プロローグ
「あなたがいてくれたからわたしは笑えるんだよ」
「きっといつか忘れちゃうけど……でも、確かにここにいたから」
「本当に辛かったけど……本当に嬉しかった……!」
「わたしは強くなんかないさ。でも、一人で歩くことができる」
歩いている。
月の無い、明るい夜だった。
その暗闇の中を俺は歩いている。
手には小さな石ころ。
色の無い丸くて尖った淡い石ころ。
世界の向こうへとまるで重力に引き寄せられるように足を進める。
だが、足を動かしているのは俺の意志だ。
俺の意志は衝動に打ち勝ったのだ。
月が割れて、また元に戻る。
大地が割れて、どうなる?
ああ、ここは船の上だ。
最後の海の船上だ。
俺の横を子供たちがすり抜ける。
楽しそうに遊んでいる様子を見るとここは大地だ。
俺の体が、意識が空になる。
星が覆いかぶさってくる。
影が俺の腕を、足を、心臓を、翼を縫い付ける。まるで玩具で遊ぶ子供のように。
そのうち空から音符が溢れ出し、狂ったように旋律を奏でる。
美しい言葉に耳を奪われる。
音が、言葉が脳を溶かす。
だけど、すぐに再生する。
雪が降り始めた。
神様の声がすると、俺は学園の屋上にいた。
下を見下ろすと大勢の人が溺れている。
縫い付けられた翼を使って神様の声を求める。
返事は、ない。
夢が覚めると現実にいた。
目が覚めると夢にいた。
魚と鳥が、俺の後ろで踊っている。
俺の背中には目がないから見れない。
鏡が俺の周りを取り囲んだ。
俺が見ているもの、全てが俺になる。
なんだ、こうすれば後ろも見ることができるじゃないか。 だが、俺の後ろに世界はなかった。あるのは、踊りを忘れた魚と鳥。