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高町亜美の物語  作者: 大仏さん
第二章―契約者―
17/31

―感謝―

亜「ねえ、依頼人の所の落ちはもう殆どの人が気付いてると思うんだけど?」


ハ「だよね。凍らせる、って言ってたし・・・」


作「だから、凍らせるのはパッとやってすぐ宿に戻る。本当にパッと凍らせるから。後は、いい加減他の契約者を探しに行こうかな・・・と。お前も会ってみたいだろ?」


亜「うん。三人はもちろん、もう一体の契約していないドラゴン、気になるから」


ハ「そしたら、ライトさんたちとはお別れだね。おじさんたちにも挨拶しないと」


亜「うん。十年もお世話になったし、何より秘密を知ってる数少ない人たちだもんね」


作「飛んで行けば一瞬だからな」


亜「あ、そっか・・・あたしたち飛べたんだ」


ハ「徒歩が殆どだったから忘れてた・・・」


作「はっは~」


「居合い術二式・一ノ型―――樹氷林ジュヒョウリン


依頼人の家に行き、中に迎えられお茶を準備している間に家を凍らせて退散する。


名前の通り、この技は氷を樹の様に至るところから発生させる。


居合いで氷り属性のレクレールをばらまき、剣を納めればそれが合図となって一気に氷の樹がその芽を出して植えに敵がいれば串刺しになるし、それができなくても足止めとしても機能する。


結構使い勝手が良い技だ。


荷物も全部氷っているか、壊れているかしているだろうけど知ったこっちゃない。


ここに来る前に依頼人の評判を聞いたけど、良い話なんてひとつも出なかったからね。


問題ないでしょ。


「周りの人結構驚いてるね」


「そうだね・・・別にいいんじゃない?関係ないし」


その後宿に戻り、事の旨をライトさんたちに伝えた。


「早かったな?」


「はい。さっさと凍らせてきたので。結構綺麗にできたんで、後で暇があったら見てみてください」


「はは。分かったよ」


その後、ライトさんから報酬を貰ったけど、あたしが本当に貰っても良いのか疑問だった。


今回の依頼で、あたしは何もできていないのに。


そう思って返そうとしても、ライトさんたちはそれを受け付けなかった。





「じゃあな?元気でやれよ?」


「またいつかな?」


「ホー」


「ばいばい、ラーニャ」


手を振るレイユちゃんにラーニャも手を振って答える。


あたしとハクアも手を振る。


ラーニャは本人の希望であたしたちと一緒にいることになった。


レイユちゃんがしょんぼりしていたけど、二度と会えないって訳じゃない。


ラーニャもレイユちゃんも、まだまだ生きるんだから。


「ばいば~い、レイユちゃ~ん」


お別れを済ませた後、あたしたちはラーニャの服を買うことにして今は服飾店にいる。


「ラーニャ、どんな服がいいの?」


ハクアが聞いた。


「アミたちと同じのがいい」


「同じって、着物?」


「うん。あ、あんな感じの!」


着物なんて店で売っているのを見た事がないから、見つからないだろうと思っていた矢先にラーニャが店の一角を指さした。


そこには確かに着物が一着だけあった。


オレンジの布地で模様はないけど、落ち着いた印象を受ける。


確かにラーニャには似合うかも。


「それじゃ、あれにする?」


「うん!」


ラーニャは元気に頷いた。


三人で着物に近づいて行くと、何か力を感じた。


「ハクア」


「うん。魔具だね」


「ラーニャ、分かってた?この子が魔具だってこと」


ラーニャは首を傾げた。


ムラマサたちには気付いたのに、どうしてだろう?


・・・・・・あ、そういえばムラマサたちには気付いたけど、着物には気付いてなかったか。


何か基準でもあるのかな?


ムラマサとこの子の違いは喋らないってことだけなんだけど、それかな?


「まあ、いいか。この子がいいんだよね?」


「うん」


「えっと・・・あれ?この子、銅貨一枚だよ?」


値段を見たハクアがおかしい、といっているようにそう言った。


確かに可笑しいけど、単に見る目がなかっただけだろうし、気にすることはない。


「値段なんてどうでも良いって。高ければ良いってもんじゃないし、たとえやすくても自分が気に入った物なら長く使おうと思うんだしさ。あたしたちだって、この子たちとはもう十年一緒なんだし」


「それもそうだね」


「ラーニャ、試着してみたら?」


「うん。ちょっと待っててね?」


着物を持って試着室に入ったラーニャに誰も近づかないように前で待っていたけど、十分くらい経ってもラーニャは出てこなかった。


なんか、苦戦している様な声は聞こえるけど・・・あれかな?


着付けに苦戦しているのかな?


それから更に三十分程まって、やっとラーニャが出てきたけど、やはり上手く着ることができなかった様で崩れていた。


またその崩れ方がね・・・右肩が盛大に垂れていて、白い肌が露わになっていたり、左足が殆ど露出されていたりと・・・無駄に色気があった。


「うぅ~・・・アミぃ~・・・」


で、そのまま半泣きであたしに抱きついてきた。


可愛いな。


「あ~、泣かないの。ほら、直してあげるから、まっすぐ立って?」


「はは、初めてだと苦戦するよね」


「あたしたちはすぐにできたけどね」


喋りながら整えて、帯を締めると少し苦しそうに呻き声を上げたけど、これは我慢して貰わないと。


尻尾はどうしようかな?


穴を開ける訳にもいかないし・・・いや、あたしたちが言えることでもないんだけど。


「ラーニャ、尻尾はどうする?」


「う~ん、穴開けたいけど、そうするとこの子が痛いだろうから・・・このままでいいや。慣れるまで歩く時ふらつくかもだから、支えてくれる?」


「分かった」


「服はその子で決まったけど、武器とかはどうする?戦えないなら、わたしたちで守りながら戦うから問題ないけど」


「う~ん・・・今はいいんじゃない?帰りは飛んでいくから戦闘もないし」


「あ、そっか」


それから店員さんを呼んで、その場で銅貨一枚を渡して店を出た。



街を出て、少し歩いたところでラーニャと着物の契約が終わるのを待つ。



契約が終わって、これから飛んで行くと言うことで、ラーニャをお姫様抱っこして翼を出すと、かなり驚いていた。


ハクアも既に翼を出していて準備はできている。


「しっかり掴まっててよ?」


「う、うん」


まだ少し戸惑っているラーニャをしっかり抱えて、最初にあたしが飛び立ち、後からハクアも飛んできた。



ニュアージュに向かって飛行しながら、ラーニャにあたしたちのことを伝える。



「あたしはね、ムラマサとこの着物、二人の魔具と契約しているんだけど、もう一人、ハクアと契約してるの。ラーニャはドラゴンと契約した人のこと、知ってる?」


「え?うん・・・今までで三人しかいないってことだけなら」


やっぱり一般に伝わっているのはそれくらいなのか。


「わたしは、そのドラゴンなんだよ?」


少し後を飛んでいたハクアが隣に並んで飛行しながらそう言った。


「・・・・・・・・・・え?」


長い間をおいてラーニャの口から出たのは、その一言だった。





全部ラーニャに説明した後、ニュアージュに到着して、女将さんに挨拶とラーニャの紹介をして、そのまま街をでることを伝えると、女将さんは


「・・・・そうかい・・・寂しくなるね」


と確かに寂しそうだけど、笑いながらそう言ってくれた。


「でも、また来ますから」


「もちろんだよ。さよならしてもう来ない、なんて許さないからね?」


「はい。それじゃ、荷物纏めてきますね?」


でも、部屋に戻ろうとしたあたし達を女将さんが止めた。


「何となく予感はしてたんだ。もう纏めてあるよ」


そう言って、あたしの鞄をカウンターにおいた女将さん。


「あんた、この服と鞄、ずっと持ってたよね?中に入ってる、この世界じゃない文字がたくさん並んでいる書物とか、見たことないけーたい、とかいうのも」


鞄をあたしに差し出しながら、女将さんは懐かしむように言った。


鞄を開けて、筆箱を取り出しピンクのシャーペンを一本出して、女将さんに渡した。


「それ、差し上げます。なくさないでくださいね?」


「・・・・・・ああ。もちろんだよ。何があっても手放さない」


「はい。それでは、十年間お世話になりました」


「わたし達の秘密も、守ってくれてありがとうございました」


あたしとハクアがお辞儀をしたのを見て、自分もしなければ、と思ったのかラーニャも何となくと言った感じで頭を下げた。


「そんなの当たり前だよ。ほら、ギルドの二人にも挨拶しなきゃだろ?早く行きな?」


「「はい」」


「あんた達が私の何倍も生きてるなんて、未だに信じられないよ」


女将さんは最後にそういって、優しく微笑んだ。



次にギルドに向かって、おじさんとお姉さんにも同じ事を伝える。



「そうか。まあ、元気でやれよ?ほら、おめえも泣くんじゃねえ」


「うっ・・・ですが・・・ぐす・・・」


「たく」


「本当にお世話になりました。これ、受け取ってくれますか?」


「これは・・・?」


差し出したのは、赤と青の二本のシャーペン。


「あたしの世界で、文字を書くのに使っていた物です」


「そうか。分かった、受け取らせてもらうとするよ」


最初におじさんが青いシャーペンを受け取ってくれた。


「お姉さんも・・・受け取ってくれますか?」


「う・・・もちろん・・・よ・・・あり、がとう・・・うぅ」


涙を遠慮なしに流しながら、お姉さんは赤いシャーペンを受け取ってくれた。


「また、必ず来ますから、その時はよろしくお願いします」


「ああ。どっかでくたばりでもしたら、許さねえからな?」


「分かってますよ。おじさんこそ、そろそろ年なんだから無茶はしないでくださいよ?」


「ハッ!まだまだガキに心配される程、落ちぶれちゃいねえよ」


「・・・ホンとは・・・嬉しいくせに・・・ぐす」


「うっせえ」


お姉さんの言葉に、おじさんはその一言だけを返した。


「それと、ありがとうございました。秘密を守ってくれて」


「んなのは当たり前だ。礼を言われるまでもねえ」


「アミちゃん、ハクアちゃん、それにラーニャちゃんも。いつでも歓迎するからね?」


「はい」


「お土産とか、色々持ってきますね?」


「えっと・・・ありがとうございます」


「それでは、行きますね?本当にありがとうございました」


「ああ」


「うぅ・・・元気でね!」


おじさんと未だ涙を流しているお姉さんに見送られて、あたしたちはギルドを出た。





『それで、次はどこに行くんだ?』


『契約者を捜すと言うても、当てがありませんからね』


「いいのいいの。適当にぶらぶら~と旅をしていれば、その内見つかるって」


「そうそう。見つけようと思って見つけられる所にいるなら、とっくに見つかってるからね」


「ドラゴンって、怖くないのかな?」


「怖くないよ。ハクアは怖くないでしょ?」


「うん」


「他のみんなも、契約していない一体を除けば、人の姿をしてるから大丈夫だよ」


そんな会話をしながら、


『やっぱ、八年もいた街を出るとなると、名残惜しいもんがあるな・・・』


『不思議なもんなやなあ・・・。うちらは、もっともっと永い時を生きとるゆうのに』


『アミたちと出会ってからだよな?一日一日が楽しくなったのは』


『そやな。それまでは、ひたすらあの場所で誰かが来るのを待っとって・・・はっきりゆうて、あんな所に来るんは、変な人たちやと思っとったけど。意外とまともでびっくりしたわ』


ムラマサとフュズィの会話を聞きながら、あたしたちは街道をゆっくりと歩き当てのない旅を続ける。



今度はどんな出会いがあるのかな?



青い空を眺めながら、あたしは期待に胸躍らせていた。



亜「それで?次はどこに向かうの?」


ム『どうせ決めてないだろ?』


作「もちろんだとも」


亜「威張るな」


ハ「まあまあ。ラーニャの故郷に行ったりはしないの?」


作「ラーニャ本人がそれを望むなら、探すけどさ・・・」


フュ『ラーニャはんはどう思てはるんですか?』


ラ「・・・分からない・・・でも、アミたちがいるなら、それでいい」


作「だってさ」


亜「そっか・・・。なら、気ままに旅を続けようか?」


ラ「うん」


ハ「よろしくね?」


ム『まあ、楽しくなるさ』


フュ『ええ。賑やかなんは嫌いやありません』


作「だな」


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