4.怒の誘惑-13
「「……嘘だろ……」」
走って、走って、辿り着いた海浜公園。
昨日まで確かにあった大きな建物は、そこになくなっていた。
綺羅とのことが、きっちり出来たからか。
さっき思いっきり泣いたからなのか。
なぜかは分からないが、意外と冷静だった俺。
「…公演契約が終了したんだ…」
「…え?何?」
「だって…サーカスって一定の場所に居座らないだろ。巡演する。」
「…そうか……って。勇ちゃんは?」
「…分からない…とりあえず、○○中央病院に行ってみよう。」
「なんで?」
「そこの心臓外科に入院してた。ここにいる間、掛かり付けはそこだったはずだ。」
「マジで?ここから近いじゃん!行ってみよう!走るぞ!」
「ああ。」
『時間が欲しい!』と、泣きそうな顔だったのはそのためか?
期間が迫っていたから?
それとも自分の命の時間?
どちらにせよ、俺にとっても武来にとっても、それが意味するのは別れ。
一つ解決すると、後を追うように問題が増えた。
俺って呪われてるのか?
そんな考えが出来るほど、余裕があった。
病院に着くと、ナースステーションに向かい、そこのナースに聞いてみる。
「すみません!昨日、ここに武来勇って女の子運ばれませんでしたか?」
「ちょっと。面会時間過ぎてるのよ!どこから入ったの!」
「それだけ教えてください!そしたらすぐ帰ります!」
「まったく…勇ちゃんなら帰ったわよ。」
「…生きて…いるんですね?」
「当たり前じゃない。相変わらず、応急措置が上手かったから、ここに来たときはケロッとしてたわ。」
「…ハァ……良かっ……」
「颯汰!……大丈夫か?」
「……ああ。気が抜けた……」
「バーカ。だから言っただろ。勇ちゃんは大丈夫だって。」
看護師の言葉を聞くと、疲れが一気に出たと言うか、力が抜けたと言うか。そんな感じで床にへたりこんだ。
お礼を言って病院を出ると。
「さーて。どこに雲隠れしたかな?」
孝太郎がスマホを取り出して、操作し始めた。
「孝太郎?何調べてんの?」
「んー。勇ちゃんとこのサーカス団の日程。
……あった。…颯汰、ちょっとの希望と大きな絶望よ?こりゃ。」
「何?」
「どっちから知りたい?」
「絶望。」
「…今度の予定は海外だ。日本にはいない。」
「マジか。……希望は?」
「海外公演まで時間がある。2月から。…それまでは、日本にいるんじゃないかな?詳しくは分からないけど。」
本当に、希望と絶望。
会いたいのに会えないのが一番辛い。
この数ヶ月、イヤと言うほど味わった。
「どうすんの?颯汰。」
「諦めないよ。俺。」
「うん。」
「孝太郎がくれたチャンスを無駄にしたくない。だから、捜す。…明日、美作に聞いてみる。」
「だよな。一番手っ取り早いかも。じゃ、今日は帰ろうぜ。」
「そうだな。」
武来は今、どんな気持ちでいるんだろうか?
多分だけど、100回目と言った告白を最後にけじめをつけるつもりでいたんじゃないのか?
一定の場所に居座らないサーカス団。それでも武来は、高校に入学を決意した。
それは俺に会うためだって自惚れていいんじゃないのか?
春、彼女と出会っていろんなことが変化した。
そのすべて、武来がいたからこそ起きた変化。
「孝太郎。」
「ん?」
「今日はありがとう。ずっと一緒にいてくれて助かった。」
「ハハ!いいって。俺がピンチの時は、お前に頼るから。助けてくれよ?」
「…どんとこい。」
「ブハッ!…その言い方、勇ちゃんそっくりだぞ!感化されてんな。」
「……………」
「はにかむな!」
「……え。ごめん。」
俺には、海外公演に行くまで、必ず武来には会えると確信があった。
だから焦らなかったのかもしれない。
孝太郎に感謝しつつ、家に着いた。




