返報性の原理
返報性の原理を語る前にここで定義しておくが
好意で返すのは、返報性の原理に基づくものではない。
もともとあげたい欲求のきっかけに過ぎないのでこれに当てはまらない。
返報性の原理という言葉がある。
何かを与えられると、
人はお返しをしたくなる。
心理学では、そう説明されることが多い。
だが、これを
「優しさ」や「礼儀」の話として扱うと、
本質を取り逃がす。
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与えられた瞬間、予測が走る
何かを受け取ったとき、人の中で真っ先に起きるのは、
対人予測の更新
だ。
• なぜ、この人はこれをくれたのか
• どこまで関係が進んだと見ているのか
• 次に何が来る可能性があるのか
ここで人は、
相手の意図だけでなく、
自分の立ち位置を同時に計算し始める。
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予測されているのは、ユナイトとランク
この対人予測の中身を分解すると、
見ているのは主に二つだ。
• ユナイト
関係は強まったのか、続く前提になったのか
• ランク
上下関係はどう変わったのか
何かを与えられるという行為は、
• 距離が縮まった
• 借りが生じた
• 立場が動いた
という可能性を一気に含み込む。
だから予測が不安定になる。
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返さないと理由付けができない限り予測が閉じない
与えられたままにしておくと、
• 関係の距離が確定しない
• 相手の期待値が読めない
• 自分の位置が宙に浮く
つまり、
対人予測が開いたままになる。
この状態は、人にとってかなり落ち着かない。
だから人は、
何か返す
という行動で、
• 関係の距離
• 立場の上下
を一度確定させようとする。それの理由付けに人は善意を使う。
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返報は「予測を安定させる行動」
ここで重要なのは、
得をしたい
いい人に見られたい
という話ではないことだ。
返報性の本体は、
ユナイトとランクの増減予測を、
一度止めるための行動
と言える。
返すことで、
• これ以上借りを増やさない
• これ以上距離を詰めすぎない
• 関係を対等な位置に戻す
予測を閉じる。
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だから返報性は、時に重くなる
返報性が圧力になるのは、
断れないからではない。
• 返さない=関係が宙吊りになる
• 返さない=立場が未確定のまま残る
この不安定さを避けるため、
人は無理をしてでも返そうとする。
これは善悪ではなく、
予測処理の問題だ。
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倍返しは「親切」では終わらない
ここでもう一つ、重要な点がある。
倍返しをすると、今度は相手の予測を不安定にする。
返しすぎると、
• 借りの立場が逆転する
• 距離が一気に詰まる
• 次に返す番は相手になる
つまり、
自分の予測を安定させるために、
相手のユナイトとランクの予測を揺らしてしまう。
結果として、
倍返しは、相手を束縛する行為になる。
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まとめ
• 返報性の原理は、善意の話ではない
• 与えられると、ユナイトとランクの対人予測が走る
• 返す行為は、予測を安定させるための操作
• 返さないと関係が宙吊りになる
• だが返しすぎると、相手の予測を縛ってしまう
返報性は、
人を優しくする仕組みであると同時に、
関係を縛る力も持っている。
だからこそ、
「少し返す」は自然でも、
「倍返し」は無邪気では済まない。
関係が重くなる瞬間や距離ができる瞬間は、
たいてい善意の顔をしてやってくる。
恩着せがましさの正体
この視点に立つと、
恩着せがましい行為の真意がはっきり見えてくる。
恩着せがましさとは、
「感謝されたい」欲求ではない。
本質は、
相手の対人予測を、あえて開いたままにする行為
だ。
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なぜ恩を“回収しない”のか
普通の返報は、
返すことで予測を閉じる。
だが、恩着せがましい人は違う。
• 返しきれない量(意味)を与える
• 具体的な返済ルートを示さない
• 「そんなのいいよ」と言いながら記録を残す
こうして、
相手の中に
• 借りは残っているのか?
• もう返した扱いなのか?
• まだ関係は続いているのか?
という 未確定状態 を維持させる。
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恩着せは、支配に変わる
この未確定さは、
ユナイトとランクの予測を常に揺らす。
結果として相手は、
• 逆らいにくい
• 距離を切りにくい
• 不満を表に出しにくい
状態になる。
つまり、
恩着せがましさとは
「優しさを使った予測の拘束」
だ。
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だから違和感が残る
恩着せがましい行為が
どれだけ善意の形をしていても、
どこか重く、逃げ道がないのはそのためだ。
それはギフトではない。
対人予測を閉じさせない契約に近い。




