─8話─ ボウリングと覚醒
─8話─
うおおおっ!!
ぐあっ⋯!!
⋯またあの夢か
俺の身体に恐怖と愛を刻んだ迅雷の男
その額に浮かぶのは三つのアザ
それが奴の迅雷の証だ
─ ジンケイ─
モンスター相手に不敗を誇っていた俺が、かつて人間相手に一度敗れたあの日
奴の拳は俺の身体を貫き勝負は決した。
しかし⋯
それは致命傷ではなかった。
奴め、あの生死をかけた戦いにおいても俺を殺すことをしなかった。
あの日から俺の最強への渇望が始まったのだ。
再びこうして現世に戻ったからには奴と再び相まみえたいものだ。奴は今どこにいるのか⋯
「圭一君、この証明問題どこから始めれば良いかな?」
私は東大受験のための日々の勉強をこなしていた。
勉強嫌いだった頃が嘘のように、今は知識が頭に吸収されていく。
それはこの陣 圭一のおかげだ。
「そこはですね。まずここに公式を当てはめて⋯」
ふんふんとマイが近づくと圭一はなぜか同じだけ離れていく。
彼はいつもこうだ。他人が近いと嫌なのかな?
決まって赤い顔してるけど。
「あー、疲れた!」
それを聞きサユリ(バロン)が心配そうに
「マイ様、最近頑張っておられますからね。疲労が溜まっているのではありませんか?」
確かに
今まであまり使わなかった脳みそを閃の呼吸で無理やり活性化させてる部分もあるからね
「ちょっと息抜きにどこか遊びに行きたいなー」
「左様ですね、明日は休日でありますしどこかへ出かけるのも良いかも知れませぬ」
サユリはスマホを調べ始めた。
「では今日はこの辺で終了しましょう」
圭一はそう言い帰り支度を始めた。
「マイ様ここなどいかがでしょうか」
画面にはボウリング場が映し出されていた。
「おーいいね!サユリちゃん行こうか!」
サユリはスマホを見ながら、
「あ、3名以上で参加すると割引もあるようですよ」
マイは帰ろうとする圭一を呼び止めた。
「じゃあ圭一君も行こうよ!」
「いや、僕は勉強もありますし・・・」
圭一は困ったな、という表情をしている。
サユリは圭一の肩をぽんと叩いた。
「圭一よ、たまには身体も動かさんと受験で力を発揮できんぞ」
確かに一理あるな、と思った圭一。
「ふん、たまには良いでしょう」
「じゃあ2人ともまた明日ね!」
─ 翌日 ─
待ち合わせ場所にはすでにサユリと圭一が到着していた。
「マイ様おはようございます。では参りましょう」
私たちは受付を済ませ席に着く。
シューズとボールを選び画面に目をやる。
投球はサユリ、圭一、マイの順番だ。
「マイ様、普段のスコアはどの程度ですか?」
ふふふ、私は運動嫌いだけどボウリングには自信があるのだ。
「80は軽いね!フフン」
圭一がふっと苦笑する
「二階堂さん、それは自慢にはなりませんよ」
むむ、小癪なヤツめ
だが、迅雷拳を使えばこの程度の玉遊び造作もなかろう
サユリが慌てて圭一へ
「こら圭一!そういう貴様はどれ程なのだ!?」
「僕は今日初めてですが」
な!
初めてだと!?
マイ様の息抜きのつもりが、初心者のお守りになってしまっては一大事ではないか。
まあ⋯せいぜい頑張るが良い。
まずはサユリの投球。
圭一め、素人のくせにマイ様にあのような態度を取るとは信じられん
ガタガタのスコアを出して少し恥をかいた方が良いかもしれんな
カコーン!
サユリの第一投は見事なストライク
「サユリちゃんすごーい!」
「マイ様ありがたきお言葉」
「マイ様、わたくし皆の飲み物を買って参ります」
サユリはそのまま自販機の方へ向かった。
サユリちゃん、甲斐甲斐しいなあ
続いて圭一
ボウリングは初めてだが、ルールやコツは昨夜頭に叩き込んできた。何も問題ない。
「圭一くん頑張れ!」
マイの声援を聞いて途端に動揺する圭一
く、何故か緊張してきた
ピンをうまく狙うことが出来ん
冷静にさえなればこんなもの・・・!
そうだ
こういう時はレーンの三角ターゲットを目安にするんだったな
昨夜の知識が早速役に立った
圭一の目の先にはレーンの三角マークが並んでいるのが見えた。
三角のマーク
三・・・
三・・・!?
いかん
集中しなければ
圭一の第一投
・・・カタン
倒れたのは端の3ピンのみ
「あー、3ピンだー」
マイの言葉に圭一は再び動揺する
3ピン・・・だと?
三・・・
圭一の様子がおかしい
何か、何かが僕の頭を駆け巡る。
うっ、くっ⋯
み⋯三つのアザ⋯!
うずくまる圭一。
メガネが床にポトリと落ちる。
「圭一くん!」
マイが圭一に駆け寄る。
しかし圭一はゆっくりと立ち上がった。
「ここは・・・どこだ・・・?」
「圭一くん?」
マイの呼びかけに振り返る圭一。
そして圭一は表情を歪めながら叫んだ。
「その闘気⋯まさか⋯!」
圭一はマイから発せられる気を感じ、そして確信した。
「あ、あなたは⋯!もしやラ、ライデン!?」
ライデンの意識が前に出る
「その気、まさか貴様!やはりジンケイか!」
それは前世からの運命の再会だった。
「ライデン、その姿はいったい・・・?」
「ふ、ジンケイよ、鏡を見るが良い。貴様の姿も相当なものだぞ」
ジンケイは鏡を眺め、自らの肉体の変化を実感した。以前のような筋肉は無く、肌は青白かった。
ジンケイは苦笑した。
「このような身体に⋯、しかしライデン、あなたのその姿はまるで面影が⋯」
「ジンケイよ、我々は前世から現世へ転生したのだ。向こうにいるバロンもな」
ライデンは続ける。
「俺は貴様にも敗れモンスターにも敗れ生涯を終えた⋯
だが!再びこの世に生を受けたからには目指すは最強の道!」
ライデンの目的は変わらないのだ。
ジンケイの顔色が変わった。
「また力でこの世界を混乱に陥れるつもりか、ライデン!」
ジンケイはマイのすぐ前に立ち闘気を発した。
「ならばどうするジンケイ。再び俺を倒すか?」
二人の闘気が間近で衝突し爆発する。
お互いの拳が固く握られた。
一触即発・・・!
その危機的状況を察知したサユリは大慌てで二人に駆け寄って来た。
「お待ちくださいマイ様!どうか気をお鎮めください!ほら圭一も!」
「そうだよ圭一くん!ほら!メガネ落ちてるし」
マイはメガネを拾い上げ、圭一にかけさせた。
その瞬間ジンケイの意識が消え圭一に戻っていた。
圭一の意識が戻った時、すぐ目の前にマイが立っていることに気づく。
「え・・・?うわっ!二階堂さん!?ち、近いよ!」
圭一は咄嗟に後ずさり尻もちをつく。
「ジンケイよ、俺の魂はこの娘と一体化しているが、貴様はどうなのだ」
圭一はキョトンとした表情で
「え、何がですか・・・?」
ん?
こやつ、ジンケイの意識が無くなったのか?
あるいはどちらかの意識しか表に出てこないのか?
今の圭一は元のままの圭一のようだ。
だが、こやつが元ジンケイである事はこれではっきりした。
ふん、まあ良い。いずれ貴様とは決着を付けねばなるまい。
「楽しみにしているが良いジンケイ」
圭一は怪訝そうな顔をしているが、私は振り返り自分のボールを手に取った。
今はジンケイよりボウリングだもんね!
ボウリングに必要なもの
ブレない体幹とバランス感覚、それに指の強さである。
いずれも迅雷の武に通じる能力だ。
マイは軽い8ポンドの球を選んだ。
これなら私でも軽々持てるもんね。
ただ軽いボールだとなかなかピンが倒れないんだよねー
よし
ここは迅雷拳を発動させる時であろう
破鋼斬指!
それは鋼鉄を裂くほどの破壊力を持つ指の力。その威力を以って敵の要穴を撃ち砕くことが可能となる迅雷の奥義だ。
これがあればボウリングの玉など風船玉も同然!
ボールを持つ指にギュッと力を込める。
その瞬間
パァン!!
風船玉のようにボールが割れた。
ボールの破片が粉々になりバラバラと床に落下する。
「やだ!このボール不良品~!」
「二階堂さん!大丈夫ですか!?」
圭一が駆け寄り、マイの手を取り確認した。
「良かった、怪我は無いようですね・・・あっ!!」
圭一はマイの手に触れていたことに今更気づいた。
「すすすすすみません二階堂さん!」
「大丈夫、ありがとう圭一君」
マイはにこやかに返答する。
笑顔が眩しい
・・・ハッ!?
なにを考えているんだ僕は!
二階堂さんには勉強法を教えているだけ!
それ以上でもそれ以下でもないのだ。
圭一は自分を納得させるかのように首を振った。
それを見ていたサユリ
圭一よ⋯
よもや貴様マイ様に⋯
しかしこのボウリングの玉、いくら不良品とはいえこうも粉々になるものなのか?
そもそも不良品だったのかこれは?
サユリの疑念をよそに、マイ仕切り直しの第一投
さっきはちょっと力みすぎたかな?
深呼吸してリラックスしよー
ふぅ~
よし
少し抑え気味に投球する
ゴッ!!
(え、マイ様、ボールのスピードが尋常ではありませんよ⋯!?)
サユリにはレーンに衝撃波が見えた気がした。
ボールは真ん中を逸れ、端の1本だけを直撃した。
「あー、ダメかー」
バキャッ!! ドゴッ!!
何かが粉砕したような嫌な音が場内に響き渡った。
レーンが停止し、係員がドヤドヤと集まる。
何人もの係員がレーンの奥を眺めている。
見るとピンがバラバラに砕け、奥の壁に大穴が空いていた。
「ありゃ~何あれ!」
マイは不思議そうにその光景を見ているが、サユリと圭一は呆然としていた。
な!今のはいったい・・・!
先程のボールの破壊といい、考えられるのは⋯!?
しばらくして係員がマイ達の元へやって来た。
「申し訳ございません。機械が故障してしまいレーン移動をお願い出来ませんか?」
えーもしかして私のせい?
と一瞬思ったものの、あんな軽い玉で機械や壁が壊れるわけないもんね?
マイは気づいていなかった。
この数ヶ月に渡ってライデンに無理やりやらされた迅雷の修行により、もはや超人と呼べるほどの能力を得ていたことに。
「故障って怖いねーサユリちゃん」
「え、ええ・・・」
サユリも圭一も寡黙になっている。
どうしたんだろう?
ライデンの魂も困惑気味だ。
(破鋼斬指が効きすぎたのか⋯?
しかし己の力を分かっておらんとは⋯
きちんと自覚させねばなるまい
このままでは触れるもの全て粉砕する破壊王となってしまうではないか!)
今ではライデンが一番の常識人であった。
「マイ様・・・実は私急用が出来てしまい今日はここでお開きに致しませんか?」
「あ、申し訳ありません、僕もなんです」
サユリの後に圭一も続いた。
「んーでも始まったばかりだし勿体ないよね?」
それを聞いていた係員は
「お客様それでしたら、ご迷惑をおかけしましたので返金致しますよ」
うーん、まあそれなら仕方ないか。
「しょうがないね。うん、今日は帰ろうか」
サユリは深々と頭を垂れ
「本当に申し訳ございませぬ。この埋め合わせはこのサユリが必ず!」
「うんうん、また遊びに行こ!」
上手いこと切り上げることが出来てサユリは安堵していた。圭一も何か気づいたのだろう、合わせてくれて助かった。
サユリは危機を感じていたのだ。
これ以上ここにいては(店が)危険だと。
なんと凄まじい、マイ様の力は既に常人の及ぶところでは無い・・・!
3人はその場で別れ帰路についた。
─ 夜 ─
マイ、貴様少し太ったのではないか?
女子に向かってなんて事言うのよ!
ここ何ヶ月も「迅雷の修行だ」とか言ってトレーニングやらせてたからでしょ!
私は最近はもう目隠ししないでお風呂に入っていた。
目隠しして入浴なんて不便極まりないし、ライデンは無頓着だしまあ今更だしね。
そういばさ、
サユリちゃんは気づいてなかったみたいだけど、まさか圭一君があのジンケイだったなんてねー
ライデン的には懐かしかったんじゃないの?
ん?あいつは永遠のライバルだ。
今更この現世で敵対するつもりは無いが、馴れ合うつもりも無い。
もしあいつが戦いを挑んでくるのであれば全力で迎え撃つまでのこと。
前世のようにはいかん!
でもこの後も勉強は教えてもらわないとね
⋯⋯
ふう、温まった
お風呂から出るとスマホに着信が来ているのを発見し、それに手を伸ばした。
パキッ!
あっ!画面が割れた!
何をしておるか!
だから力の制御をせよと先刻言ったではないか!
そうだったごめーん
でも安心して?
画面のカバーが割れただけだから大丈夫!
ならば良いが⋯
本体の画面まで割っていたら修理代だけでも馬鹿にならんのだぞ?
おっと、誰からの着信だろう?
─ 着信︰陣 圭一 ─
つづく




