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居候

 牢屋で一晩を過ごした後、俺と魏延は牢屋から解放された。

 あとは、家に帰って飯を食べて、司馬徽の塾に行くだけだ。だけなのだが。


「魏延さん、なんで着いてくるんですか?」


 俺は振り返って言った。そこには何食わぬ顔で魏延がいた。


「なに言うとんじゃ。ワシは宿無し。着の身着のまま新野に来たんじゃぞ? そんな可哀想なワシをお前は放っておくんか?」


 正直、放って置いて帰りたい。馬騰から送られてくる金で暮らしているため、一人くらい抱えても生きてはいけるが、それは魏延じゃない気がする。


「勝手に来たのに自分で可哀想なんて言わないでください」

「まあまあ、ええじゃないか。お前がどんな暮らしをしてるのかも見たいしな」


 俺は肩を落とすと、再び家へと帰ることにした。

 のどかな光景を眺めていると、魏延が喋りかけてきた。


「静かなもんじゃのぉ。乱世が嘘のようじゃ」

「ここら辺は静かなものです。ここにいると、この世界で血が流れていることを忘れそうになります」

「馬岱はどうして、ここに来たんじゃ?」


 昨日の夜に涼州から来たことは伝えていたので、気になったようだ。


「勉学に勤しむためですよ。荊州は学者や知識人が多いですからね」

「勉学に勤しんでどうなる? お前は強いのにもったいない話じゃ」

「勉学を修めるのも、強さに繋がると俺は思ってます。力だけじゃないんですよ」

「ほーん、そんなもんかねぇ」


 魏延がつまらなさそうに返してきた。どうやら力比べ以外にあまり興味が無いらしい。


「魏延さんは勉学に興味は無いんですか?」

「あるように見えるか?」


 聞いた俺が馬鹿でした。とは言わなかった。

 家に着いて、玄関の戸を開けると、魏延がズカズカ入ってきた。


「外はボロく見えたが、中はいい感じじゃのぉ」

「あんまり触らないでくださいよ」

「分かっとる。ワシの寝床はどこにしようかの」


 勝手に住む気満々だ。このままでは家を乗っ取られそうな気がする。

 どうしたものかと考えていると腹の虫が鳴った。

 だが、それは俺ではない。魏延の腹からだ。


「腹が減ったのぉ。馬岱、なんか作ってくれ」

「俺が作るんですか?」

「ワシの料理が食いたいなら考えるが、美味くないぞ?」


 身勝手な人だ。家に住むだのなんだのしてるのに。

 仕方がない。朝食を作るとしよう。

 ツバメを呼び出すと薪に火をつけた。


「お前、なんじゃ今のは!?」


 しまった。いつもの癖でツバメを使ってしまった。

 俺が王力を持っていることがバレてしまったのだ。どうする。


「今のは、まさか王力ではないか?」


 魏延でも、王力の存在は知っている。それほどに有名な力なのだ。


「狼の王力……。お前、馬騰の部下か?」


 ここまで知っていて隠すのは無理だろう。俺は魏延に向き直った。


「そうです。私は馬騰様から王力をいただきました」

「その感じ……。殺して奪った感じじゃないのぉ」

「そう信じていただるなら結構です」

「のぉ、馬岱?」


 魏延が首を傾げて、俺に問いかけてきた。


「なんで前の喧嘩のときに使わんかったんじゃ?」

「使えば王力を持っているのがバレるじゃないですか。変な疑惑はもたれたくないんです」

「なるほどのぉ。分かった! このことは二人の秘密じゃ」

「えっ?」


 俺は思わず声を上げてしまった。

 脅したりしてくるかもと思っていたが。


「人には一つや二つ、大きな隠し事があってもええ。ワシはそう思う」

「ありがとうございます。秘密にしてもらえると助かります」

「気にするな。ワシとお前の仲じゃ」


 どういう仲だろうか。一緒に牢屋で一夜を過ごしただけだが。

 とはいえ、秘密にしてもらえるのは助かる。王力持ちがウロウロしていては荊州を統治している劉表に怪しまれるだろう。


「秘密を分かち合ったところで、さっさと飯にしようや」

「はいはい。ちょっと待ってください」


 俺は朝食の準備をするために野菜を切り始めた。



 司馬徽の塾で講義を終えた俺は大きくため息をついた。

 それを察してくれたのか徐庶が語りかけてきた。


「おい、馬岱、大丈夫か? 浮かない顔しているが?」

「実はですね」


 俺は昨日あったことを徐庶に話すと、大笑いされた。


「勝手に上がり込んで来たか。魏延ってやつは相当な玉だな」

「暮らしてはいけるんですけど、調子が狂うと言うかなんと言うか」

「これは半分は龐統殿の責任だな。な、龐統殿?」


 近くで聞き耳を立てていたのだろう。龐統が苦笑しながら頭を下げた。


「ごめんなぁ。まさか、そんなことになるなんてなぁ」

「いえ、龐統殿が悪い訳では。まあ、飽きるまでの辛抱かと」

「魏延 文長かぁ……。覚えていてもぉ、損は無さそうだねぇ」

「確かに、腕はたつと思います」


 自分で言うのもなんだが、俺はかなり鍛えていると思う。それでも、勝ち筋が見えなかった。

 魏延には俺以上の力があるかもしれない。


「ま、しばらく頑張れ。女じゃないのが残念だがな」

「徐庶殿、楽しんでませんか?」


 湿った視線を送ると、徐庶は楽しそうに笑った。龐統も小さく笑っている。

 誰か俺の味方はいないのか。そう思っていると、諸葛亮が傍に座った。


「住まれる方が増えたのなら、お金もご入り用でしょうね」

「そうなんですよね。稼いでくれればいいんでしょうけど、そんな気がしないです」


 魏延には悪いが、俺の中での評価はその程度だった。肩を竦めた俺に諸葛亮が口を開いた。


「今度、新野城で武芸大会があるそうです。優勝者にはそれなりのお金が出るとか。馬岱殿は腕がたちますし、その魏延という方も強いのでしょう? 一緒に参加したら、優勝しやすくなるのではないでしょうか?」

「武芸大会とかあるんですね」


 確かに諸葛亮の言う通り、俺か魏延が出れば勝算は大いにある。

 仮にどちらかが当たっても、勝ちを譲れば無傷で次の戦いに挑めるのだ。

 悪くない考えだと思う。


「諸葛亮殿、ありがとうございます。魏延さんに参加しないか話をしてみます」

「参加するのなら、応援しに行きます」

「ありがとうございます」


 賞金があるなら魏延も乗り気になってくれるだろう。というか、なってもらわないとただの居候になるので、無理矢理にでも参加してもらおう。 

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