遠くから届く想い
(思い出したら読んでください)
あ・・・カリン。耳飾りに手が触れた瞬間、最後の手紙を思い出した。途端に気分が落ち着いていく。なす術も無く僕の周りに渦巻く魔力の風に近づく事すらできずにいたオブリーの姿と声がハッキリしてくる。深く呼吸を繰り返す。
(大丈夫ですよ、ルディ様・・・)
カリンの声が聞こえた気がした。
「ルディ様!大丈夫ですかっ」
部屋の中は暴走した魔力ですっかり荒らされていた、それでもこれまでよりはいい方だ。
「すみません、かなり動揺してしまいました。いま、片しますね。」
杖を取り出し倒れたテーブルやソファを元の位置に戻す。
「はあぁ〜。あの、ちょっとすみません。話の続きをお聞きしたいのですがその前に見ておかないといけないものが・・・」
話しながら鞄を開け底の方を探る。あった、カリンが思い出した時に読むようにと渡してきた最後の手紙だ。封を開け中を見る。
親愛なる魔法魔術師ルディ様
お忙しくてなかなかこの手紙に行き着くことはなかったと思います。でも、それでいいのです。キチンとウルリヒでの目的を果たすためには、こちらの事など気に病まずに目の前のお仕事に集中される事はとても大切な事ですから。この手紙を書き終わったら明日にはルディ様とオブリーさんはウルリヒに旅立たれます。慣れない土地やこちらとの文化の違いなどでお疲れになる頃にきっとこの手紙を思い出される事と思います。多分、それまではルディ様からのお返事はないだろうし、それからも無くて結構です。私はこの手紙を最後に余程の報告がなければこちらからもお手紙は出しません。今までずっとお側にいて下さったお二人に暫くお会いできないのは寂しいですが。毎日、普段通り仕事をして過ごせばなんという事はないと思います。
でも、ルディ様がこの手紙を読まれているという事は、何事かあった時だと思っています。何かお心を煩わすようなことが・・・。
ですけど、ルディ様変わらず過ごしてくださいね。私にとって、ルディ様は大陸一の魔法魔術師です。そして、私のお仕えする大事なご主人様です。それ以外何者でもありません。
どうか、お疲れになった時や辛い気持ちになることがあれば私や離れでの事。それから、公爵家の方々やおじさま、おばさまを思い出してください。
お力は今より強く安定して帰られるかもしれませんが、私達は変わりません。
ルディ様もどうか、ここを旅立つ時と同じくいつまでもお優しくお心強いままでどうかご無事でお戻りください。
私達はいつでもルディ様を信頼しています。
では、お帰りになる日を楽しみにおまちしております。
アレクシア・カーテローゼ・ハプトマン
ふぅ、どうしたものかな、ルディは手紙を読んで一息ついた。確かに忙しさに紛れて忘れていた、ハヴェルンに残してきた7つ下の侍女を想う。ごめん、カリン。全部お見通しだ。