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高町亜美の物語  作者: 大仏さん
第三章―眠れる龍―
30/31

―無手―

亜「今回、何か面倒なことが起こるらしい」


ハ「面倒なこと?何それ」


ム『昨日あいつが言ってたんだよ・・・何か起こるからどうにかしてくれってな』


亜「油断した。あんな自然の流れで言われるとは思ってなかった」


フュ『そない、自然に言いはったんですか?』


ム『ああ。普通に会話の中に入れて来やがったよ』


亜「今度会ったら即斬る」


ム『だな』





「ふん。お前の様な小娘が本気で俺に勝てると思っているのか?」


「喋る暇があるなら掛かって来なさいって。それともなに?その小娘に負けるのが怖いの?」


そういうと、騎士団の小隊長は随分と気が短いようで剣を握りなおして特攻してきた。





魔物達を撃退した後、会話をしていると街の中から鎧を着た集団が出てきた。


自警団くらいだろうと思っていたから、騎士団と言うのは少し意外だった。


確かにこの港街も結構な大きさだけど。


「ハクア達は隠れてて?見つかると面倒だから」


「え?でも」


「適当な所で時間潰してるからね?」


「うん。ほら、リリアも」


けど、リリアは中々離れなかった。


「離れないと、一緒に寝てあげないよ?」


そう言うと、正に神速とでも言えそうな程の早さであたしから離れるリリア。


その頭を撫でて、ハクア達と隠れる様に言って、ハクア達は見えなくなって数分後、この隊の隊長らしき人がこっちに歩いてきた。


「おい、そこの小娘。魔物達はどうした?」


「森に帰しましたけど?」


明らかにこちらを見下した様子で話しかけてくる隊長。


「帰した?倒さなかったのか?」


「そうですが、それが何か?」


「何故、倒さなかった?」


質問の答えになってないし・・・。


「倒す必要もなかったんで。心配しなくても、当分は近づきませんよ」


チ、と舌打ちする音が聞こえた。


どうせ、自分の見せ場を取られたとか、そんなどうでもいいことを考えていたんだろうけど。


それから、話を聞かせろと言われて、とりあえずついていくことにした。


街の中にある、宿舎みたいな所に連れて行かれて、事情、と言っても単に魔物が来たからどうにかしようと思っただけだからね・・・そう言うと何故か隊長に鼻で笑われた。


あ・・・メンドくさい流れだな、これは。


「そんなことを言って、どうせ街の奴らに気に入られようとしたんだろう?」


「そうする意味が分からないし、それは他ならぬあんたでしょ?」


ぷ、と宿舎の中でいくつかの笑い声が聞こえた。


隊長さんが一睨みすると、すぐにそれは収まり今度はあたしを睨んできた。


「小娘、あまり舐めた口をきくもんじゃないぞ?」


「本当のことを言っただけですけど?さっき舌打ちしてたのだって、見せ場取られたとか考えてたんでしょ?まあ、誰だって少しはそういう所があるだろうけど」


また起こる笑い。


この隊長、どんだけ隊の人達から下に見られてるんだろう?


「今さっき言っただろ?舐めた口をきくな」


「どんな口をきこうとあたしの勝手です。そっちこそ一々指図するな」


「・・・・・お前、少し痛い目を見ないと分からないみたいだな?」


隊長は拳を振り上げて、それを真っ直ぐあたしに放ってきた。


他の隊員が流石にまずいと思ったのか、慌てて押さえようとしたけど遅い。


いや、それ以前に見た目こんな小さな子どもに手を挙げようとする大人ってどうなんだろう?


「はあ・・・どんな家庭環境で育ったんだか」


「なに!」


『!』


拳を受け止めながらため息混じりに言うと、殴りかかった本人と周りの騎士さん達が同時に驚いた。


「全く・・・大の男が小娘に殴りかかるって、仮にも騎士がなにしてるんだか」


ギリギリと拳を握ると、必死に抜け出そうと隊長は力を込めて拳を抜こうとする。


「『人に優しく、自分に厳しく』とか言われなかったの?よくそんなんで隊長なんか務まるわね?もう、嘆かわしいったらありゃしない」


どこからた取り出した布を左目に当てて、どこかのおばさんみたいな仕草をする。


「小娘!いい、加減手を離せ!」


「いいよ」


「どわっ!」


言われた通り手を離すと、隊長さんは後ろの椅子を巻き込んで倒れ、つでに床に頭を強打した。


いたそ~。


騎士さん達が、本当なのか振りなのか知らないけど、隊長に大丈夫ですか、と声をかける。


起き上がった隊長は、騎士さん達には何も言うこともせずあたしを睨んだ。


「離せって言ったから離したんだけど?そんな睨まないでくれる?」


「おい、こいつを演習場に連れて行け」


「は?一体なにを?」


「いいから連れて行け!」


怒気の籠もった声で言われて、騎士さん数人があたしに目で謝りながら付いてこいと言った。


ついて行きますよ。


どうして、あんなのが隊長になったのか、なんてどうでもいいけど、この隊の人が不憫だし。


まあ、あんなのでも尊敬している人がいるとは思うけど。



なんやかんやで演習場に到着すると、多分この宿舎の団員全員がいた。


中央は開けられているから、まあそこで戦うんだろうね?


面倒だな・・・。


「すまない。あの隊長は貴族の出身で、殆ど名前だけで隊長になったんだ」


「でしょうね。ここに配属になってるのも、まあ、こんなこと言ったら街に失礼だけど、大して問題が起きないだろうと上が判断したからだろうし」


「・・・・・・よく分かったな?」


「ある程度なら、予想はできます。それはそうと、この街は頻繁に魔物に襲われているんですか?」


その質問に答えたのは、まだ若手かと思われる騎士だった。


「はい。近くに森があって、頻繁という程ではないんですが、年に何度か」


「その度に、わざわざ少し遅れて登場する訳ですか、あの隊長は・・・そんなことして何の意味があるんだか」


「私達も言ってはいるんですが、下手に逆らうと何をされるか。あれでも剣の腕はかなりものだし・・・家族を養う為にも、職を失う訳にはいかない物で」


「それは単なる言い訳ですよ。家族が大事なのは当たり前ですけど、騎士なら目の前の危機を最優先するべきだと思います」


「それは・・・」


この騎士さんだけじゃ無くて、他の騎士さんの中にも護るべき家族を持つ人が多いのだろう。


聞こえていた様で何人かの騎士さんが頭を垂れた。


それとは反対に、あたしに歩み寄ってくる騎士さんもいる。


目の前まで来た騎士さんは、金髪碧眼の奇麗な女騎士だった。


見た限りでは、女性はこの人しかいない。


「リラ」


「あなたに私たち騎士の何が分かるの?」


おそらく、彼女の名前なのだろうけど、女性はそれを無視してあたしに問いかけてきた。


「分かりませんよ、何も。けど、騎士は民を護る為にあるんじゃないですか?」


一時の感情に流されて、例え大切な物を護ることができてもそれよりも多くの物を失っては意味がないと思う。


なんて・・・あたしだって、ハクア達が危険だったら目の前の危険なんか放っておいてそっちに行くけど。


「確かにそうよ。けれど、集団においてリーダーの命は絶対。それを破れば、隊が崩れる」


「既に崩れているじゃないですか」


「何ですって?」


女騎士さんが、聞き返して来たの同時に、後ろの方から隊長が歩いてきた。


みんな一斉にそっちに向かって頭を下げる。


隊長はそれには何も言わず、小娘、とあたしを呼んだ。


前に出るとそんな所に隠れていたのか、とか言って笑っていた。


なんか、イライラしてきた。


そんな隊長に、一人の騎士さんがやはり止めた方がいいのでは、と言うと


「オレに逆らう気か?たかが平民の分際で」


と言って剣を振り上げた。


「!オーラン!」


リラさんが悲鳴にも近い声を上げた。


キイイイン!


『!』


身長差があるから立ったままでは防ぐことができなかったので、跳躍して剣を防ぎ、着地してムラマサを収める。


「いくら何でもやり過ぎよ?」


「ふん!身分を弁えずオレに意見するのが悪い」


「はあ・・・どうにもならないかな?これは」


一人くらいこの隊長を信頼している人がいるかと思っていたけど、見事に誰もいなかった。


現に今も、言葉は発していないけど目では明らかにやり過ぎだろ、と避難している人が殆どだ。


「さあ、貴方は下がっていてください。またこの子が切れるかも知れないので」


「え?あ、ああ・・・」


オーランさんは言われたとおり、後ろに下がった。


「この子、だと?どこまでも舐めた口をきく奴だな、お前は」


無視して隊長との距離を取り、リラさんにムラマサを預ける。


「え?ちょっと、武器なしで戦うの?」


「ムラマサを人殺しにはしたくないので・・・すぐに終わりますから、預かっていてください」


「すぐに、って・・・隊長は剣の腕は確かなのよ?」


それはさっき聞いた。


前に出ると、隊長が冒頭の台詞を言って、あたしがそれに返し隊長は突っ込んできた。


確かに筋はいいかも知れないけど、これで確かとは言えないだろう。


「ハアッ!」


気合いを入れて振り下ろしてきた剣を最小限の動きで躱し次の攻撃も同じように躱す。


「あなたたちは、この隊長の下で動いて・・・本当にそれでいいんですか?このまま、この隊長について行っても、結局何も変わりませんよ?」


「ふん!そんなのは聞かずと「あんたは黙ってろ」ガッ!」


腹部を軽く殴り黙らせる。


「どうなんですか?本当に護りたい物を、ここで護ることができるんですか?」


「・・・・・・」


「もし、護れなかったら、その時は何か言い訳をするんですか?『隊長の指示に従ったらこうなった』『隊長に逆らう訳にはいかなかった』。それは確かに、そうでしょうね。でも、それで本当に納得できますか?街の人達は―――何より、貴方達自身は」


風が吹き、着物の裾をパタパタと揺らす音がやけに響いた。


リラさんがムラマサを持つ手に力を込めたのか、カチャという音が聞こえた。


「く・・・さっきから、何を勝手なことを。いいか?街の奴らなんてな、結局なにもできないんだよ。そんな奴らの誰か一人が欠けた位で、なんの支障もない」


起き上がった隊長は何を言うかと思えば、そんなことを言った。


「あんた、もう喋るな」


ここまで救いようがない奴だとは思わなかった。


「オレに指図するな!」


振り下ろされた剣を手刀で根本からへし折ると、バキンと子気味の良い音が響いた。


「は・・・?」


「―――無手式・鎧通し」


踏み込み、土手っ腹に掌底を打ち込む。


「ガハッ!」


ガシャンと音を立てて、隊長は倒れた。


「リラさん、預かってくれてありがとうございました。それでは」


「え?」


リラさんの手からムラマサ取り、腰に差し出口にむかって歩いていく。


「その隊長をどうしようと、貴方たちがこの先どうしようと勝手ですけど、お願いですから、自分に嘘はつかないでください」


最後にそれだけ言って、あたしは宿舎を出た。


すると、そこには


「遅かったね?」


『心配したで?』


「何も起こってない?」


「あみ!」


ハクア達がいた。


『ちょっと、面倒な奴がいてな・・・そいつをしてきたんだよ』


「・・・・・・まあ、あまり良い気分じゃないけどね。さ、気を取り直して、出発しようか」


『うん』



あたし達ではどうにもできないこと・・・それはいくらでもあると思う。


でも、できることだっていくらでもある。


今のあたしにできることは、みんなと一緒に生きること。


そして、みんなを護ること。




本当に大切なみんなを―――




亜「珍しくシリアスな感じだったわね?」


作「あの・・・いい加減離してくれません?」


亜「ん?じゃあ、これからはちゃんと面倒事が起こる時は教えるって誓う?」


作「・・・・・・・」


亜「あっそ・・・じゃあ、暫くはここにいて貰うから。行くよ、みんあ~」


み『は~い(おう)』


作「あ!待って!あーー!」



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