最近よく聞くダブルバインドってどうなん?
「ダブルバインド=選ばせる技法」への違和感
ダブルバインドは、
本やYouTubeではしばしば
「AかBを選ばせて、逃げ道を塞ぐ心理テクニック」
として紹介されている。
だが、この説明には強い違和感が残る。
なぜならそれは、
ダブルバインドの本質をほとんど説明していないからだ。
もともとダブルバインドは、
グレゴリー・ベイトソン らが提唱した概念であり、
営業術や会話テクニックではない。
本来それは、
• 矛盾したメッセージが同時に与えられ
• どちらに従っても罰が避けられず
• その矛盾自体を指摘することも許されず
• しかも関係から離脱できない
という、関係構造そのものが人を縛る状態を指していた。
「選ばせる」ことが問題なのではない。
「選べない構造に閉じ込められる」ことが問題だった。
一方で、本やYouTubeで語られる説明はどうか。
そこでは、
• 断る自由が残っている
• 関係から離脱もできる
• 矛盾を指摘することも可能
つまり、
本来のダブルバインドの成立条件をほとんど満たしていない。
それでも同じ言葉が使われ続けていることで、
「断りにくい会話」や
「気まずい選択」
までもが、安易にダブルバインドと呼ばれるようになった。
この記事では、
そうした 安直な理解には与しない。
ここで扱うのは、
「相手を操作する技法」ではなく、
• なぜ人は断れなくなるのか
• なぜ断った瞬間に、両者が同時に消耗するのか
• その背後で、どんな関係レバレッジが働いているのか
という、
日常の人間関係に埋め込まれた拘束構造だ。
ダブルバインドという言葉を使ってはいるが、
本稿の狙いは
その言葉を広めることではない。
むしろ、
「それ、本当にダブルバインドですか?」
と立ち止まるための材料を提示することにある。
ダブルバインドは「選ばせる技法」と説明されることが多い
ダブルバインドは一般に、
どちらかを選ばせて、他の選択肢を消す技法
として説明されることが多い。
この説明は、間違ってはいない。
ただ、現実のやり取りでは
それだけでは終わらない。
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実際には「断れない前提」で成立している
ダブルバインドが機能する場面では、
選ばせる側より先に、
**選ぶ側が「断らない前提」**に立たされている。
• 選ばないと空気が止まる
• 断ると関係が微妙になる
• とりあえずどちらかに応じた方が安全
つまり選択は、
• 好みの表明ではなく
• ユナイト(関係)を守る行為
になっている。
この時点で、
関係にはすでにレバレッジがかかっている。
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例
「公園に行く?それとも映画に行く?」
この質問は、
一見すると選ばせる側の操作に見える。
だが実際には、
• 選ばせる側も
• 選ぶ側も
同じレバレッジ構造の中にいる。
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まずダメージを受けるのは「断った本人」
ここで、選ぶ側が断るとする。
• 「今日はどっちも行きたくない」
この瞬間、
最初にダメージを受けるのは、断った本人だ。
• 空気を止めた感覚
• 関係を壊したかもしれない不安
• 「自分が悪かったのでは?」という自己調整
これは、
レバレッジがかかったユナイトの自己損失だ。
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次にダメージを受けるのは「断られた側」
一方で、断られた側にもダメージが返る。
• せっかく枠を作ったのに崩れた
• 場を前に進められなかった
• 気を使ったつもりが報われなかった
断られた側もまた、
レバレッジをかけていた分だけ、
ユナイトのダメージを受ける。
場の気まずさ、
微妙な空気の回収不能。
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なぜダメージが「両側」に返るのか
それは、ダブルバインドが
• 片側の操作
ではなく
• 関係全体にかかったレバレッジ構造
だからだ。
• 選ばせる側は、関係を前に進めるために
• 選ぶ側は、断らないために
それぞれユナイトを担保に動いている。
その構造が崩れた瞬間、
レバレッジ分の損失が、
両者に同時に跳ね返る。
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まとめ
ダブルバインドは、
「相手に選ばせる技法」ではある。
だが実際には、
• 選ぶ側は、断らないように気を使い
• 選ばせる側も、関係を前に進めようとしている
この状態で断りが発生すると、
• 断った本人が、まずユナイトの自己ダメージを受け
• 続いて、断られた側にもユナイトのダメージが返る
ダブルバインドとは、
断った瞬間に、両者が同時に消耗する構造だ。
誰か一人が悪いわけではない。
その場に、
レバレッジをかけすぎた関係設計
があるだけだ。
では、営業マンがこの技法を使った場合はどうなるか
ダブルバインドは
「相手に選ばせる」ことで関係を前に進める技法だ、
と説明されることが多い。
ではこれを、営業の場面に当てはめてみよう。
たとえば営業マンが、こんな言い方をしたとする。
「Aプランにしますか?
それともBプランにしますか?」
形式だけ見れば、これは典型的なダブルバインドだ。
だが多くの場合、この問いはあっさり崩れる。
なぜなら、
営業される側には
「断っても失うユナイトがほとんど無い」
からだ。
• 断っても関係は終わらない
• 空気が多少冷えても困らない
• そもそも継続的な関係を前提にしていない
この状態では、
「今日は結構です」で構造が即座に解除される。
ダブルバインドは、
ユナイトが無い相手を拘束する力を持たない。
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営業マンも、結局は「ユナイト」を担保にしている
だから、実際にダブルバインドが機能している営業は、
ほぼ例外なく次の条件を満たしている。
• すでに何度か会っている
• 顔見知り・指名・紹介がある
• 信頼・好意・返報性が積み上がっている
つまり営業マンは、
「選択肢」を武器にしているのではなく、
関係にかかったレバレッジを利用しているだけだ。
表面上は
「Aにしますか?Bにしますか?」
と言っていても、
実際に拘束力を生んでいるのは、
それ以前に積み上げたユナイトである。
ダブルバインドは、
関係の代替にはならない。
関係の上にしか乗らない。
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では、親友や親密な関係ではどうなるか
逆に、極めて親密な関係を考えてみよう。
親友にこう聞かれたとする。
「今度さ、旅行行くなら
温泉にする?それとも海?」
このとき、
「どっちも今は行く気しないな」
と断ったとしてもどうだろう。
• 関係が壊れる気はしない
• 空気は多少止まるが、回収可能
• 後から冗談で流せる
ここでは、断りのコストはかなり低い。
なぜなら、
ユナイトが
「一回の選択」に依存していない
からだ。
関係が太いほど、
一度の拒否で失われるユナイトは小さい。
つまり、
ユナイトが薄い相手 → ダブルバインドは効かない
ユナイトが太すぎる相手 → ダブルバインドは拘束にならない
という奇妙な挙動になる。
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ダブルバインドが最も機能する領域
ダブルバインドが最も強く作用するのは、
• ユナイトはそこそこある
• だが壊したくはない
• しかしまだ安定しきっていない
この中途半端な関係だ。
• 職場の同僚
• 付き合い始め
• 上下関係があるが親密ではない関係
この領域では、
選ばせる側も
選ぶ側も
「関係を壊さないために動く」
だからこそ、
断った瞬間に両側が同時に消耗する。
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結論
ダブルバインドは、
万能な操作技法ではない。
それは、
• 信頼が無ければ成立せず
• 信頼が強すぎると拘束にならず
ほどよく不安定なユナイトの上でだけ機能する。
だから、問題は
「選ばせたかどうか」ではない。
その場に、
どれだけレバレッジをかけた関係設計が存在していたか
ただそれだけだ。
ダブルバインドが苦しい場面では、
技法そのものよりも、
関係の張り方が過剰だったと考えた方が現実に近い。




