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高町亜美の物語  作者: 大仏さん
第二.五章―リリア―
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―黒獣―

ム『あいつ、どうなるんだろうな?』


ハ「まだ独りで生きて行くには弱すぎるもんね・・・」


フュ『せやけど、生物は危機に瀕した時はとんでも力を発揮するさかい、侮れません』


ラ「でも、それが都合良く発揮されるとは限らないよ・・・」



黒獣の子どもが独りで生きていくことになり、半年が経った。


実際の時間がどれ位経っているのかは分からないけど、こっちではそれだけの時間が経っている。


子どもは、最初の数日は独りになったことで、どうすれば良いのか分からなかったのか、日中は移動して、夜には寝る。


そして目を覚ますとまた移動を始め、夜には寝る。


その行動を繰り返していた。


幸いだと言えた点は、他の魔物の襲撃を受けなかったことだろうか?


でも、それもすぐに終わり、子どもは戦いの毎日を送るようになった。


まだ戦い方を教えて貰う前だったのか、それとも生まれて日が浅いのか。


どちらが原因なのかは分からないけど、危ない場面ばかりだった。


それなのに半年生き長らえられたのは、悪運が強いからかも知れない。


次の一撃を貰えば終わりだと言う場面では、その敵の魔物がまた別の魔物に食べられ、子どもには興味を示さず去っていき、追い詰められた時は天候が味方して無事だったりと、まるで狙っているかの様に子どもに都合の良い事が起こり、無事で済んだ。


そして、半年間、生き延びることができた。


今ではすっかり戦いかたも学び体も三メートル程になっていて、そこら辺の魔物が相手ならまず負けはしない位には強くなっている。



今、子どもがいるのがどの辺りなのか、それは分からない。


これがいつの事なのかも分からないし、見た事もない景色が広がっているから。


見えるのは、大きな森とその中に一つだけある小さな村。


そういえば不思議な点が一つある。


この子ども、人間には攻撃を仕掛けない。


人間から攻撃を加えない限り、自分から襲う事は半年間一度もしていない。


現に


『ひいっ!』


今も目の前に村人がいるのに


『・・・・・・』


子どもは何もしない。


威嚇することも警戒することも・・・本当に何もせず、唯そこにいる。


やがて、なにもしてこないと分かると村人は自分一人では勝てないことを分かっていたから、その場を逃げ出した。


それを追うこともしない。


どうしてなんだろう?


暫く村人が去っていった方をじっと見て、やがてその場に座り込み眠りに着く。


そのまま夜が来ても子どもはずっと起きず、朝日が昇ってくると目を覚ましてまた移動を始めた。


森の中を歩いて移動し、出た所でどこに行こうかと考えるように辺りを眺めて、決まったのか西に向かって走り始めた。


半年前とは比べものにならない程の速さで、子どもはぐんぐんと進んでいく。



よく成長したな、と思う。



やがて野生として、母親の元を離れるこのなるとは言え、それは予期せぬ出来事によって突然起きた。


人間に置き換えて考えてみれば、そんな状況で生きる事ができるのはどれ位なんだろう?


あたしの場合は、こっちに来てすぐに気を失ってしまって、目を覚まして、ハクアと契約して気を失って、次に目を覚ましたら百年が経っていた。


それでも、ハクアがずっとそばにいたから、気が狂ったりすることは無かった。


この子どもは、そんな存在もいないのに、独りで半年間生き延びて、今も元気に疾走している。


艶のある黒い毛を風に靡かせながら。






それから更に二年。


子どもは成長して、成犬となった。


今、子どもがいるのは、ラ・メール近辺の草原で、そこで狩りをしている。


的確に敵を追い詰め、一瞬の隙を突いて仕留める。


そして寝床に持って行き、独りで食べ、食べきれ無かった分はその辺に放っておき、小さな魔物がそれを食べるのを、見守るように見ている。



自分が母親にして貰ったことを、しているのかな?



もしかしたらそうかも知れない。


どうしてなのかは分からないけど・・・。


子どもはその光景を見ている途中で、眠くなったのか、目を閉じて眠りに着く。


音が立たないと分かっていても、やはりこれまでの経験が体に染み付いていて、そっと地面に降りる。


翼をしまって、子どもに近づき、隣に腰を落とす。


触れないと分かっているけど、撫でようと手を伸ばす。


『・・・・・・』


案の定、手は触れる事無くすり抜ける。


地面に座ることができるのに・・・・・・感触は無いけど。


この時間に来て、二年半。


『立派に成長したね?君は』


これから先も、もっと大変なことは起こる。


でも、この子なら大丈夫だと。


そう思える。


何の保障も無いけど、それは確かな予感として、あたしの中にある。



子どもはそのまま、夜が来ても眠ったままで、朝が来ると目を覚まし、移動を始めた。



ラ・メールとはこれでお別れみたいだ。




そして、次に子どもが着いたのは、あたしがハクアと一緒に初めて訪れた街―――ニュアージュ。






三年後。


子どもはずっとニュアージュの近くにある森・・・・・・あたしとハクアが黒獣を倒した森で暮らしていた。


ギルドの人たちの襲撃を退けながら。


最初は分からなかったけど、暫く見ている内に、分かった。




いや、前からうすうす気付いてはいた事が、ここに来て確信に変わった。




『あたしが君を殺したんだね・・・』




首から提げている牙を握りしめてぽつりと漏らす。



そして二年後、その時はやってきた。


休んでいた子どもが体を四本の足で起こし、伸びをして解し準備運動がてら辺りの魔物を狩る。


そして、元の場所に戻ってきて約十分後。


『いた』


『アミ?気を抜いたら駄目だよ?』


あたしとハクアが、子どもの縄張りに入ってきたのは。



こうやって自分を客観的に見ると言うのは、不思議な感覚だ。



子どもからは、少し驚いた様な気配が感じられる。


今まで来ていたのが、男ばかりだったことと、あたしとハクアが女で子どもだからだろう。


でも、力を感じ取ったのか、子どもは今までとは違って最初から本気でかかることを決めた。



君は、こんな気持ちであたし達と戦ってくれたんだね。



戦いが始まり、けれど結果が変わるなどと言うことは起きることなく、子どもはあたしとムラマサによって命を落とした。



その直前に子どもが願ったのは、もう少し生きたいとか、母親に会いたいとかじゃなくて




――このあたしの側にいたい




それだけだった。





ハ「・・・・・・・」


ム『・・・何も言えねえな・・・』


フュ『そうどすな・・・』


ラ「え?どうしたの、みんな?ねえ」


作「今はそっとしといてやってくれ」


ラ「ぁ・・・うん・・・」


作「スマン」

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