―出会―
亜「気合い入れて行くよ?」
ム『ああ』
目の前にいるのは、魔物の集団。
外れを引いたのか、みんなの所もどうかは分からないけど、あたしの所にいるのはどういう訳か大きい魔物ばかりで、メンドくさそう。
まあ、文句も言ってられないし、さっさと片付けないと自警団来るだろうからね・・・もし来ちゃったらそれもまた面倒だし。
「じゃ、ムラマサ。一発で行くよ?」
『おう』
「居合い術一式・三ノ型―――」
雄叫びなのか叫び声なのかよく分からない声を上げて、魔物達が一斉に向かってくる。
元気なのはいいことだけど、こういうことが多いとお互い何の利益も無いからね。
今回はおとなしく吹っ飛んで貰おう。
振り下ろされる大きな腕や、飛んでくる魔法なんかを避けながら力を溜めていく。
一瞬攻撃が止まった所でその力を魔物達の後ろの空間に向けて解放する。
「暴風」
斬った直後は何も起きないけど、だからと言って油断をしてはいけない。
『ガアアア!』
ゴオオオオオォオオォオオ!!
オーグが雄叫びを上げると同時に、突如突風が吹き荒れる。
空気を一閃し、瞬間的にそこを真空状態にする。
すると、そこの無くなった空気を補充しようと周りの空気がその場に集まっていく。
これはそれを利用した技。
剣速が速ければ速いほど、風の力も上がりそれに耐えることができない者又は物は
『ゴアアアアアア!』
『ギイイイイイ!』
こんな具合に飛んでいくという訳です。
さて、みんな飛んでいったみたいだね。
「ムラマサ、どれくらいだった?」
『・・・一分半。三十秒オーバーだ』
「うっそ!はあ・・・」
『躱す時と、発生までの時間だな』
「だね・・・まあ、いいか。すこし休憩したら、みんなの所に行こう。ラーニャも「あみいいい!まっててねえ!」・・・うん、みんな元気だからね」
リリアの叫びを聞きながら、あたしはムラマサを腰から抜いて抱えて仰向けに倒れた。
背中が地面に着いた時少し息が詰まった。
「・・・草がチクチクする」
『だろうな』
ムラマサとフュズィ・・・二人と会ったのは、約十九年前。
あたしとハクアがニュアージュにいた頃のこと。
*
その日、何か依頼を受けようと、ギルドに向かって採取依頼を受けることにして、その紙をお姉さんの所に持って行き、手続きを済ませて出ようとしていたら、おじさんに呼び止められた。
戻ってどうしたのか聞くと、おじさんは少し間をおいて、
『・・・おまえら、いい加減武器の一つくらい持ったらどうだ?』
そう言った。
あたしもハクアも、二年間ずっと魔法と龍鱗、この二つの力だけで戦ってきた。
それだけで十分事足りたし、慣れていたから今更何か武器を使う必要も無いと、そう思って何も使わずに仕事をしてきた。
『お前らのことを俺達は知ってるが、他の奴らは知らねえ。これまでも、嘗められたことは何度もあっただろう?』
あたし達は頷いた。
前にも少しだけ言ったと思うけど、体も小さくてしかも女で、そんな奴に何ができるんだ、と色んな視線を投げかけられたし、言われもした。
酷い時には殴られかけた。
かけた、というのはおじさんが止めに入ったり、女将さんが成敗したりしたから。
龍鱗を使わなくても、あたしの腕力は常人が耐えられる物ではない。
軽く触れただけで、岩に大穴が開くんだから当たり前と言えば当たり前だ。
女将さん、おじさん、お姉さんはそのことを知っていた。
まあ、色々あって・・・結果おじさんはあたし達も何か武器を持った方がいいだろうという結論に達したみたいだった。
ニュアージュの南東にある『グリントの洞窟』。
そこに、数百年前から眠っている武器があると言って、お姉さんがその場所の地図を描いて、あたしに渡した。
行くだけ行ってみようと思って、採取を終わらせた後にその洞窟に着いて、中を見ると何も見えなかった。
自分の手足すらも。
『アミ!アミ!どこ!?』
あの時ハクアは、とても慌てていたな・・・。
相手はおろか自分すら見えないんだから、無理もないんだけど。
エクレールを球状に出して、即席のライトを作り近くにいることをハクアに伝えると、余程怖かった様で、泣きながら抱きついてきた。
一旦外に出て、ハクアが落ち着いた所で手を繋いで中に入り、奥を目指して進んでいくと、やがて広い空間に出た。
『こんな所に人間が来るなんてな・・・珍しいこともあるもんだ』
『ほんまやな』
あれはあたしもビックリしたな・・・誰の姿も見えないのに声が聞こえたんだから。
出所を探していると、こっちだよ、とかそっちじゃねえって、とか聞こえたけど、どこから聞こえてるか分からないんだらどこを向けばいいのかなんて分からなかった。
『後ろを向いて、その方向にまっすぐ進んできてください』
その声に従って、後ろを向き、まっすぐ進んでいくと、何かにぶつかってこけてしまった。
『アミ!大丈夫!?』
『いった~・・・』
『それはこっちの台詞だ。思いっきり倒れて来やがって』
説明が下手な、男の人の声がまた聞こえてきて、あたしは顔を起こして、正面を照らした。
『刀』
そこには刀、ムラマサがいた。
隣にはフュズィも。
『え?武器が・・・喋った?』
後ろでは、ハクアが信じられないと言った顔で立っていた。
武器が喋っちゃ悪いか、とムラマサが言って、それをフュズィが宥めてここに来た理由を聞いてきた。
とりあえず、ありのままを話してそれから自己紹介をした。
『単に嘗められたくないだけじゃねえか』
『そうだね』
『は?なんでお前が認めるんだよ』
『だって、本当にそうだから。それよりさ、ムラマサ達はどうしてこんな所にいるの?』
おじさんの言っていたことが本当なら、ここには数百年誰も足を踏み入れていないってことになるし、仮に誰かが来たなら、とっくにムラマサ達はここにはいないだろうと思ったからそう聞いた。
『簡単だよ。捨てられて、それ以来誰もここには来てないからだ』
『そんな・・・』
そう言ったのはハクアだった。
『誰も来てないの?本当に、誰一人?』
『さあな。入って来た奴はいたかも知れないが、俺たちはそれを確かめる術を持っていないから、分からねえよ』
『まあ、ここに来るだけでも、かなりの精神力が必要になるさかい、誰も来て無くてもなんも不思議はあらへんけど・・・・・・アミはんとハクアはんは、ようここまでこれたな?』
フュズィは不思議そうに言った。
『多分、あたしがハクアと契約してるからだと思うよ?』
『契約?人間どうしの契約なんて聞いたことねえぞ?』
『ハクアはドラゴンだよ』
『『は?』』
『あたしもハクアも、見た目は確かに子どもだけど、百年以上生きてるんだよ?』
言うと、二人はしばらく黙ったままだった。
ムラマサが何か証拠はあるのか、と聞いてきたけど、なにをどうすれば証拠になるのか分からなかった。
『怪我をしてもすぐに治る、じゃ駄目?』
浮かんだのはそれだけ。
龍鱗や翼の方が良かったとも思ったけど、似た様な魔法がいくつかありそうだったから、それにした。
『どんな怪我でもか?』
『ハクア?』
『え?うん、治るよ。その傷が何によってできたのかで時間は変わるけど、どんな怪我も必ず治る』
『だって。貴方が斬ってみる?』
説明を聞いて、ムラマサにそういうと、
『ムラマサはんに付けられた傷は、何があっても治りまへんで?』
とフュズィが答えた。
『そん時はそん時ってことで。じゃ、ちょっとごめんね?』
『は?おい、勝手に触るな!』
『仕方ないじゃん・・・こうしないと斬れないんだから』
文句を言うムラマサを鞘から抜いて、右手の平に突き刺した。
見ていたハクアが、すこし遅れて悲鳴を上げたけど、ムラマサとフュズィは本当にやると思っていなかったのか、言葉を失った様だった。
『これくらいしないと、証明できそうになかったからね・・・ごめんね?勝手に使って』
『・・・・・・』
引き抜いて血を払い鞘に戻そうとしたけど、右手は血だらけになってしまったから、これ以上汚す訳にはいかないと思ってハクアに収めて貰った。
血は止め処なく溢れて、下にある地面にはすこしずつ血溜まりができていった。
『お前・・・そこまでする必要があったのか?』
『ん?だって、証拠はあるのか、って聞いてきたから。どうせやるなら思いっきりやらないとさ、見せても信じてくれないかもだし・・・でも、やっぱり結構痛いな・・・』
『当たり前だ!俺は刀なんだぞ!』
『見れば分かるよ』
右手を見ながら、すごく今更なことを言うムラマサの言葉に応えると、ハクアが大丈夫、と聞いてきた。
『大丈夫だよ。それで?ムラマサに付けられた傷が治らないって、どういうことなの?』
『は?俺が妖刀だからだよ』
『斬ったカ所の魔力を根こそぎ奪って、回復しないようにすr『あ、治った』・・・はい?』
フュズィが何か言っていたけど、右手の痛みが無くなっていることに気付き、血を拭って見てみると傷が治っていた。
ほら、と手を突き出してムラマサとフュズィに見せたら、また二人は言葉を失った。
それから、まあ色々あって、あたしがムラマサ、ハクアがフュズィと契約した。
*
「さて・・・」
『お、行くか?』
「うん。ムラマサ、あたしは貴方を捨てたりしないからね?」
『は?なんだ、会った時のこと思い出してたのか?』
「うん」
『言われなくても分かってるよ。んなこと』
「だよね。これからもよろしく」
『ああ』
起き上がって、腰に差しみんなの方へ駆ける。
みんなも、こっちに来ていたみたいですぐにハクア達が見えてきた。
「みんなー!」
「あみ!」
呼ぶと、一番後ろにいたリリアがすぐさま反応して、二人はそんなリリアの早さに驚いていた。
駆け寄って来たリリアが飛びついてきて、あたしはしっかりとリリアを受け止める。
尻尾を振って、リリアは喜びを表し、胸に顔を埋めてあたしはそんなリリアをそっと撫でる。
「アミ、お疲れ様」
『お疲れどす』
「うん。ハクアとフュズィも、お疲れ」
「吹っ飛ばしてたね?」
「うん。一体ずつ相手にするのは面倒だからね。リリア?羽穴に手を入れないでね?」
「ギク!」
『なにやってんだか』
本来二十分で倒そうとしていた魔物達をあたし達は、物の五分足らずで全て片付け、こうして平和な会話をしていた。
亜「終わったわね?」
作「ああ。次は、なんか面倒なことが起こるからどうにかしてくれな?それじゃ!」
亜「・・・は!?ちょ、なによ!面倒なことって!こら、逃げるな!」