二人の距離は
「ごめん、わたしはちょっと無理かも」
「っ……」
放課後の誰もいない教室に差し込む夕陽は、俺と俺の前にいる女子生徒を赤く染め上げている。
「いや、気にしないでくれ」
「ん、あ、じゃあ、頑張ってね!」
そう言って彼女は去って行った。
俺もため息と共に教室を出る。
「フられたね」
そこに居たのはいたずらっぽく笑う俺の幼馴染殿。
「告白した訳じゃない」
俺はぶっきらぼうに答える。
「はたからみてると告白だったよ?」
「うるさいな」
「これで帰宅部のクラスメイトは全員?」
「ああ、今ので最後のはずだ」
クラスメイトのリストを見ながら返答する。
「中々うまくいかないもんだな……」
「喋ったことない人に部活誘われてもねー」
「俺が悪いのか……」
「そういう訳じゃないと思うけど」
何で神代のスピードキングと呼ばれる程帰宅するのが早い俺がこんな遅くまで学校に残ってるのかと言うと、一言で言えば勧誘のためだ。
俺の所属するオカルト研究会が、廃部の危機に瀕しているからである。
所属すると言っても、入ったのは一週間前のことなのだが。
オカ研の部員数は四人。
一人目は俺をオカ研に誘った後輩であり現オカ研会長、禅味岸子。
そして、その兄で前オカ研会長、禅味宗介。
目の前にいる俺の幼馴染、楠山波野。
そして俺、賀谷幹人。
宗介は三年生なので、十二月には引退する。
引退しても会には顔を出す気でいるらしいが。なので部員は俺を含めて三人。
掛け持ちでない部員三人以上が会の存続条件だ。
だが、波野はテニス部との掛け持ちなので数には入らない。
そうすると、あと一人は必要なのだ。
ちなみに今までは誤魔化し続けていてそのしわ寄せが最近来たらしい。
とにかく、何かするために入った会が何もせずに解散になるのはあんまり酷いので俺はこうして勧誘活動に勤しんでいるのである。
「んー、帰宅部の友達ってわたしいないんだよねー」
「俺は運動部の友達すらいないけどな」
「悲しくなるからやめて……」
「まあ、いいよ。今日のところは帰ろう」
「そだね、帰ろ!」
帰り道、波野と歩いている横を抜き去る影。
小学校の低学年くらいだろうか、少年の集団だ。
「小さい子は元気だねー」
波野は笑いながら言う。
「ん、そうだな」
俺も少し笑う。
「幹人にもあんな頃あったよねー」
「そうか?」
俺の記憶にある少年時代は中々暗かった気がする。
「昔のことだから忘れちゃったんじゃない」
「かもな……」
「わたしはね、嬉しいよ。 幹人が何かしようって気になってくれて」
波野は手を広げて大きく伸びをする。
「……」
「だからね、この努力が、無駄にならないように祈ってる」
「ありがとな……いろいろ」
つい、そんな言葉が口をついた。
「あれ? お礼なんて珍しいー!」
「茶化すなよ……」
「……ん、ごめん」
ちょっとだけ、しおらしくなる波野。
「寒くなってきたな」
「うん、そうだね」
なんだか妙な空気になったので話を変える。
そして、そのまま俺たちは足を進めた。
翌日。
「うぃーす」
オカ研の部室に行くと、もうみんながいた。
「先輩、遅刻っす」
「遅刻だな」
「遅刻ね」
禅味、宗介、波野からバッシングを受ける。
「しょうがないだろ、勧誘してたんだから」
労いこそされども、文句を言われることはないはずだ。
「冗談すよ」
「冗談だ」
「冗談よ」
「お前らバカにしてるだろ」
「まあ、そんな瑣末なことは置いといてだ」
宗介が仕切り始める。
「我がオカルト研究会廃部問題について、だ」
「今のところ、ポスターの効果はないっすね」
「勧誘も良い返事は聞けてない」
「なら、放送をするのはどうだろう?」
「校内放送ですか? ……難しいと思います」
「万策尽きたか……」
「いや、まだ三策しか弄してないぞ」
ガクッとうなだれる宗介に突っ込む。
「しかしだな、賀谷。あとは何をすれば良いのか俺にはさっぱりわからん」
確かにそうだ。
あと何かできることは……あの人に頼んでみるか。
「なに? 部活に入って欲しい?」
「はい、オカルト研究会っていうんですけど」
帰宅部で俺の知り合いっていったらこの人くらいしかいない。
あの人、野村先輩は興味深そうに俺を見た。
「ほう、オカルト……」
「ああ、いや、無理にとは言わないんですけどね」
「いや、いいよ。 入ろうではないか」
「マジですか!」
「ああ、マジだ」
なんか意外とすんなりだったな。
「ただ……話を聞く限りオカルト研究会は三年生でない帰宅部を必要としているのではないか?」
「あ」
……そういえばそうでした。