―最期―
亜「今回あまり出番ないの?」
作「いや、ちゃんと出るよ?語りが別の奴になってるだけで」
亜「別の奴って?ハクア?ムラマサ?フュズィ?」
作「見ていれば何となく分かってくるよ。というかすぐに分かる」
亜「?」
ニュアージュという街の近くに棲み着くようになり、五年の時が過ぎた。
今まで何度か、我を倒そうと挑んできた者がいたが、どいつもこいつもまるで話にならない様な奴らだった。
最初は少し遊んでやろうと力を抜いていれば、いい気になるが、ほんの少し力を入れて掛かればなんのことはない。
一瞬で片が付く。
本当につまらない・・・何故我はこんな所に来たのだろうか?
退屈ならばどこか別の場所に行けば良いだけのことだが、どうしてか此処を動けずにいる。
まるで本能が此処にいろとでも言っているかのように、我はこの地から動けずにいる。
何だと言うのだろうか?
漆黒の毛に覆われた体の毛繕いをしながら、その理由を考えていたが、しかし答えは見つからなかった。
当然と言えば当然か。
三年前からこのことについて考えない日はなかったが、答えは見つかっていないのだ。
それが突然今日見つかるわけもない・・・。
その時だった。
縄張りに二人の人間が踏み込んできたのは。
まだ我の元までは来ていないようだが、気配だけでも強者だということは分かる。
真っ直ぐに進んでくればほんの三十分程で辿り着くだろう。
念のためにも準備だけはしておこう。
今までの相手が弱かったからと言って、今日も弱い奴が来るとは限らない。
四本の足で体を起こし、固まっていた体を解す。
この瞬間は何とも言えぬ快感があるな。
適当に当たりの魔物を狩りながら、二つの気配が近づいてくるのを感じ、先ほどいた場所に戻った。
それから約十分程が経った頃、その二つの気配は姿を現したが、その二人を見て我は些か驚いた。
「いた」
「アミ?気を抜いたら駄目だよ?」
二人ともまだ年端もいかぬ少女だったのだ。
身の丈は我と比べれば、あちらからしたらおよそ三倍はあろうに、真っ直ぐに我を見据えている。
こんな者たちは初めてだ。
おそらく他の人間達が見れば、この二人の持つ力には気付かないだろう。
黒い着物を着ている少女の、気を抜くなと言う言葉。
これは我にも当て嵌まる。
この二人には本気で掛からねばならぬ。
本能がそう告げている。
「分かってる。行くよ?ムラマサ」
もう一人の赤い着物を着ている少女が、腰に差している剣の柄に手を掛け戦闘態勢を取った。
黒い着物の少女も太股に巻いているホルスターから銃を抜き銃口をこちらに向け、牽制の弾を撃ってきた。
それを避け今度はこちらから攻撃を仕掛ける。
二人に急接近しその身を引き裂こうと爪を振り下ろすが、それは躱され地面を抉るだけに終わった。
だが、こちらも躱されたままで終わるつもりはない。
前脚を軸に体を回転され、尻尾を降る。
「アミ!?」
「大丈夫!」
アミと呼ばれた少女がそう言った通り、尻尾は片腕に防がれた。
だが、勢いを殺すことはできなかった様で、少女の体は地面に叩きつけられた。
それにしても、何だ?今の感触は?
とても少女が持つ固さとは思えなかった。
どころかあの腕で殴られでもすれば、我とて致命傷を覚悟せねばならぬ程だ。
土煙が晴れた時、そこには今し方吹き飛ばした少女が立っていた。
まるで堪えてないようだ。
「居合い術一式・一ノ型―――」
少女が最初の時の様に柄に手を掛ける。
来る。
「陽炎」
ヒュヒュン!
空を切る音が二度聞こえた次の瞬間、我は本能的に跳躍していた。
何故だ?
あの者の攻撃は届かない位置にいた。
剣の届く範囲にいなかったにも関わらず、何故我は跳んだ?
ズシン!
背後で音を立てて何かが倒れた。
見てみると、我の後にあった木がスッパリと切られていた。
だが、可笑しい。
音からして、あの者が二発の斬撃を放ったのは明らかだ。
だというのに、木は一度しか切られていない。
その答えは、直後に分かった。
「ガアッ!」
腹のあたりを何かが斬り裂いたことによって。
時間差で二発目の斬撃が襲ってきたのだ。
なんとか地面に降り立つが、横腹からは血が溢れ、ふらついてしまう。
この瞬間、決着は着いた様な物だ。
だが、このまま終わっては余りにも呆気ない。
せめて最後の足掻きはさせてもらう。
力を振り絞り、アミと言う少女に接近する。
その時、また少女が剣を構えた。
「居合い術一式・奥義―――」
おそらくこの一撃で我は終わるだろう。
だが、構わない。
我がこの場を動けなかった理由。
それがこの者だったのだから。
「未開紅!」
音も聞こえぬ程の早さで、少女は剣を振り鞘に戻した。
斬られたと言う感覚すらも・・・我には無かった。
攻撃しようと振り上げていた爪をゆっくりと下ろし、少女を素通りし、後を見ると少女も同じようにこちらを見ていた。
そして
キン
刀身が全て鞘に収まった時、我は終わったと同時に願った。
この者の側にいたい、と―――
ハ「出番が全然無かった」
作「いや、ごめん・・・次からはまた出番あるからさ、そう落ち込むなって」
ハ「本当?」
作「本当だよ」
ハ「なら許す」
作「サンキュ」