部活動をしよう!
「あ! 帰ってきた!」
昼休みが終わりに差し掛かり俺はやっと先輩から解放され教室に戻ってきた。
「幹人、大丈夫だった?」
波野が心配そうに尋ねてきた。
「大丈夫って、何が」
「だってあの野村先輩って、美人だけどすっごい変な人って噂だったし」
「まあ、変な人ではあったな」
「何かされたりしてない? 例えばこう、そう……ゆ、誘惑されたり……とか……」
「されとらん」
何を心配しているんだこの幼馴染は。
「なら良いんだけど……」
時計を見るともうすぐチャイムが鳴る頃だ。
「……そろそろ授業始まるぞ」
「うん、席着くね」
そう言って波野は帰っていった。
放課後、波野と一緒に帰る。
「ねえ、幹人。 部活とかやらないの?」
「部活? やる気はないけど」
「だよね……」
「なんでまた?」
「幹人がこんなになっちゃったのって打ち込めるものがないからだと思うんだよねー」
「……」
「雪久さんはピアノに打ち込んで有名になったじゃない?」
「あの人は才能あったからな。 俺とは違って出来の良い人だよ」
「兄弟なんだから幹人にもピアノの才能あるかもよ」
「あったらこんな所で腐ってないだろ」
「……本当に卑屈なんだから」
賀谷雪久。
俺の兄で新進気鋭のピアニスト。
幼い頃は俺の目標だった人。
今は家族揃って海外にいる。
出来の悪い弟をほったらかしにして。
俺も兄の様になりたかった。
そういう想いがないといったら嘘になるだろう。
俺の周りには俺よりも優れた人が多過ぎた。
それが俺にはたまらなく嫌だった。
ガキみたいだと思う。
だけど、それでも嫌なのだ。
「部活、考えてみる」
「うん、そうしなよ」
部活か…… 今更入れるものなんだろうか。
俺は新しい環境に馴染むのが苦手だ。
それに、入らなくたって……
「じゃあね」
「おう」
波野は去って行く。
あいつは俺にはないものを持ってる。
それが、とても眩しく見えた。
「先輩、また一人で来たんすか」
引き戸を開けると、禅味がテーブルをふきんで磨きながら言ってくる。
ここ数日、俺はあらたに通っていた。
「一人で悪いか」
「先輩がイチャイチャカッポォっていうのは間違った認識だったみたいっすねー」
「そうだな、間違ってる」
「波野さんでしたっけ? 最近来ませんねー」
「なんでそんなに波野を気にするんだ?」
「てんちょーのお友達の娘さんと仲良くなれば後々有利かなと思うわけです」
「打算的だな、おい」
「まあ、いいです。 ご注文お決まりですかー?」
「あんころ餅と柚子羊羹」
「代わり映えしないっすね」
「ほっとけ」
「んじゃ、少々お待ちください」
「先輩、友達いないんすか?」
和菓子を食べ終え、お茶を飲んでいると禅味が来た。
「俺は友達作るとアレだから、やばいから」
「へえー」
バカにした様に禅味が言う。
「お前こそ友達いるのか?」
「わたしはアレです、ロンリーなウルフっすから」
「お、おう」
「なんか滑りましたかね……」
微妙に赤面している。
「ていうかお前、バイト中だろ」
「お客さんいないから、多分平気っす」
「……いや、それどうなの」
「あっ、そうそう先輩」
「なんだよ」
禅味は思い出した様に言う。
「先輩、部活やりません?」