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策戦

 俺は諸葛亮を後ろに乗せて、馬を走らせていた。


「馬岱殿、何があったのか、お話いただけないでしょうか?」

「実はここ最近、賊が出没しているらしく、徐庶殿の村が襲われるかもしれないんです」

「なるほど。それならば、急ぎましょう」

「ありがとうございます。少し飛ばします」


 馬の手綱を振るって、速度をあげた。



 徐庶の住む村と思われる場所についた。

 大勢の人が村の中心に集まっている中に徐庶の姿が見えた。


「徐庶殿!」

「おお、馬岱か!それに諸葛亮? 二人してどうしてまた」

「徐庶殿の村が賊に襲われるかもと聞き、二人で駆けつけました」

「そういうことだったのか……。今、ちょうど、そのことを話していたところだ」


 俺達の登場で会話が途切れていたのか、再び人々が不安を口にした。


「賊っていっても、数十なら戦えるんじゃないのか?」

「何を言っている。まずは逃げるんだよ。食料を持ってよ」

「腹いせに家を焼かれたらどうする! 大人しく少し渡せば引くかもしれん」


 色々な案が出ている。俺は徐庶を見ると、少し肩をすくめた。


「これではまとまりませんね」

「ああ。こうしている間にも賊が来るかもしれない」

「戦うのなら、力になれると思います」

「ああ。助かる。だが、みんなが一致団結しなければ戦うにしろ、逃げるにしろ、上手くは行かんだろう。何しろ長老が決めあぐねている」


 人だかりの中心にいるのは、年季の入ったしわ顔の老人が悩ましそうに唸っていた。


「長老が決めれば動けるがな」

「徐庶殿には何か策はないのでしょうか?」

「いくつか考えた。が、被害が出てしまうものが多い。できれば被害がないようにしたいが……」


 徐庶は村の人々とは家族のようなものだろう。

 その人たちに被害が出るのを避けたいとの考えがあるに違いない。

 俺も被害がないに越したことはない。俺は諸葛亮に助けを求めた。


「諸葛亮殿、何か良い案はございませんか?」

「今は情報が少なすぎます。守るにせよ、逃げるにせよ、まずは敵を知りましょう」


 確かに、その通りかもしれない。知らないからこそ、余計に怖くなってしまうものだ。

 俺は徐庶に言う。


「徐庶殿、今から俺が斥候にでます。賊が動いている方角は分かりますか?」

「馬岱、お前。……わかった。これまで賊の荒らした村の範囲を考えると」


 徐庶は地面に地図を書き始めた。

 いくつかの村を丸で書いて、襲われたところにばつを書いた。

 この地図通りなら、次に襲われる可能性があるところも分かるかもしれない。


「徐庶殿、ありがとうございます。村が見渡せる丘に行ってまいります」

「無理はするなよ」

「荒事には慣れております」


 俺は軽口を叩くと、諸葛亮の馬を借りて村を出ていった。

 起伏のある大地を走り、徐庶の書いた地図を思い出しながら遠くを見る。

 すると、遠くに黒い煙が上がっているのが見えた。


 まさか、あそこか。

 俺は馬を走らせると、煙の上がる方角へと向かった。遠目に見える。家が燃えている様が。

 酷い。俺は心の内側が弾けそうな怒りに襲われた。


 それを何とかこらえる。俺が一人いっても、事態は変わらないだろう。

 怒りで手が震えるの必死で押さえ込み、賊の数を数える。

 馬に乗っている者が十一名。どれも立場が上なのか、村の外側から事態を眺めている。


 村の中で暴れ回っている者たちは、正しくは数えられないが、武器を持った者が二十名は超えている。

 調べるのはここまでにしよう。俺は馬首を返すと、徐庶達の村へ向かった。

 村へ帰ると徐庶が駆け寄ってきた。


「どうだった?」

「賊は三十名を越しております。そのうち馬に乗っているのが十一でした」

「そうか。助かった。馬に乗ったヤツらが脅威だな。迎え撃つには少し数が多い」

「村で戦える人はどれくらいですか?」


 徐庶は一人一人名前を呼びあげると、若い男達が集まってきた。


「このくらいだな」


 合わせて十八名。ここに俺と徐庶が加われば二十名になる。数で負けている中で、武装した集団にどう立ち向かうか。


「馬に乗っていた者たちの中に賊の頭目はいると思います」


 俺がそういうと、徐庶は少し考えると頷いた。


「なら、馬と人を分断するか。馬に乗っているヤツを殺せば賊の勢いは弱まる」

「そうですね。ただ、こちらにも犠牲は出るでしょうね」

「ああ。そこは割り切るしかないだろう。馬に乗ったやつをおびき出して叩く。囮は俺がやる」


 危険なことを徐庶は言った。自らを囮にすることで敵を集めようとしているのだ。

 俺はすぐに首を横に振った。


「徐庶殿、その役割は私がします」

「ありがたいが、これは俺達の村の問題だ。お前を――」

「徐庶殿はお忘れですか? 母上が大事なのでしょう?」

「それは……」


 図星だったのか徐庶は俺から目を背けた。責任感の強いところは美徳だが、大事な人のことを忘れてはならない。


「その役割は不要です」


 突然、諸葛亮が割って入ってきた。囮が不要とはどういうことだろうか。


「諸葛亮、何か考えがあるのか?」


 徐庶の問いかけに、諸葛亮は静かに頷いた。


「私が策を考えます。徐庶殿と馬岱殿は、戦闘に専念してください」

「囮が不要ならば、どうする? 迎え撃つのか?」

「いえ、迎え撃ちません」


 俺は首をかしげた。どういう意味だろうか。迎え撃たなければ、数で負けているのに、どうやって勝つというのだ。


「諸葛亮、まさか、お前……」


 徐庶は何かを察したようだ。俺には思いつかない何かを。


「賊に村をくれてやれば良いのです」


 諸葛亮の言葉に俺は絶句した。

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