再会
ヴィルへルミナ王女のウルリヒ入りが近くなるにつれ何故か身の回りが慌ただしくなってきていたが、今のうちに休暇を取っておかないとこの先はもっと気を張ることになりますよと言われ、折角なので休みを取らせてもらった。まだ、一度も街中に出たことが無く留守番をしてくれている侍女二人になにか土産を買おうと出かけてきたが女性に贈り物をしたことが無く何を贈ればいいか悩む上に、店先で少女らが楽しげに買い物に興じているところには気が引けて入りにくい。アデーレの街なら直ぐに帰って渡せるから焼き菓子などで済ませていたが、さてどうしようかと歩きながら悩んでいると後ろから呼び止められた。
「ガウス様ではありませんか」
振り向くと、あの夜会で知り合ったブロワト男爵令嬢だった。
「あ、お久しぶりです、ブランディーヌ様。奇遇ですね。」
「あら、嫌だ。様だなんてやめてくださいませ、ブランディーヌで結構ですわ。」
今日もやはり気さくに話してくれる。
「では、お言葉に甘えまして。ブランディーヌ、私のこともルディで結構ですよ。」
顔を見合わせて笑い合う。
「お一人でお買い物ですか?」
「ええ、留守宅に残してきた侍女が二人いるのですが、女性物の店に入るのは気後れしまして。」
「まあ、ではお手伝いいたしましょうか?」
「え?いいんですか。」
「はい。今日はお天気も良いので散歩がてらこちらの侍女と買い物に来ましたの。お幾つの方ですの?」
「ええと、11歳と22歳の新妻です。どうやら来年出産らしくて・・・やはりなにか子どもに関するものがいいのかなとか、11歳の方は妹みたいなものなのですがいや、さっぱり女の子のモノはわかりませんね。アデーレならお菓子のお土産で良かったんですけど。」
「そう・・・あの、こちらからお国に送られるんですか?それとも帰られてからお渡しに?」
「あ〜、考えてなかったです。送る暇があるかどうか・・・とりあえず今日を逃すと買いそびれそうで。」
「いやだ、ルディったら。でも、そうよねもうすぐ王女様がいらっしゃるもの忙しくなられるでしょうね。今11歳なら帰ったら12、13歳?若奥さんの方は新米お母さんでしょう?ね、クララあなたなら何にする?」
「そうでございますね、近頃ぬいぐるみに誕生日と名前を入れて贈るのが流行っておりますが、赤ちゃんが生まれる日も男女どちらかもわかりませんし・・・。その11歳の女の子であれば手鏡など如何でしょうか?」
「あ、ごめんなさい。手鏡は以前他の人から贈られてそれを大事にしているんです。」
「うーん。私、新米お母さんには思いついたわ!クララ、セティのお店なんかどうかしら?あそこなら今から送って身に付けられるモノと赤ちゃんを包むのにいい品があるじゃない。」
「左様でございますね。では、まいりましょう。」
「さ、ルディ。きっと気に入っていただけますわ。行きましょう。」
女性二人に導かれて店に着く。
「ほら、これなんかどうかしら?」
彼女たちが選んだのはストールだった。
「いくら気候のいいハヴェルンでもウルリヒほどでは無くてもこれから寒くなるでしょう?新妻さんにはこれと、足も冷やさないように靴下はいかが?クララ、お嬢さんのは何かある?」
「こちらなどいかがでしょうか?ガウス様、こちらの店は職人の腕が良くて評判です。特に最近では手彫りのブローチですとか、レース編みのストールですとか。あ、お嬢様!11歳の子ならこちらのレース編みのストールをきっと喜びますわ。」
「ヤダ、それあなたが欲しいんじゃなくて?」
「ふふ、今日は私はブローチにします。」
「ん?あっ!これよ、これ!この手袋とストールのセット。間違いなく喜ぶわ。みてこの細工の細かいこと。」
「あ、じゃあそれにします。あの、この店から送れますかね?」
「その手があったわ!直ぐに上等な紙で包んで送る準備を致しましょう。」
なんというか、行動的な二人のお陰で無事土産物はハヴェルンへと送られることになった。
「この後予定はありますか?お礼をしたいのでお食事でも。」
二人の目がキラキラと輝いた。
「あの、あのですね。この近くにとても美味しいと評判のパンケーキのお店がありますの!そこでよろしいですか⁉」
どこの国でも女性は甘いモノに目がないらしい。薄いパンケーキを何層にも重ねその上にたっぷりのバターにハーブの葉が乗せられている。皿の上には冷えたクリームが添えられ熱々のケーキの熱でトロリと溶けている様が確かに美味しそうだと思いながらルディは紅茶を頼み飲んでいた。