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義戦

 俺は剣の切っ先を亭順達に向けたまま、固まって立っている女の子に向けて言う。


「大丈夫。あの人は俺が助けるから。後ろに下がっていて」

「う、うん」


 そういうと、女の子は大きな木の影に隠れた。それを確認し、亭順に視線向けてキツく睨みつけた。

 仲間がガキにあっさり斬り殺されたことをようやく理解できたのか、亭順の表情に怒りが満ち始めた。


「ガキが、舐めやがって……。おい! やっちまえ!」


 亭順が周りの男達に指示を飛ばすと、四人の男が手にした武器を構えて俺に向かって襲い掛かってきた。

 四人を同時に戦うのは無謀。囲まれてしまえば、簡単に殺されてしまうだろう。

 俺は迫りくる男達の中で槍を持った一人の男を目掛け、疾走した。


 槍の広い間合いで攻められると不利だからだ。それならば、相手の虚をついて槍の間合いを活かせなくするしかない。

 槍持ちの男が俺の接近を察知し、慌てて足を止めた。俺に向けて槍を突き出す。

 腰の入っていない突きは孟起の槍と比べて格段に遅い。俺は手にした剣で槍を払う。


 弾いた槍をかいくぐり、男に迫る。狙いは踏み出した右足だ。

 剣を一閃し、男の右の太ももを両断した。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!」


 男が悲鳴を上げて、地面に尻を着いた。それを横目で見ると、すぐに視線を三人の男に向けた。

 一番近くに迫っている男が剣を振り上げて突進してきている。次はこいつだ。

 俺は剣を構えて、相手の動きを注視する。勢いよく振り下ろされる剣。その剣筋を見極め、俺は体を横にスッと逸らした。


 剣は空を割く。それにより、男は隙だらけとなった。その右手に向けて俺は剣を振るった。

 男の右手が血しぶきを上げ、絶叫がこだました。

 この兵士たちの動きは、孟起と比べれば天と地程の差がある。


 これならやれる。

 その確信が慢心を産んでしまった。

 亭順の傍にいる男が弓を構えて今にも矢を放とうとしている。


 まだ味方がいる状況で矢を射掛けるなど、考えてもいなかった。

 そちらに気を取られた事に気づいた時には、迫って来ていた二人の男の間合いに入っていた。


「しまっ――」


 俺は咄嗟に目の前に剣を構えて、防御の態勢に入った。

 次の瞬間、耳にしたのは絶叫であった。


「ぎゃーー!」


 鮮血が俺の肌に飛び散る。剣を少し下ろすと、そこには襲いかかってきた男の胸から槍の切っ先が見えた。

 次に聞こえたのは、苦痛を訴える声だ。


「いってぇ! クソが」


 目を向けると、声を上げたのは矢を放とうとしていた男だった。


「安能!」

「助太刀するぜぇ!」


 阿陽と阿興の声がした。阿陽は木の影から矢を次々と亭順達に向け放った。

 阿興は俺の前にいた男を蹴り飛ばして、残った一人の男と対峙していた。


「阿興兄さん、俺――」

「謝るのもゲンコツも後からだ。まずはこいつを?」


 阿興が変な声をあげた。対峙していたはずの男の首が無くなっていたのだ。

 首なしが倒れると、その影から雷白が姿を見せた。


「おっさん!」

「すまない。君達を巻き込んで……。ここからは俺に任せて君達は――」

「逃げません!」


 雷白の言葉を俺は遮った。

 逃げるつもりはない。ここで逃げれば間違いなく、雷白は殺される。

 それにあの女の子を守る事ができても、雷白が死ねばどう思うか。


 命がけで助けようと立ち向かった、あの子はきっと悲しむだろう。そうなっては欲しくない。

 勝つ。勝つことだけを考えろ。


「君は……。本当にすまない」

「謝るのも礼も、後だ後。安能ビビってないか?」

「阿興兄さんはどうですか?」

「普通に怖えわ」


 阿興が乾いた笑い声をあげた。

 そのおかげで少し緊張が解れた気がする。冷静に状況を見れば、亭順達はまだ十人はいる。対して、こちらは雷白にまだ子供三人だ。

 数では負けている。だが、ああいう奴等は大将がやられれば、去っていく事が多いと聞く。


 ならば、狙うのなら。


「雷白さん、亭順を任せます」

「分かった。君達は無理するなよ」


 そう言い残すと、雷白はまっさきに亭順へと駆け出した。それに呼応するように剣を抜いた亭順も走り出した。

 剣がぶつかり合う音がする。実力は拮抗しているのか、数合切り結んでも決着は着きそうにない。


「おい! お前ら、何をぼーっと見てやがる。少しは手伝え」


 亭順が指示を飛ばすと、気がついたように動き始めた。その男達に執拗に矢を撃つ阿陽。

 それを邪魔だと認識した男達が阿陽に向けて走り出した。


「阿陽兄はやらせねぇ!」


 男達に阿興が飛びかかり、槍を突き出した。槍に脇腹を刺された男が地面に倒れた。

 それに気づいた別の男が、阿興に迫る。その無防備になった男の右手に向けて俺は剣を振るった。


「こっちにもいるぞ!」


 俺はわざと声を張り上げる。これに気づいたのか数名が振り返り足を止めた。

 その隙を阿陽は見逃さなかった。矢を素早く撃っては次の矢を構えていた。

 男達はオロオロとしており、どちらと戦えば良いのか分からない状況となる。


 このままの勢いなら勝てる。そう確信を持ちそうになったとき、金色の眩い光が目に入った。


「ぐはっ!」


 その声と共に雷白が俺達の方へと吹き飛んできた。


「雷白さん!」


 俺は駆け寄った時に見てしまった。金色に輝く雄牛の兜をかぶった亭順の姿を。

 これは。


「王力!?」


 思わず声を上げてしまった俺を見て、亭順が汚らしい笑みを見せた。


「思わず奥の手を使っちまったよ。ああ~、そこのガキ、正解だ。これは董卓様からいただいた王力よ」


 董卓だと。亭順は殺されてしまった董卓の残党ということか。


「逃げるんだ。俺達に勝ち目は無い」


 雷白が体の痛みを堪えるように身を起こしながら言った。


「時間なら稼げる。君達はすぐに逃げるんだ」

「それはどういうことですか?」


 俺の問いかけに答えるように雷白はゆっくりと立ち上がると、深く呼吸を一つした。

 次の瞬間。金色の淡い光が視界を包んだ。光が治まると、そこには雄牛の兜をかぶった雷白がいた。

 だが、その光は亭順に比べると弱く頼りないものだった。


 下品な笑い声が一帯に響く。


「その程度の王力で俺に勝てると思っているのか?」


 亭順が腹を抱えて笑っている。

 確かに放たれる力は亭順の方が強く、猛々しい。王力無しでの戦いでは互角だったが、王力込みとなると話は別だ。

 どうするか思案していると、雷白がちらりと俺を見た。

 

「すまない。せめて、あの子だけは助けてくれないだろうか?」

「でも……」

「頼んだぞ」

「待って――」

 

 死を覚悟したかのような悲しい目をした雷白は、俺の静止を聞かぬまま、亭順に向かって飛びかかった

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