表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/31

戦の視点

 天才。徐庶にそう言わしめるほどの男、諸葛亮 孔明。

 一体どのような人物なのだろうか。


 俺と徐庶は講義が終わるのを待ってから、話を再開した。


「徐庶殿は、諸葛亮殿のどこが天才だと思われたんですか?」

「そうだなぁ。視点だな。ものの見方が俺達と全く違う」

「見方、ですか?」


 徐庶は頷くと、言葉を続けた。


「上から見てる感じだな。上から目線ってことじゃないぞ? 例えるなら、点で見るんじゃなくて、面で見るって感じだ。馬岱は自分が将軍になったとしたら、戦いに勝つことを考えるだろう?」

「それはそう思います。負けたら終わりですから」

「そうだ。俺もそう思っていた。だが、諸葛亮は言ったのさ。綺麗な負け方もある、とな」

「綺麗?」


 負ければそこでお終いになることもある。命懸けの戦に綺麗な負けなどあるのだろうか。


「負ければ終わりって思うだろう? でも、その負けが次の勝利に繋がるかもしれない。そう考えると、負け方にも上手い下手があるのかもな、って俺は思ったよ」

「なるほど。確かに負けても終わりじゃなのなら、その考えはできますね。でも、戦っている方は、そんなに割り切れないですよ」


 俺の言葉に、徐庶はその通りと言わんばかりに頷いた。


「俺は血の通っていない策は戦術とは言わないと思っている。戦う奴らがいるから戦術を考える。死なせないようにするためにな」

「徐庶殿の言葉の方が俺は好きです」

「ありがとな。だが、諸葛亮が見ているのは、戦の前だ」

「と言いますと?」

「戦は下策。戦に勝っても中策。それを避けるのが上策だとさ。それはそうなんだけどな。今の乱世でそれが通用するかね」


 確かに戦になれば人は死ぬ。それが悪い事だと言われれば下策と言われのも納得はできる。

 避けられるものなら避けたいところだが、徐庶の言う通り、今は乱世だ。

 戦を避けるのは難しいのではないか。


「少し難しい話ですね」

「まあな。諸葛亮は戦術というよりは、戦略って考えだ。戦に至るまでにあらゆる策を用いて、戦はその結果で決まるってな」

「確かに、思い通りに事が運べば、戦になっても勝てるでしょうけど」

「それはそうだ。そこまで考えて事を進められる者が本当の天才ってやつだろうな」


 なるほど。俺は腕組みをして、しきりに頷いた。

 諸葛亮という男は着眼点が俺達と違うということだ。新しい視点で話を聞けるのはためになる。


「徐庶殿は諸葛亮殿と仲が良いのですか?」

「仲が良いって間柄ではないな。あいつはあまり人と関わらない生き方をしてる。だから、わざわざあいつに近づくやつもいない」


 そうなのか。悪い人には見えなかったが、独特な雰囲気を出していたので、近づき難い印象を受けるの分かる。

 もし機会があれば話してみよう。司馬徽が戻ってきたので、講義が再開された。



 塾から帰っていると、道の先を行く人影が見えた。遠目からだが、背の高さからなんとなく諸葛亮のように見えた。

 竹林に差し掛かったところで、諸葛亮と思しき人は右に曲がる。

 その先には、先日訪れた屋敷があった。俺とはご近所になるので、挨拶くらいはした方が良いだろう。


 俺は屋敷の門を叩いた。中から聞こえた声は、女の子のものだった。

 門が開くと女の子が、あっ、と声をあげた。


「馬岱様ですね。こんにちは」

「こんにちは。こちらのご主人は諸葛亮殿でしょうか?」

「はい。ですが孔明様はお休みになられているので、今日はお会いできません」


 さっき帰って来たはずなのに会えないとはどういうことだろう。居留守か。

 徐庶が言っていた人と関わらない生き方というのは、こういう所かもしれない。


「そっか。じゃあ、挨拶に来たことは伝えてもらえる?」

「はい。お伝えしておきます」


 女の子は元気よく言うと、門を静かに閉めた。



 司馬徽の塾に行くと、門下生達が騒いでいたので、何があったのか話を聞くことにした。


「何かあったのですか?」

「賊が近くで出たってよ。ここら辺は安全だって思ってたんだけどなぁ」

「そういえば徐庶殿は?」

「話を聞いて血相を変えて出て行ったよ。確かに、徐庶の住む地方で出たって話だ」


 俺は母親思いの徐庶のことを考えた。もし、賊が家の近くまで迫ってきていたら、気が気じゃないだろう。

 もしかしたら、賊に襲われているかもしれない。徐庶は人を殺したことがあると言っていたが、賊の数次第では歯が立たないのではないか。


「賊の数とかは分かりますか?」

「さあな。ここらはしっかり統治されているから、多くて数十ってところじゃないか?」


 数十。さすがに一人では無理だ。誰かに力を借りて、助けに向かおう。


「俺は徐庶殿が心配です。徐庶殿の家へ向かおうと思いますが、誰か一緒に来てくれませんか?」


 俺の言葉に門下生達は顔を見合せた。


「俺達は書生だぜ。そういう荒っぽいことは役人に任せた方が良い」

「でも、それでは間に合わないかも」

「俺達に戦う力はないよ、残念だけどな」


 全員が俺から目を逸らした。確かに役人に話が伝われば動き出すだろう。

 だが、それがどれだけ早く動けるか分からない。こんなことをしてる間にも賊が迫ってきているかもしれないのだ。

 数十の賊を寡兵で倒す方法。俺には思いつかなかった。


 俺よりも頭が良い人達が来ないのだ。行ったところで多勢に無勢なのは変わりない。

 何とか方法を考えなくては。その時、一人の顔が脳裏を過ぎった。


 俺は跳ねるように動き出すと、塾をあとにした。



 竹林を駆けて、一つの屋敷へと向かった。

 そこは諸葛亮の済む屋敷だ。俺の頭では考えつかないことが考えられるとしたら、天才と呼ばれる男しかいない。

 俺は無我夢中に走り、門を荒々しく叩いた。


「馬岱と申します! 諸葛亮殿、いらっしゃいませんか?」


 俺は何度も門を叩くと、木がきしむ音とともに諸葛亮が初めて姿を見せた。


「諸葛亮殿、お願いがございます! 共に私と来てはいただけないでしょうか?」


 しまった。説明も何もせずにお願いをしてしまった。慌てて言い直そうとすると、諸葛亮は微笑みを浮かべた。


「行きましょう」

「え? でも、まだ何も――」

「三度も私を訪れてくださった。あなたは私に礼を尽くしてくださいました。そのような方の願いを無下に断ることはできません」

「諸葛亮殿……」


 思わず涙腺が緩みそうになった。いや、ここで感極まってどうする。

 すぐに徐庶の元へ行かねば。


「諸葛亮殿は馬をお持ちで?」

「はい。急ぎならば、使いましょう」

「ありがとうございます」


 俺は屋敷の中に招き入れられると、すぐに厩へと向かった。

 取り越し苦労であって欲しい。そう思いながら、馬に鞍を乗せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ