─5話─ 等身大フィギュアと筋肉
─5話─
「黒きはくちょう座だと!?」
「はっ、その者が数日後に我がクラスへ転入してくるとの情報です」
サユリは脂汗を流しガタガタと震えていた。
「黒きはくちょう座⋯
おそらくは⋯元老殿のシュン⋯か」
サユリ(=バロン)は、シュンの恐ろしさをよく知っていた。
でも私は知っている。
「あー、ローズさんをジンケイのところから連れ去った奴だよね?しかもジンケイに死のトラウマを植え付けた張本人」
まるで芸能人のゴシップでも話すかのように、マイが嬉しそうに話す。
「さ、さすがはマイ様、あの元老殿のシュンを全く恐れていないとは…」
「やだなあサユリちゃん。シュンなんて最初の頃に出てきてあっという間に死んだ奴じゃん」
コミック上の話だけどね
「なんかトランプマンとかカマキリマンとかデブっちょとか出てくるんだけど、あんなのワンパンでダウンよ」
マイは漫画本の知識で、敵の強さを完全に格付けしていた。やや記憶違いもあるようだが。
圭一は聞きなれない単語の連続に頭を抱えたい気持ちで一杯だった。
数日後
私達の教室に転校生が現れた。
「こんにちは!黒井シュンと言います。皆さんよろしくお願いします!」
その転校生は、深々とお辞儀をし、にこやかに笑った。爽やかなイケメンで、クラスの女子生徒たちの間で黄色い歓声が上がる。
うん?シュンのヤツめ⋯前世の頃と随分とイメージが違うではないか
そうだね
中学の頃痛かった子の高校生デビューかしらね?
いや、世が世ならあれがシュンの本来の姿なのか⋯?
しかし、隣のサユリは、その爽やかな笑顔を見てもガタガタと震えていた。前世でシュンの居城に潜伏していただけに、その恐ろしさを肌で知っていたのである。
「マ、マイ様、あやつは非常に危険です⋯早々に始末した方がよろしいかと」
「始末?うーん」
亡き者にするってことだよね?
ライデンのいたアハムの世ではアリかも知れないけど現代じゃそれはやっちゃいけない事なのだよ
「サユリちゃん、あの転校生、見た感じそんな変な奴じゃなさそうだけど」
サユリは、懇願するような表情でマイを見上げる。
「あ、あの男は⋯本当の異常者なんです⋯
私は昔シュンの居城に潜伏した時、偶然にもその異様な光景を見てしまったのです!
それはこの世のものとは思えぬ凄惨な現場でした」
(こりゃ長くなりそうだな)
とマイは思った。
私たちは放課後の図書室にて圭一を加え緊急の作戦会議を開くことにした。
「さてバロンよ。貴様がシュンの居城で見てしまったものとは、具体的にどのようなことだ?遠慮なく全て話せ」
サユリ(バロン)は、息を深く吸い込み、恐怖に顔を歪ませながら語り始めた。
「はっ…私はシュンの城で、彼の『愛』の形を見てしまったのです。彼は…己が愛するローズ様のためだけに、城の全てを、城の住民の人生の全てを、歪んだ理想郷に変えていたのです!」
「……歪んだ理想郷だと?」
「はい!シュンは、ローズ様が『美しい』と感じる景色のためだけに、村人へ血の滲むような強制労働を課していたのです。彼の『愛』は、他者の命をモノとして扱う、純粋で、だからこそ恐ろしい狂気なのです!」
私たちは、シュンの本質が爽やかな見た目の裏にある純粋な狂気にあることを理解した。
「ふ⋯その程度のこと、この俺が全て粉砕してくれる」
「頼もしいマイ様のお言葉、サユリは嬉しゅうございます。ですが奴の異常性はそれだけに留まらないのです」
「え?なになに?
『迅雷の覇者』にそんな話あったっけ」
圭一は一人蚊帳の外だった。
僕は何のためにこの場に呼ばれたんだ⋯
「私は奴の居城に潜入した時、奥から話し声を聞いたのです⋯」
─ バロンの回想 ─
『ふふふ、ローズよ今日も美しいな・・・』
『そうだ、俺はこの街も富も名声も全て手に入れた!』
『ああ、だからこの街をお前にプレゼントするのだ』
『そうか、そんなに嬉しいか。可愛いヤツめ』
『よしよし、食事にしよう。ほれ食べるが良い』
『食べさせて欲しいだと?わがままなやつめ』
『もう食わぬのか?ダイエット中か?』
『ではそろそろ寝るとしよう。一緒に参れ』
──
私はシュンがローズという名の女性と話しているのだと思っていました。
しかし!
ビシャーン(稲光が広がる)
や、奴が話していた相手は・・・
ゴロゴロゴロ⋯(雷鳴轟く)
等身大フィギュアだったのです!
ドーン!(落雷)
「な、なにぃ!!」
体が震えるのを感じる。
うぐっ、このライデンが震えて⋯!
こ、これが恐怖というものか!?
「そ、それはヤバいやつだね!近づかないようにしよっと!」
こうして⋯
これによりシュンはこの先、メインキャラとしての役割を終えたのだった。
「さあ勉強勉強!」
もう元老殿なんかに構ってる暇は無いのだ。
覇道のためには勉強あるのみ!
⋯さらに数日が経った
最近勉強がノってきたとはいえ、まだまだ分からないことが山積みだ。
「圭一くんここの解き方をちょっと教えてくれない?」
マイは無意識に圭一のそばに身体をよせ、無邪気な表情を向けた。
「ち、近っ」
そう呟いた圭一はマイからバッと離れた。
「どうした圭一よ。我に知識を与えるのは怖いか?」
圭一はしどろもどろに
「い、いやそういうことでは⋯」
ふん、賢いわりにはおかしな奴め
こやつ、やはりジンケイではないのか?どう見ても迅雷の武闘家とは思えん
しかしここ数日で知識の獲得という目的にかなり近づいたのは事実だ。
最強となるための最初の関門は突破したも同然だ。
奴には褒美を与えねばなるまい
「圭一くんいつもありがとう!
今度お弁当作ってあげるね」
⋯!
圭一は真っ赤になり
「あ⋯いや⋯」
と呟いたままどこかへ消えてしまった。
おい!勉強はまだ終わっておらんぞ!
⋯逃げおった。
ここは全くおかしな奴ばかりだ。
知識の獲得は目処がたった。
だが!
まだ大きな問題がある。
それは、我が器の弱フィジカル問題だ。
俺は前世では(漫画のコマによっては)5メートルはあろうかという体躯を誇っていた。
それ故に我散爆掌や単なる打撃でさえ相手を一撃で粉砕してきた。
それが今はどうだ。身長は150センチ、体重に至っては何分の一かさえ分からぬ程の軽さだ。
こんな肉体ではジンケイに勝つことは出来ぬ。
奴が今どんな姿でいるかは皆目見当もつかぬが、とにかく更なる肉体の鍛錬が必要だ。
え、やだぁー
腹筋10回も出来ないんだけど!
そういえば・・・
迅雷の師匠さんも強かったよね
途中で発作が起きなきゃ倒されていたのはライデンだったじゃん
おじいちゃんなのに若い頃のライデンを圧倒してたもんねー
く、そのような昔話はよい!
あの頃のライデンだってその筋肉は最盛期と同じくらいあった
それなのにヨボヨボのおじいちゃんに負けた⋯
やっぱ筋肉は付けないとだね!
ん⋯?
待って待って
そうじゃない
確かに筋力は必要だ
でもそうじゃない
本当に必要なのは⋯
そう、技のキレだ
師匠さんもジンケイも技にキレがあったから強かった。
ライデンは前世ではその圧倒的な力を振り回していた。そして迅雷拳はその力の補助のような扱いだった。
でも本来の使い方はそうじゃない。
技を繰り出すために力がある。
あくまで力は補助だ。
ならば⋯
なんということだ!
このライデン迅雷拳の真髄に今更気づいたわ!
この身体を鍛えるのも確かに必要ではあるが、それはあくまで結果だ。
これに気付かぬ俺だから迅雷拳の伝承をジンケイに譲ることとなってしまったのだ。
なんということよ
ふふふ、この身体になって初めてそれに気付かされるとは皮肉なものだ
・・・よし
真の迅雷拳を連中に見せてやろうではないか
そのためには技の鍛錬が最重要だ。
それには⋯
私はMINEでサユリちゃんに連絡した
ねえねえ!明日ゲーセンに行かない?(*^_^*)
つづく




