─2話─ アラサーと女子高生と迅雷拳
─2話─
教室に入る
あれ⋯?
何か視線を感じる
みなチラリとこちらを見るのだ
みんなようやくこの私の可憐さに気づいたかな?へへっ
おい⋯俺の気が漏れ出しているぞ
抑えることすら出来んのか?
この未熟者め⋯
あーなんで自分の頭の中でおっさんに悪態つかれてるんだろ
気を抑えられないと困るんかーい!
って脳内ツッコミしてもなあ
気すら消せぬようでは敵に悟られるではないか!そのような未熟さでこの世を生き延びようなどとは片腹痛いわ!
ヤバい、説教まで始まった
これっていわゆる精神的なアレだろうか
そんなの私に無縁だと思ってたのにな
私は隣の子に話しかけた
「ねえねえユミちゃん、頭の中で会話することってある?」
「あるよーそりゃあ」
あるんだ!
私だけじゃないんだヨカッタ!
「人って自問自答しては悩んだりするもんでしょ?」
「え?う、うん、まあそりゃあね」
違う
ユミちゃんは一般論として答えてくれてるだけだ
そりゃそうだよね
「マイちゃんどした?なんか悩み?」
うん悩んでるの
朝から頭の中におっさんが入ってきて今も話してるの
って言えるかーい!
「そういえば今日のマイちゃん、何か違うね。なんて言うか⋯目立つというか?」
それ多分このおっさんのせいなんだよね
いい加減にせんか!
俺はおっさんなどと言われる歳ではない!
ええ~じゃあ何歳なん?
あまりにも自然に受け答えが返ってくるから、私はこの頭の中での会話に少し慣れ始めていた。
この俺はまだ30にもならん!
アハムの中ではまだまだ若輩者よ!
アラサーじゃん!
高校生から見たら十分おっさんよ
しかも声の感じからしてもっと上かと思ってたわ(笑)
貴様!なんだその(笑)は!
あのさあ、私にはマイという名前があるの
貴様呼ばわりはやめて欲しいな
何だと?ならば貴様もおっさん呼ばわりはやめることだな
私達は初めて意見の一致を見た気がする。
じゃあなんて呼んだらいいの?
アハム?
それは俺のいた世の名前よ
俺はライデンで良い
「ライデン」か⋯
その名前、私知ってる
何ぃ!貴様俺のことを知っているのか!?
ということはやはりここは俺のいたアハムの世なのか!?
またキサマって言ってるし!
マイって呼んでよねもう!
⋯まあいいわ
私が知ってる「ライデン」はマンガの中の話よ
「マンガ」だと⋯?
そのような絵空事とこのライデンを一緒にするな!
でもね、その物言いとか態度とかすごい似てる気がするよ
お父さんから借りて読んだマンガだから多分まだ家にあると思うけどさ
知ってる?「迅雷の覇者」
なんだと⋯?迅雷⋯!?
私が産まれる前のけっこう古い漫画だからね。主人公はジンケイって言うの。ライデンはそのライバルキャラ
ジ、ジンケイだと⋯!?
しかもライデンがライバル!?
それではまるで⋯⋯
ライデンは黙り込んだ
しばらくぶりに頭の中が静かになって、これでようやく授業にも身が入るってものね
うん、嘘つきました
授業は全然身に入りませ〜ん
⋯⋯⋯
昼休み
ライデンは静かなままだったけど、私は保健室に向かった。
保健医の富田先生にちょっと聞いてみようかな、って。
まあそんなに期待はしてないけど、一人で悶々と悩むよりは良いかも知れないからね。
「そんな感じで今朝から頭の中で自問自答が続いてるんですよ」
「なるほどね。でもあまり悩む必要はないのよ?あなた達ぐらいの歳だと良くある事だし」
富田先生は優しい先生だが、やはり一般論としての回答であった。
仕方ないか。
自分で何とかしないといけないな。
その後ライデンは静かなまま放課後を迎えた。
ここまで静かだと、じゃあ朝のは何だったのかと思う。
もしかして一時的な現象?
もう消えたってこと?
私は自転車に乗り、帰りの途についた。
ふと建物の脇道を見ると、クラスメイトのサユリちゃんが見えた。
数人の男と何か話している。
ん?ちょっと揉め事のような?
コソッと近づき聞き耳を立てる
「お前さー、人にぶつかって来て謝罪もないの?」
「ぶつかって来たのは貴様らであろうが!」
「威勢が良いね~ちょっと事務所に来なよ」
あー、これはサユリちゃんがその筋の人に因縁付けられちゃったんだね⋯
久遠サユリちゃんはヤンキー気質のある子で、私とはほとんど接点が無い。
ちょっと目立つ背格好だから絡まれちゃったのかな
クラスメイトの危機を見かけた以上ほっとく訳にはいかない
⋯が、当然ながら手を出す度胸はない
ここは警察に電話だな
「おい!そこにいるのは誰だ!」
え!?隠れてるのになんで見つかった!?
まさか⋯
ライデンの言っていた気の漏れ?
「なんだお前?こいつのお友達か?」
「あ⋯クラスメイトです⋯」
「ふーん、じゃあお前もちょっとこっち来いや」
いやいやいや遠慮しときます~
は通用しないか⋯
「おい!そいつは関係ないだろう!」
サユリちゃんが男たちに叫ぶが当然聞き入れられない。
⋯ん?
なんだこいつらは?
俺が眠っている間に何が起きた?
何時間も大人しいと思ったら眠ってたんかーい!
いやまあ、ライデンが今起きても現状の危機は解決しないのだが。
「おう、早くこっち来いや」
男が私の腕を掴んだ
「つっ⋯!」
ん?お前このような下衆共に大人しく従っているのか?
いやあ従いたくは無いけど私の力じゃちょっと無理っぽくってさ⋯どうしよう
ふん、このような雑魚にいいようにされるなど俺のプライドが許さん!
少し貴様の身体を借りるぞ
え?借りるって何?
ドゥン!!!
言うが早いかライデンは自らの闘気を解放した。
まずはこの腕を掴んでおる男からだ
「おいキサマ、この俺に触れるとは万死に値する行為よ!」
ゴスッ!
男の腕に一撃を加える
「ぐあっーー!!」
男は悲鳴を上げ、大仰に腕を押さえながら地面を転げ回った
「なっ!」
男達が色めき立った
「貴様らザコの動きなど俺の前では止まったドブネズミも同然!死ねい!!」
倒れた男の顔面へライデンの握り拳(マイの拳だが)が振り下ろされる
その刹那!
いや待って待ってライデン!
この殺気、ヤル気マンマンでしょ!
殺しちゃったら後々面倒なことになるよ!
学校に行ってる場合じゃなくなるし!
なんだその制約は!
生きていく上ではごく当然のことではないか!
今は令和なの!とにかくダメ!
ちっ、うるさい奴め
ならば死なん程度に痛めつけるとするか
背影掌握!
それは
人間の動きの中にある影を辿ることで敵を封じ、死へと導く技である
我散爆掌は使えなかったが、この技であれば体力の無いこの肉体でも使えるであろう
おりゃあー!!
ライデン(見た目はマイ)は背影掌握により常に相手の死角に回り込み、敵がこちらを把握出来ないうちにその急所を(死なない程度に)撃ち抜いた。
男達は糸の切れた操り人形のように次々と地面に倒れた。
サユリ
(あ、あの気とあの動き⋯!あれはまさか!!)
何人もいた男達は全員あっという間に地面に倒されていた。
ふん、他愛もない
おおー!ライデンやるじゃん!
本当に「迅雷の覇者」みたいだよ!
これで分かったであろう
今日から気を抑える訓練をするのだな!
いや、そういのは置いといて⋯
優先事項はこっちから!
「サユリちゃん大丈夫?」
「え、ええ⋯」
サユリは呆然としていた。
「じゃ早いとこここから立ち去ろう!」
「は、はい!」
匿名で電話しておいたから、倒れてる連中はそのうち警察が見つけてくれるだろう。
連中がもし警察に泣きついたとしても「女子高生1人にやられた」なんて恥ずかしくて言えないよね。言ったところで信用されないだろうし。
私たちはその場をいそいそと離れた。
「じゃあサユリちゃん、また明日ね!」
「あ⋯はい、マイさん」
サユリちゃんってあんな丁寧な子だったかな~?そんなに付き合いないから分かんないけどね
ライデンが頭の中でぼやく
ちいっ、
力を抑えるというのは、思った以上に厄介なものだな⋯
つづく




