短期間でよくこれだけ成長した・・・。


「うん。その話はさ、今の僕とオブリーさんの住んでるとこに着いたら聞くよ。君、本当は僕と同じくらい疲れてるだろう?」


「はい、すみません。では、後程。」


そういうと涙のスジが残る顔で笑って部屋を出て行った。


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