策戦
俺は諸葛亮を後ろに乗せて、馬を走らせていた。
「馬岱殿、何があったのか、お話いただけないでしょうか?」
「実はここ最近、賊が出没しているらしく、徐庶殿の村が襲われるかもしれないんです」
「なるほど。それならば、急ぎましょう」
「ありがとうございます。少し飛ばします」
馬の手綱を振るって、速度をあげた。
◇
徐庶の住む村と思われる場所についた。
大勢の人が村の中心に集まっている中に徐庶の姿が見えた。
「徐庶殿!」
「おお、馬岱か!それに諸葛亮? 二人してどうしてまた」
「徐庶殿の村が賊に襲われるかもと聞き、二人で駆けつけました」
「そういうことだったのか……。今、ちょうど、そのことを話していたところだ」
俺達の登場で会話が途切れていたのか、再び人々が不安を口にした。
「賊っていっても、数十なら戦えるんじゃないのか?」
「何を言っている。まずは逃げるんだよ。食料を持ってよ」
「腹いせに家を焼かれたらどうする! 大人しく少し渡せば引くかもしれん」
色々な案が出ている。俺は徐庶を見ると、少し肩をすくめた。
「これではまとまりませんね」
「ああ。こうしている間にも賊が来るかもしれない」
「戦うのなら、力になれると思います」
「ああ。助かる。だが、みんなが一致団結しなければ戦うにしろ、逃げるにしろ、上手くは行かんだろう。何しろ長老が決めあぐねている」
人だかりの中心にいるのは、年季の入ったしわ顔の老人が悩ましそうに唸っていた。
「長老が決めれば動けるがな」
「徐庶殿には何か策はないのでしょうか?」
「いくつか考えた。が、被害が出てしまうものが多い。できれば被害がないようにしたいが……」
徐庶は村の人々とは家族のようなものだろう。
その人たちに被害が出るのを避けたいとの考えがあるに違いない。
俺も被害がないに越したことはない。俺は諸葛亮に助けを求めた。
「諸葛亮殿、何か良い案はございませんか?」
「今は情報が少なすぎます。守るにせよ、逃げるにせよ、まずは敵を知りましょう」
確かに、その通りかもしれない。知らないからこそ、余計に怖くなってしまうものだ。
俺は徐庶に言う。
「徐庶殿、今から俺が斥候にでます。賊が動いている方角は分かりますか?」
「馬岱、お前。……わかった。これまで賊の荒らした村の範囲を考えると」
徐庶は地面に地図を書き始めた。
いくつかの村を丸で書いて、襲われたところにばつを書いた。
この地図通りなら、次に襲われる可能性があるところも分かるかもしれない。
「徐庶殿、ありがとうございます。村が見渡せる丘に行ってまいります」
「無理はするなよ」
「荒事には慣れております」
俺は軽口を叩くと、諸葛亮の馬を借りて村を出ていった。
起伏のある大地を走り、徐庶の書いた地図を思い出しながら遠くを見る。
すると、遠くに黒い煙が上がっているのが見えた。
まさか、あそこか。
俺は馬を走らせると、煙の上がる方角へと向かった。遠目に見える。家が燃えている様が。
酷い。俺は心の内側が弾けそうな怒りに襲われた。
それを何とかこらえる。俺が一人いっても、事態は変わらないだろう。
怒りで手が震えるの必死で押さえ込み、賊の数を数える。
馬に乗っている者が十一名。どれも立場が上なのか、村の外側から事態を眺めている。
村の中で暴れ回っている者たちは、正しくは数えられないが、武器を持った者が二十名は超えている。
調べるのはここまでにしよう。俺は馬首を返すと、徐庶達の村へ向かった。
村へ帰ると徐庶が駆け寄ってきた。
「どうだった?」
「賊は三十名を越しております。そのうち馬に乗っているのが十一でした」
「そうか。助かった。馬に乗ったヤツらが脅威だな。迎え撃つには少し数が多い」
「村で戦える人はどれくらいですか?」
徐庶は一人一人名前を呼びあげると、若い男達が集まってきた。
「このくらいだな」
合わせて十八名。ここに俺と徐庶が加われば二十名になる。数で負けている中で、武装した集団にどう立ち向かうか。
「馬に乗っていた者たちの中に賊の頭目はいると思います」
俺がそういうと、徐庶は少し考えると頷いた。
「なら、馬と人を分断するか。馬に乗っているヤツを殺せば賊の勢いは弱まる」
「そうですね。ただ、こちらにも犠牲は出るでしょうね」
「ああ。そこは割り切るしかないだろう。馬に乗ったやつをおびき出して叩く。囮は俺がやる」
危険なことを徐庶は言った。自らを囮にすることで敵を集めようとしているのだ。
俺はすぐに首を横に振った。
「徐庶殿、その役割は私がします」
「ありがたいが、これは俺達の村の問題だ。お前を――」
「徐庶殿はお忘れですか? 母上が大事なのでしょう?」
「それは……」
図星だったのか徐庶は俺から目を背けた。責任感の強いところは美徳だが、大事な人のことを忘れてはならない。
「その役割は不要です」
突然、諸葛亮が割って入ってきた。囮が不要とはどういうことだろうか。
「諸葛亮、何か考えがあるのか?」
徐庶の問いかけに、諸葛亮は静かに頷いた。
「私が策を考えます。徐庶殿と馬岱殿は、戦闘に専念してください」
「囮が不要ならば、どうする? 迎え撃つのか?」
「いえ、迎え撃ちません」
俺は首をかしげた。どういう意味だろうか。迎え撃たなければ、数で負けているのに、どうやって勝つというのだ。
「諸葛亮、まさか、お前……」
徐庶は何かを察したようだ。俺には思いつかない何かを。
「賊に村をくれてやれば良いのです」
諸葛亮の言葉に俺は絶句した。




