お食事のお礼は
「はあ〜、幸せ。ね?クララ。」
「はい、憧れのパンケーキを口にできてクララは幸せ者です。」
「ルディ、今日はありがとうございました。誰かに贈り物を選ぶのはとても楽しゅうございましたわ。」
「いいえ、こちらこそ。お陰様でハヴェルンへの送付も出来ましたし、ありがとうございました。」
「今度はこちらが何かお礼をさせていただきますわね。」
「いや、そんなお気になさらず。」
三人が話しながら歩いていると出会った場所に戻ってきた、つい先ほどその場所に馬車が止まったばかりだ。迎えが来たのだろう。
「では、私達はこれで。また、お会いしましょう。」
にこやかに微笑みながら馬車に乗り込み手を振る。去ってゆく馬車見送り、三人で行ったのセティの店まで戻る。店主の女主人に先程の品に手紙を入れて送りたいので一度持って帰りたいがまだ店にあるか、と尋ねると丁度配達業者が来たところで回収に間に合った。品物を受け取ると礼をいい手間をかけさせたチップを置いて店を出た。陽が暮れかけて来た街中は食堂や酒場が賑わってきている。歩きながら考える。
なぜ、出会ったのか。
なぜ、買い物を手伝ってくれたのか。
別れ際のあの可愛らしい微笑みを思い返しながら、ルディはこれが間違いであればいいのにと願う。正直、初めて会った時には少しときめいた。その後の会話やダンスも楽しかった。自分は、多分彼女に恋をしたのだろう。今も今日の彼女の様子が頭から離れない。
だから、わからない。なにせ誰かを特別に思う事などいままでなかった。彼女の手を取りまたダンスを踊れたらどんなにいい気分だろう・・・。
「ただいま帰りました。」
「お帰りなさいませ。土産物は見つかりましたか?」
「ええ、途中ブロワト男爵家のブランディーヌ嬢に会いまして。侍女を連れて買い物に来たそうで僕の用事を話したらさすが女性ですね。あれでもないこれでもないと、我が事の様に選んでくれました。お陰で助かりましたよ。」
「その包みですか?店から送らなかったのですか。」
「はい。最初は頼んだのですが、ブランディーヌと別れてから思いついた事があり寸でのところで回収できました。オブリーさんの意見も聞きたくて。」
「え、女性が選んでくれたんでしょう?間違いないですよ、まぁ折角ですから見せていただきましょうか?」
丁寧に包まれた包装を破かない様に紐解く。オブリーの顔つきはもう変わっている。
「僕、ブランディーヌに初めて会ってから実はずっと気になっていたんです。」
更に個別に包まれた包装を解きながら話を続ける。
「もしかして、これが恋というモノなのかなと。そしたら今日偶然出会って、また楽しかったんですよ。だからなんでかなって、わからないんです。別れ際のあの笑顔もなんとも愛らしいあの子が・・・あ、そうそう。別れる前にお礼をしたいと言ったら評判の店に連れて行ってくれました。次はまた食事のお礼をしてくれるそうですよ。」
一度も顔を上げずにそこまで淡々と話し終えると、テーブルの上には今日選んでくれた品が広げられていた。一息ついて顔を上げる。
「どう思いますか?」
確かに二人が選んだストールと手袋等が並んでいるそして何故か僕は選んでいないが女性が喜びそうな細かい細工の花をあしらった手彫りのブローチがそれぞれに付属されていた。店のサービスにしては品が良すぎる、一級品の魔法石を使っているのだ。そして、その石が意味するものは・・・
「見事な呪詛、ですね。」
そう、それは石自体に相手を呪う意味があり原則魔法魔術師でも滅多に使ってはいけない代物である。その石に見事な細工が施されているがこれがまた芸が細かくその模した花はやはり毒草に咲く美しい花で二人が選んだストールにはそれぞれ身につければつけるほど身体を蝕む呪いがかけられている。カリンにと選んだ手袋には裾の部分に見事なレース編みが施されているがこちらも一見わからない様に呪いの呪文を編み込んでいる。
「すごいでしょう?」
「お見事、と直接言いたいですね。」
苦虫を潰した様な不快な表情を隠しもせずにオブリーが言う。
「知らずにここまで揃えられますか?」
「無理でしょう。故意以外何物でもない。っ、忌々しい。」
「でね、僕食事をご馳走したと言ったでしょう?僕は紅茶を頼んだだけなんですが、変なんですよ。」
「というと?」
「ブランディーヌが頭から離れないんです。夜会の時もそうでした。」
「まさか・・・」
「帰り道に調べたんですが、今日の店。二つともブロワト家から資金が出てます。」
あれ?目が霞む・・・
「ルディ様、ソファに横になってください。」
「オ・・ブリー、さ・・ん。これ、は内密・・・」
そこで意識が途切れた。
夢の中ではブランディーヌが可愛らしくルディを呼ぶ。まさか、なんの意図があってのことだ。ブランディーヌ・デ・ブロワト・・・。