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高町亜美の物語  作者: 大仏さん
第一章―ウルベリア―
2/31

―契約―


『やっと目を覚ましてくれた!』


「え?」



目の前にいた、心配の色を浮かべてあたしを見ていた白いドラゴンに驚く前に、何か声が聞こえてどこから聞こえたのか辺りを見回してみた。


どうやら此処洞窟のみたい。壁には松明や照明と言った光源が無いのに、何故か遠くまで見えるほど明るい。大きさから考えると、ドラゴンの巣か何かかも知れない。


適当に見回して、もう一度ドラゴンに視線を戻そうとしたら、


『どうかした?』


とまた声が聞こえた。



頭の中に・・・直接?



そんな感じだった。



こんな経験はしたこと無いし、するなんて思ってなかったから、分からないけど、所謂テレパシーというやつかもしれない。それなら、あたしに話しかけているのは、目の前のドラゴンってことになるのかも知れないけど・・・どうなんだろう?


「今、あたしに話しかけているのはあなたなの?」


自分で言うのも何だけど、いつになくあたしは真剣になって聞いた。


旭と雫が見たら、多分驚くかも・・・。



『うん。もう大丈夫?』



声が聞こえて、明らかにあたしの質問に答えている回答言葉だったから、声の主はこのドラゴンだと確信できた。


どこか幼さを残すような声をしていて、でも通る声。



外見も手伝ってか、余計に綺麗に見えた。



と、今はそんなこと考えてる場合じゃないか・・・。



「いきなり変なこと聞いてごめん。助けてくれてありがとう」


『ううん。ボクがそうしたいからしただけ』


「それでも、助けられたことには変わらないから・・・。それで、どうして、あたしを?」


ドラゴンがどんな生命体なのか、なんてことは分からないけど、漫画なんかでは大抵が強敵として描かれたりしている。


そんなドラゴンがどうして、人間を助けたんだろう?



考えたけど、返ってきたのは


『助けたいと思ったから』


と言う、なんとも表現しがたい言葉だった。



回答として少しずれている気がしたけど、本人がそう思って行動したなら、あたしにとやかく言う筋合いはない・・・。


「そっか」


『ねえ、貴女の名前は?』


「え?あ、そっか・・・名乗ってなかったね。あたしは高町亜美」


『アミ・・・。いい名前』


「ありがとう。あなた?」


そう聞くと、ドラゴンは少しの間黙った。


『・・・わたしに名前はないの』


「・・・・・・」


それを聞いても、あたしは不思議と取り乱さなかった。



白亜はくあ



『え?』



「え?あ・・・何だろう?あなたを見てたら、急に浮かんできたんだけど・・・ごめんね?なんでも ないから気にしないで」


本当に急に、浮かんできて、自分でも戸惑っていた。


『ハクア・・・』


ドラゴンはその単語を噛みしめるように、呟いて、その後も何度か繰り返した。


『わたしと契約して?』


「え?」


多分十回目くらい、ハクア、と呟いた後、ドラゴンは唐突にそう言った。契約って言うのがなんなのか、そんなことは分からない。


分からない筈なのに、分かった。


だから



「うん」



あたしは頷いた。



立ち上がり、ドラゴンと向かい合う。



目を閉じて、意識をドラゴンにだけ集中すると、唯でさえ静かだったこの洞窟が余計に静かになったような気がした。感覚が鋭くなっているのか、周りに存在する小さな存在。それがなんなのか分からないけど、それも感じ取ることができる。



『我の御魂は汝と共に


汝の御魂は我と共に』



「汝の御魂は我と共に


我の御魂は汝と共に」



キン、と甲高い音が聞こえた。



『汝我に名を与えたまえ』



「汝の名はハクア」



『我の名はハクア』



「『我の御魂は汝と共に


汝の御魂は我と共に』」



ゆっくりと目を開きながら、最後の言葉を紡ぐ。



あたしとハクアの立っている場所に何か、複雑な紋様が浮かんだ、円が浮かんでいた。


例えが、魔法陣くらいしか思い浮かばないけど、多分それに近いもの。



『後はお互いの血を一滴飲めば、儀式は終わり』



人差し指をハクアの前に出して、鈎爪で指先をちょんと突いてもらうとそこから血が、少し膨らむように出てきた。顔を降ろしてきて、ハクアは指先を舐めて、こくん、とその大きな喉を鳴らした。


すると、ハクアの体が柔らかい光に包まれて、姿が段々変わっていった。


小さくなっていき、その姿は少しずつ人間に近づいていった。




光が収まった時、そこには小さな女の子が立っていた。




髪はあたしと同じくらい白くて、身長はあたしより少し高い位。服装は白いワンピースだけ。


肌は白いけど、不健康な印象は全くない。



少女の姿になったハクアは自分の指先を噛み、あたしの方に突きだしてきた。



その指先を口に銜えてその血を舐め取り、飲み込む。



ドクン、と心臓が鳴り、体の中が熱くなった。



この後すぐにあたしは意識を失うことを、どうしてか分からないけど、分かっていた。



この先、あたしはこの何も分からない土地で生きていく。



多分・・・いや、きっと元の世界には還れない。



二人にも、もう会えない。





「泣かないで?」





その言葉を最後に、あたしは意識を失った。




旭。


雫。




―――さようなら




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