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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
4.怒の誘惑
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4.怒の誘惑-7

告白されては去っていく武来は相変わらずだったが、雰囲気を察しているのは目に見えて分かっていた。


「飽きもせず、毎日振ってくれますね…チクショウ…教室で泣いてやる…サヨナラ!」

こんな感じで直ぐに消えていた。

それでも毎日会話していると、俺自身の精神が安定しているのが分かる。

たった数秒。たった一、二言。

武来と接するだけで癒される。


「……あれ?夏目先輩。上機嫌?」

「…結構上機嫌。」

「孝太郎先輩やってくれました?」

「俺は頑張りました。」

「………!!!わーい!夏目先輩が嬉しい!孝太郎先輩も嬉しい!だったら私も嬉しい!」

「「ブハッ!!」」

「笑うところじゃないです!喜ぶの!」


やっぱりこうして雰囲気を感じ取っているわけで、解決したと知れば、ピョンピョン飛び回って喜びを表現していた。


「…俺さ、本当は疑ってたよ。あの子に例のことを言ったんじゃないかって。でもここ数日、学校で嫌というほど行動を共にして、お前が勇ちゃんと接しているのを間近に見てきた。

…あの子、本気でお前の些細なことでも気付くんだな。スゲェ…」

「…ある意味ストーカーだから。」

「アハハ!そうだな!」

「誰がストーカーですか!ちょっとそこの二人!何て会話をしてるんです!もう!」

「勇ちゃんが可愛いなって。」

「…はう!!可愛いとか!もっと言ってください!」

「「アハハ!」」


思いきって笑える。

腹の底から笑える。

そうした俺たちを見ると、また大人びた微笑みで俺たちを見た。

そして、久々に声をかけた。


「……武来。お前今日暇か?」

「私はいつでも暇ですよ。」

「そ。帰り、ちょっと付き合えよ。」

「どこにですか?」

「駅前のマック。奢ってやる。」

「……へ!?……そ…それって……」

「デート。」

「行く行く!絶対行きます!」


また笑顔で飛び回った武来。

…と。ピタリとその動きが止まり俺を睨む。


「…何か企んでいます?彼女いるのに他の女と堂々とデートとか。」

「…別に?」

「…嘘ですね?」

「強いて言えば、口止め料かな。過去二回、みすぼらしい姿を見られてるんで。」

「……ああ。その事ですか。私は空気だって言ったじゃないですか。誰にも言いません。」

「いいから奢られなさい。…そして、誰も二人きりだと言ってない。」

「………はい!?」

「勿論、俺も一緒に行くよ?勇ちゃん。」

「…デートじゃないじゃない!嘘つき!孝太郎先輩は邪魔ですよ!消えて!」

「アハハ!酷い言い草。」

「じゃ、6時半に正門な。」


笑いながら体育館に戻る。……途中。


「…颯汰さん?みすぼらしいって?ん?」

「………泣いた。」

「…は?マジで?」

「一度だけ。もう一つは綺羅のことを聞いたその日に、へたれこんだ。」

「ギャハハハ!マジかよお前!」

「だから口止め料。」


爆笑した孝太郎は、一時笑いが収まらなかった。


「…先輩方…?正気ですか?」

「……え?」

「何が?」

「…そんなに食べれるの?」


オーダーしたハンバーガーの山は、俺と孝太郎二人だけで10個。

それを見た武来は、見ただけで吐きそうな表情。


「…食べ過ぎでしょ!それ!」

「そうでもない。大分セーブしてる。」

「そうそう。本来ならこの山は一人分だから。」

「…有り得ない…気持ち悪い…」

「「…大丈夫か?」」

「…!!誰のせいですか!」

「「アハハ!」」


無難にセットを頼んでいた武来。

見てると、必死にポテトだけを食べていて。

なぜか聞いてみると、


「マックのポテトは、時間との勝負です!負ける気はありません!早ければ早いほど美味しいのです!」


とか、意味の分からないことを言っていた。

そのポテトを食べ終わる前に、俺たちはすべてをたいらげていて。


「…もう。しょうがないですね。」


そう言って自分のハンバーガーを半分に割り、俺と孝太郎に手渡した。

その間も笑顔は絶えず彼女と共にあり、見るだけで和んでいく雰囲気を醸し出す。

笑顔に触れ、優しさに触れ。

嬉しいと愛しい、両方の感情が湧き出てくる。

頭の中は、目の前にいる武来のことでいっぱい。

こうして落ち着いて話すのは久々だから無理もないが。

ただ、いつも以上に強い欲求。


(…傍に…ずっと傍にいてくれ…)


それが自分勝手な事だと分かっている。

武来が入学して直ぐに始まった告白を、いまだに断り続けているのは俺だ。

彼女という名の存在だってある。

なのに、惹かれて好きになったのは俺。

事情を知る孝太郎はいいとして、その他から見れば、俺が浮気しているという現実。

多分、武来だってそんな解釈をしている。


「…先輩?」

「ん?」

「眉間にシワ。悩み事、まだ解決してないんですか?大丈夫ですか?」

「解決してる。大丈夫。」


孝太郎と別れ、暗くなった海浜公園までの道をゆっくり進む。


「今日は手を繋がなくていいの?」

「…な!!…繋ぎたいです!当たり前でしょ!」

「ハハッ!どうぞ?」

「…あ……失礼します……」


(実際は自分が繋ぎたいだけだけど)


手を差し出せば、拒否することもなく。

繋ぐだけなのに、ここまで緊張するか?って言うほど、小さく震えながら握られた。

逆にこっちが緊張してドキドキしてくる。

その心地よいリズムが幸せに感じる俺はどうにかしてるんだろうか?

静かな夜道をゆっくり無言で歩く。

聞こえるのは、自分の心臓の音。

伝わるのは、武来の手の温もりと緊張。

強く握り締めて歩き、いつもの門で立ち止まり手を離す。


「…じゃ、また明日な。いろいろありが」

「夏目先輩。」


言葉を遮られた。いつもはやらないことを不思議に思って顔を向ければ、真剣な眼差しで俺を見つめた武来。

そして、いつか河原で見た悔しそうな表情。


「…時間…が…」

「……え?」

「……時間が欲しい……」

「……武来?」

「私は時間が欲しいです!!時間が!!」


悔しそうな表情から曇った表情へ。

曇った表情から今にも泣きそうな表情へ。

こんな彼女は初めてだ。


(…こいつ…俺に…何かを訴えてる…)


瞬時にそれを理解できた気がした。

…でも。


「………………なんちゃってーーー!!」

「!!」


悔しそうな表情をしながら俯いたかと思えば、今度は弾けるような笑顔を見せた。

ビックリして武来を見張る。


「先輩っ!送ってくれてありがとうございました!ラブラブデートのつもりですよ!私!」

「……武来。さっきのは何?」

「………………もうちょっと一緒にいたくて。」

「…本当に?」

「はい!…でも、考えてみたら、ウィンターカップの前ですもんね。いっぱい身体動かしてるんですから、休まないといけない。無理させて壊してしまったら、先輩のメダル、首にかけられなくなっちゃう!」


……直感だった。

多分、嘘だ。

こいつが俺に嘘をついている。

…なんで?


(…放っておけってことか…)


あんな顔をしながら訴えておいて。

何も言わずに行こうとする。

…心が酷く痛んだ気がした。

俺は、こいつの心をすべて開かせている訳じゃない。そうする権利もない。

武来だって分かっているからこそ、いつも俺を無理に詮索するようなことはしない。

引き際だって理解している行動をとる。


(……クソ……)


相手の立場になって初めて分かる痛み。

知りたい。

だけど

知ることは僭越。


「……もう……いいや。」

「…先輩!……怒ったんですか?」

「…なんで?怒ってないよ。…また明日な。」


笑いながら頭を撫でて。

この日初めて、武来の背中を見送らずに歩き出した。

いつもさらっと流す武来は、こういう気持ちだったのか…?


(は……まさに道化師……)


ピエロはいつだって笑顔だと。

その笑顔の下には涙があると。

いつか言ってた武来の言葉。

あいつはいつだって笑顔だ。

言うなれば道化師。

その笑顔の下に、何が隠れてる?

そう思ったのは早い段階だったはず。

知りたいと強く思うほど、俺と武来は引き裂かれていく。

素直に…気持ちを言いたい…

今日ほど強く願った日はない。

お互い好きなのに、それを阻む障害がとてつもなく大きい。


「…好きだよ…武来…」


暗い空に向かって一言呟いた。

当然、その言葉に対する言葉はない。

代わりに空からの返答が雨となって表れた。

まるで、武来に近付けない俺が泣いているよう。

まるで、毎日断られる武来が泣いているよう。


「…もっと早くチェックしろ!反応が遅い!バランストレ、ちゃんとやってんのかよ!どんな状況でも、自分の身体をコントロールしろ!」

「はい!!」

「一年!お前ら、ウィンターカップでまた出すからな!今度30点取られるような無様な試合してみろ!全員クビだぞ!」

「はい!!」


思いも気持ちも切り替えて。

俺はこうしてバスケをしていればいい。

いつもなら出来ること。

でも、なかなか離れない武来の顔。

それがすごく切ない。

練習して練習して練習して。

無我夢中になってバスケットに打ち込む。


「颯汰。ちょっと飛ばしすぎじゃねぇ?」

「…そうか?とりあえず、俺はウィンターカップに優勝するのが後輩への置き土産だと思ってる。…何としても優勝するぞ。」

「…おう。」


それは、周りからも恐れをなすほどの気迫になっていたらしい。

気遣ってくれる孝太郎も有難いが、今はとにかく身体を動かしておきたい。

そんな気分だった。

少し目を横に向ければ、武来の姿が見えたから。

毎日見に来てくれる愛しい彼女。

バスケに打ち込むのも、あの日武来の痛みを知ったからかもしれない。

察しのいい武来のことだ。きっと自分の嘘を俺が気付いてると知っている。

だから俺がバスケに打ち込んでも何も言わない。

俺の気迫が部員の士気を高め、全員が目標に向かって一致し始めていく。

雰囲気を察して、武来は部員たちにもあまり声をかけなくなった。

その代わり、休憩時間になって密室だったドアを開けると、いつも、大量のお菓子がそこにあった。

疲れたときは、甘いものがいいんだっけか?

記憶に残る武来の言葉。

聞かずとも分かる武来の思い。

頑張れ!頑張れ!と応援してくれている。

恥にならないような試合にしなければ。

そして全国大会優勝という結果を残したい。

俺の夢のために。

武来との約束のために。

部員たちの未来のために。

また、手を繋いで歩きたい

また、裏表のない笑顔を見たい

また、一緒にマックを食べたい

好きだと伝えたい

いろんな気持ちを抑えて、視線の先にいる武来に何度も心で叫んだ。

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