─27.5話(番外編)─ ある日のサユリちゃん
─番外編(27.5話)─
私、久遠サユリは、その中に乱世のライデン軍武将バロンの魂を宿している。
と言っても二重人格などではない。
─ 武将バロン
ライデンの右腕と言っても過言ではないライデン軍のリーダーたる猛将として名を馳せた男だった。
しかしライデンの死後、時代を読む事が出来なかったバルガは、ココスカラという名の小悪党に従わざるを得ない立場に追い込まれていた。
それを救ったのが北斗神拳伝承者であるジンケイと、ライデンの忘れ形見であるロウだったのだ。
そして彼ら迅雷の男たちへの忠義を持ったまま現世に転生したのだ ─
⋯それは
まだ私が幼かった頃だったように思う。
私の頭の中に突然その男が現れた。
「そこにいるのはだあれ?」
「⋯我はバロン、そなたの身体に転生した者だ」
「なにしに来たの?」
「その答えを我は持ち合わせぬ。だが我とひとつになる事によりそなたに知識と加護を与えることが出来る⋯良いか?」
「いいよ!」
それから私たちはひとつとなった。
思えば幼な子に小難しいことを語り、問答無用で憑依した迷惑なおっさんなのだが。
私は成長するにつれ、外では言動が荒っぽくなるところがあった。
他人からはヤンキー気質のように見られていたことだろう。
おそらくバロンの気質が受け継がれていたのかも知れない。
だとするととんだ加護だ。
しかし私は不思議と大人の男性にはよく好かれた。私は彼らの気持ちがよく理解できたのだ。
これもやはりバロンの加護と言えるかもしれない。
先日都心の不動産屋で物件を物色していた時、偶然その場に居合わせた四菱銀行の重役⋯名はヨシダと言っていたか⋯
その彼が難しい顔で独り言を言っていたのだ。
「⋯この部屋では娘には合わんな」
何気なく聞いた言葉だったが妙に気になった私はつい彼に話しかけていた。
「娘さんのお部屋探しですか?」
彼は最初驚いた様子だったが、いくつか会話している内に私を信用してくれたようだった。
聞けば、彼の娘が今度結婚するのだが、その部屋というのが狭くて父の立場としては許せない、というものだった。
つまりは、
「貧乏なくせに娘と結婚しようという相手の男が気に入らない」
ということのようだ。
「久遠さん、だったか?私はね、娘に幸せになって欲しいだけなんだ。女性の君なら分かって貰えるかな?」
「勿論分かります。私も娘さんが貧乏で苦労するのは許せません!その男とやらに話をしに行きましょう!」
なぜ赤の他人にそんな事を言ったのか、それがバロンの気質によるものなのか⋯
私にも分からなかった。
ヨシダ氏も初めは驚いた表情だったが、私の提案を素直に聞いてくれた。
その翌日、ヨシダ氏と相手の男性の2人での話し合いの場が設けられた。
私は背後の席でイヤホン越しにヨシダ氏と話ができるようにしておいた。
勿論同席した方が話は早いのだが、ヨシダ氏の横にこんな小娘が同席していては、あらぬ誤解を受ける可能性があると判断したからだ。
「⋯それで君は結婚後も今の仕事を続けるつもりかね?」
「はい、勿論です」
「しかしせっかく我が社に席を用意すると言っているのに、何故わざわざそんな給料の安い仕事を続けるのかね」
「⋯それは、ありがたいお言葉として感謝しておりますが⋯」
(ヨシダさん、ショーダウンさせましょう。少し強い言葉を投げてください。『娘に苦労させるのか』というような)
「娘に苦労をかけさせるのかね!?」
「そんなつもりはありません⋯!」
(もう少し追い込みましょう。
『つもり、では困るのだがね』)
「つもり、では困るのだがね?」
「僕はただ⋯今の仕事が好きで⋯」
(好きだけで二人の生活が成り立つとでも?)
「好きだけで二人の生活が成り立つとでも?」
「⋯っ」
(結婚とは現実なのだ。好きとか理想とかだけで過ごせると思ったら大間違いだ)
「結婚とは現実なのだ。好きとか理想とかだけで過ごせると思ったら大間違いだ」
ヨシダさん、面白いぐらいそのまんまだけど良いのか?
「⋯はい、僕も少々甘く見ていた部分もあるかも知れません」
(よしよし、来ましたよヨシダさん)
「よしよし、来ましたよヨシダさん」
「え⋯?」
「んっ⋯!今のはなんでもない」
(今の仕事を全てやめろとは言わない。しかし同時に我社の仕事をすることも可能なのではないか?)
「今の仕事を全てやめろとは言わない。しかし同時に我社の仕事をすることも可能なのではないか?」
「⋯それは!そんなワガママを言って良いのですか!?」
(ああ、今の小説家を目指す事が軌道に乗るまで普通の仕事をしても特に困らんだろう?)
昨日のうちに相手の男のSNSの表アカ裏アカ全て調べておいて良かった。
「なんでそれを知っているのかね!?」
「え、いや?え?」
「ん?あ、ああ、今のは無しだ⋯ゴホン」
「とにかく、今の小説家を目指す事が軌道に乗るまで普通の仕事をしても特に困らんだろう?」
「⋯はい、その通りです⋯」
やはり思った通りだ。
おそらくヨシダ氏は相手の男の話を頭から否定していたのだろう。
それでは纏まる話も纏らないというものだ。
あとはもうヨシダ氏だけで大丈夫だろう
「ならばうちに来てくれるね?」
「⋯はい、ありがとうございます!」
こうして彼らの話は無事に纏まったようだ。
これで良かったかどうか本当のところは分からない、が。
それを見届けた私はそっと店を後にした。
「久遠さん!待ってください!」
その後ヨシダ氏が私の後を追ってきたのだった。
番外編おわり




