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武芸大会①

 新野城の広場に続々と人が集まってきていた。

 お目当ては武芸大会を見ることだ。見れば観覧席まで設けられており、武芸大会の規模が伺える。

 俺と魏延は出場の意を係りの者に伝えると、控え所に通された。


 筋骨隆々な人が目立つが、一芸に秀でているのか、細身の人もいる。

 様々な人々がいる中で魏延は、ふむ、と声を上げた。


「ここにいる連中で怖いのは、あの二人かのぉ」

「誰ですか?」

「あそこの長い髭のおっさんに、厳めしい面をした若もんじゃ。他は大したことないのぉ」

「大きな声で言わないでください」


 魏延が放った余計な一言で、控え所にいる者達が一斉にこちらを向いた。

 俺は何度も謝ると、何かを言いたげだったがもめごとには発展しなかった。しかし、魏延の言った二人を見ると、その力強さが感じられた。

 できるだけ当たりたくない人たちだが。


 そうこうしていると、武芸大会の開催が始まった。

 広場に集められたのは、いずれも武芸者と思われる猛者たちだ。総数で三十名以上の男たちが集まっている。

 司会者が武芸大会の開始を告げると、大きな銅鑼がならされた。武芸大会の始まりだった。



 武芸大会は勝ち抜け方式のため、割り振られた組によっては魏延と当たるのが早すぎたりするかもしれない。

 俺は対戦表を見ると、順当に行けば準決勝で魏延と当たることになる。

 これは良いことだ。疲れが溜まってきたところで、勝ちを譲ることができればそれに越したことはない。安堵の笑みを浮かべていると、魏延が口をへの字にして対戦表を見ていた。


「魏延さん、どうかしました?」

「おお。ワシが言っておった、あの二人じゃが、わしらと当たるようじゃ」

「えっ? 本当ですか。何て名前ですか」

黄忠こうちゅう文聘ぶんぺい。こやつらは一筋縄ではいかんぞ」


 魏延に誰のことかを聞くと、髭を伸ばした壮年の男と、まだ若い武芸者の男を指さした。

 確かに強者の空気を身にまとっている。腕っぷしの強い魏延の言うことだ。これは大変な相手のいる組に入ってしまったようだ。

 試合開始の宣言がされ、名前を呼ばれた武芸者たちが控え所から外に出て行った。


 正直見ていると、つまらない試合が多い。

 俺達と違う組になった人たちの強さはそうでもなさそうだ。

 となると、こちら側は激しい戦いが行われる可能性が高い。気合を入れていると、俺の名前が呼ばれた。


 俺の相手となる男は、腕白な子供がそのまま大きくなったような荒々しさをみせている。

 初めの銅鑼がなると同時に、男が木剣を持って突撃してきた。俺はそれを軽々と交わすと腕と背中に一撃ずつ木剣を叩きつけた。

 男は腕に強い痛みが走っているのか、木剣を握れなくなっていた。


 審判が白旗を上げた。


「勝者。馬岱」


 歓声が響く。ここまでの力量さならば当然のことだ。他の武芸者たちの戦いをしっかり見ておかなければ。

 試合が進み、文聘の戦いが来た。魏延が強敵と目していた人物だが、どれほどの者だろうか。

 文聘の相手は、こちらもただの荒くれものにしか見えない。それほど難しい相手ではなさそうだが。


 文聘が先に動いた。その速さに、俺は視線だけを動かして追った。

 振り上げた木剣が男の脳天に叩きつけられる。と思った瞬間、文聘の動きが止まった。

 寸止めをされた相手は、へなへなと腰から砕けて地面に座り込んだ。


「勝者、文聘」


 呆気に取られていた観衆が大きな拍手を始めた。

 文聘はそれに応じることなく、控え所に戻ってきた。圧倒的な強さを見せた文聘だが、その表情におごりはない。

 厄介な相手がいるものだ。


 そうこうしていると、試合は進み。魏延が認めていた黄忠の出番となった。

 黄忠は木剣を構えると、相手の出方をじっと見据えた。この気迫を受ける側は辛いだろう。

 打ち込めば楽になれる。そう思ってしまうほどの剣気だった。


 雄たけびを上げた男は木剣を振りかぶって駆け出した。

 耐えきれなくなったのだ。黄忠に剣が届く前に、黄忠が更にその先に踏み込んでおり、男の腹に強烈な一撃を与えた。

 男は倒れると地面でもんどり打っている。


「勝者、黄忠」


 試合に勝った黄忠は髭をさすりながら、試合会場から控え所に戻ってきた。

 黄忠という相手も油断ならない。文聘と黄忠。甲乙つけがたい。このまま勝ち上がれば、俺は文聘と。魏延は黄忠と当たることになる。

 厳しくなりそうな予想している間にも試合が進んだ。次に呼ばれたのは魏延であった。


「魏延さん、頑張ってくださいね」

「おう。任せとけ」


 筋肉を見せつけた魏延が会場に向かった。

 審判が試合の宣言を始める前に、魏延は木剣を捨てた。

 このことに会場中がざわついた。審判が何事かを魏延に詰め寄る。


「魏延、木剣を持たないか。それとも棄権ということか?」

「いや、どっちでもない! ワシは剣の腕を磨いとらん。そんな奴が剣を手にしても面白くなかろう?」

「では、木剣はいらんのだな?」

「おうよ」


 これには会場中が歓声をあげた。面白い戦いが見れると思ったのだろう。

 確かに魏延は剣を持ってはいなかった。今まであの腕一本で戦ってきたということか。

 控え所の中から魏延を馬鹿にする声が聞こえた。だが、黄忠と文聘は違った。この二人だけは魏延の強さが分かっているようだ。


 試合開始の銅鑼が鳴らされると、相手は木剣を構えてじりじりと魏延に近づく。徒手空拳で木剣とやり合えるのか。

 俺の心配を他所に、魏延は相手に飛びかかった。


 空中で蹴りを繰り出すと、相手の側頭部に命中。それだけでもかなりの重症だろう。木剣を落として地面に倒れ込んだ。

 

 あっという間の勝負に観衆も空いた口が塞がらないようすだった。

 少し間を置いて、審判が旗をあげた。


「勝者、魏延」


 わっと、歓声が上がった。まさか素手で戦って勝つなど誰も想像していなかっただろう。 

 魏延が控え所に来ると、誰もが一本引いていた。

 いや、黄忠と文聘だけは魏延をじっと見つめている。


「どうじゃ、馬岱? 上手くいくもんじゃろ」

「ビックリしましたよ。剣を使ったことないんですか?」

「ない! ワシはこの腕だけで生きてきたのよ。簡単に負けん」


 この調子なら次の試合も勝てるだろう。

 試合は順調に進んでいく。俺も怪我を負うことなく進み、魏延もその膂力で相手を叩きのめしていた。


 俺の次の試合は文聘だ。魏延が注目していた人物との戦いだ。

 控え所を後にすると、文聘と相対した。それだけで分かる。この男は只者では無いと。

 だが、同時に安心もした。孟起のように計り知れない力ではない。俺でも十分に戦えるのではないか。


 試合開始の銅鑼がなると、俺と文聘は互いに接近した。

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