野村明日子
今日はいつもより早く起きて準備をした。
さすがに連続遅刻はまずいと思ったからだ。
学園に行く途中のコンビニで今日の昼飯用の弁当を買う。 波野にバレたらまた何か言われそうだがまあいいだろう。
コンビニから出ると、後ろから澄んだ女の声が聞こえた。
「待ちたまえ、少年」
どうやら少年に待ってもらいたいらしい。
俺がいたら邪魔になるだろうなと思いさっさと離れようとする。
「何故待てと言われたのに足速になるのだ」
声の主が俺の前に立ちふさがった。
「俺に言っていたんですか」
「そうだ、他に誰がいる」
確かに周りに少年らしき人物はいない。
「えっと、何の用ですかね?」
「ああ、君は昨日もコンビニ弁当を食べていたろう」
何で知ってるんだ……
「そうですけど、何か?」
「そう身構えるな」
危険な匂いがして相手をよく見る。
年齢は俺と同じくらいだろうか。
身長は女子としては高い方。あと巨乳。
長い黒髪のロングヘアだ。
制服は俺と同じ学園の制服。
全体的にクールなイメージだ。
俺が観察していると、うっとりとした表情で
「いいぞ…… そのわたしの体を舐め回すような視線……」
あ、やばい。 この人変態だ。
「ああっ! その冷めた視線もたまらんっ!」
俺は逃げる言い訳を考えた。
「あ、じゃあ僕そろばんあるんで」
「今から学園だろう。 大丈夫か、君」
絶対大丈夫じゃない人に言われたくない。
「わたしは野村明日子という。 君と同じ神代学園に通う三年生だ」
「賀谷幹人っす」
「賀谷君か。 それで賀谷君は昨日もコンビニ弁当をお昼用に買っていたろう。わたしは見たぞ」
「……」
「コンビニ弁当というのは体に良くない。特に君のような育ち盛りの男の子にはなおさらだ」
「それでわざわざ注意してくれたんですか?」
ご苦労な話だ。
「まあな、君みたいな子は放っておけない」
ありがた迷惑だ。
「迷惑そうな顔をしているな」
「そうですかね」
「ふむ、まあいい。とにかくコンビニ弁当ばかり食べ過ぎないことだ」
「はあ」
「何なら今日、わたしと一緒にお弁当を食べるか?」
初めて会ったのに何とも不思議な人だ。
だがまあ、俺は人見知りなので。
「結構です」
「む、そうか。ではまたな賀谷くん」
野村先輩は俺を見て少し笑い去って行った。