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道化師の思惑  作者: 水嶋つばき
4.怒の誘惑
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4.怒の誘惑-5

その翌日に、事は起こった。


「孝太郎!もっとリターン早くしろ!」

「っしゃ!!」

「抜かせるな!止めろ!」

「城!そこはファール覚悟で止めるんだよ!何やってんだ!」

「…遅ぇよ!」


ドライブ気味に突っ込み、一気にゴール下に着くと、ジャンプしながらループシュートモーションに入る。

同時に鳴り響いたホイッスル。


「ノーカウント!」

「マジかよ!セーフだろ!」

「ボール離れてませんでした!ノーカウント!」

「だっせ!颯汰!時間見てなかったのか!」

「ブザービート狙ったんだ。」

「狙いすぎ。素直にスリーにしておけばよかったのに。」

「うるせぇ。…よし!ミニゲーム終了。クールダウンして終わるぞ。」

「あーーっしたぁ!!」


解散後、体育館の窓を開けながら、今日のみんなの動きを頭に入れ、次の交流試合までの改善点を考える。


「颯汰。…どう?」

「多分…シュート率。」

「だな。俺もそう思う。SGには、5割越えて欲しいところだな。」

「多分それでガラッと変わるぞ。PGは俺がシュート率を上げる。」

「じゃ、俺はSGな。纏めて」

「颯汰!」


俺たちの話を遮るように入ってきた影。

俺が自分の気持ちを伝えて後、ずっと避けていた。


『会いたい』と何度もメールが来ても

休み時間も部活後も

行動を読まれないように常に動き。

それが今日になってなぜ?


「……なんだ?」

「お願いがあるの!」


みんなが水場に出てきたのを見計らったのか?

タイミングよく現れた綺羅は、いきなりお願いという命令を突き付けた。


「綺羅。……何の用だ。」

「孝太郎。いいから。」

「よくねぇよ。」

「落ち着け。…綺羅、こっち来い。」

「颯汰!」


感情的になりつつあった孝太郎。

一緒にさせるのはダメだと思って、腕を乱暴に掴むと、体育館を出る。


「……!!!」


水場に集まっていた部員たちの中に、目を奪う存在。

真っ直ぐ俺を見ている。

一瞬、視線がぶつかり。

思わず目を背けた。


(…クソ!なんでこんなタイミング!)


あいつだって、綺羅が俺の彼女だと知っている。

一緒にいても、変ではない。

……でも……でも!


「颯汰!……痛い!」

「さっさとこっちに来い!」


二人でいるところ見ると、きっと傷付くはずで。

それが分かっているから、足早に部室の裏へ行き足を止めた。


「…で?何?」

「ごめんなさい。颯汰。」

「……ごめん?何で謝る。」

「…部活邪魔して…」

「タイミングバッチリだったよ。今更自分を作るな。めんどくさい。」

「…………!」

「早く用件言えよ。」

「……私を助けて欲しい。」

「何から。」

「…警察から。」

「………はぁ!?何言ってるんだ!」

「お願い!!」

「お前!何したんだよ!」

「話を聞いて!助けて!」


突然言われた言葉に固まってしまった。

どうしようもないイラつきが抑えきれないほど出てきて、それを深呼吸して必死に抑える。

武来を思い、バスケに打ち込んでいた幸せな日々が、一瞬で崩れ去るような感覚。


「…なんだ。早く話せ。」

「…ここじゃ…無理。」

「どこならいいんだよ。」

「家に来て。お願い!!」


…瞬間的に躊躇したものの、多分ヤるとかそういう誘いではない。

なんだかんだ言って幼馴染み。

嘘か本当か、大体理解できる。


「……………」


そして、右方向を見て。

風に揺られた髪の隙間から見える傷跡。


「…分かったよ。校門で待ってろ。着替えてくるから。」


それだけ言うと、綺羅が歩いていったのを確認して部室に入る。

ーーーーーーガァァァン!!!!


「……ハァ!……ハァ!」


爆発寸前だった。

メチャクチャに殴りそうだった。


(……よく耐えたな…俺……)


自分のロッカーを思いっきり殴ると、幾分マシになった自分の感情。

凹んだロッカーが、その怒り具合を表している感じ。

物に八つ当たりしてもしょうがないのに。

素早く着替えると、体育館に戻った。


「孝太郎。悪い。後は頼む。」

「…綺羅はなんて?」


若干キレたままの孝太郎を捕まえ、事情を説明しようと二人だけになる。


(……いや……)


直ぐにそれを思いとどめた。

綺羅は警察から助けてと言った。

何かの警察沙汰に巻き込まれたのなら、孝太郎をそれに巻き込んだらダメだ。

綺羅の犠牲になるのは俺だけでいい。

綺羅から守ってやらねぇと。


「…家族のことで思い詰めてるって。」

「………本当か?」

「おじさんにあって欲しいと言われただけだ。大丈夫だから気にすんな。」

「…嘘つくな。そんな雰囲気じゃなかったぞ。」

「とりあえず行ってみる。後は頼む。」

「颯汰!絶対に後から教えろよ!」

「…ああ。」


やはり嘘など簡単に見破られ、孝太郎に嘘をついたことにさえズキズキと胸が痛む。

……そして。もっと胸が痛むこと。


「……武来。ちょっとこっちに。」


まだじゃれあっていた武来を呼び寄せ、言いたくもない言葉を告げる。


「…悪い。今日の約束は」

「了解です!」

「……え?」


間髪入れずに放たれた了解。

それに驚き武来を見れば、いつか見た、寂しそうな笑顔で。


「彼女さん、なんかあったんでしょ?先輩は彼女思いですもん。優先順位は私じゃないことくらい分かってますから大丈夫です!そんな先輩が大好きです。私は明るいうちに帰りますから気にしないでください!それでは!お疲れ様でした!」


今にも泣きそうな表情で、必死に笑顔を作って走り去った武来。

俺が申し訳ないと思ってることを察して、自分から切り返したのだと分かった。


(…バカ…本当…純粋バカ…)


俺が泣きそうだ。

そう思いながら、綺羅の家に向かった。

部屋に上がると、ベッドの上に座った。

綺羅は正座して床に座る。


「…で?警察って何。」

「…い…いずれ…ここにも来る…」

「だからその理由を聞いてんだ。」


イライラする自分をなんとか抑え、浅い呼吸を繰り返しながら言葉を待つ。


「…巧が……昨日捕まって。」

「…巧?……クスリか。」

「……………」

「言わんこっちゃねぇ。俺は警告したはずだ。こんなの自業自得だろ。自分で何とかしろ。」

「颯汰!私も調べられるかもしれないの!」

「……なんだ?お前まさかやってたりするのか?」

「…一度だけ…」

「……っ!!……なんてバカな女だ!救いようもねぇ!」

「本当に一度だけなの!辛くて!」

「辛いからってクスリに走るのがバカだって言うんだ!」

「そうなったのは颯汰のせいなんだから!」

「はぁ!?俺を巻き込むな!!」


どうしようもない怒りとイライラが爆発する。

悪事すべてを俺の責任にしようとする態度。

こんな女にどうやって惚れろと言うんだ?

彼女にした瞬間からずっと自分に問い掛けてきた。

俺はこいつに惚れるなど一生無理だ。


「…颯汰が…あの子を好きだって言ったから!」

「…今度は彼女まで巻き込むつもりか?」

「違う!そうは言ってないじゃない!」

「じゃあ何だよ!」

「私はずっと颯汰が好きなのに!颯汰は私を好きになってくれない!なのにあの子のことは好きになって!嫉妬した!辛かった!だからその時に一度だけやった!」


とうとう泣き出した綺羅。

…多分俺を好きだということは嘘じゃない。

本気で泣いてるのも分かる。

ほんの少しだけ、動揺した自分がいた。

ずっとただの下僕だと思ってたから。

……でも。


「…俺が好きだと言うなら、なんでお前は嫌がらせの行動しかとれないんだ。」

「そうでもしなきゃ、颯汰は離れていっちゃうじゃない!」

「お前だって割り切った関係だっただろ。今更何なんだ?ここまで俺を貶めたいのか?」

「違う!違う!」

「その傷をあからさまに見せつけて、俺を言いなりに扱ってきた十数年、俺がどんな思いでいたか分かってるのか?好きでもないお前と時間を過ごし、ここに来ては強要されるセックスが苦痛だと分かってるのか?巧だけじゃねぇ。何人も男を抱えて、毎晩取っ替え引っ替え寝る女じゃねぇか。俺が知らねぇとでも思ってんのか?自分の体裁を守るために、俺と付き合ってることは利用価値があったんだろ?それが今になってそんなこと言えるのか?」

「颯汰は私を好きになってくれなかったから!気を引くために行動した!」

「それがエスカレートしただけだとでも言いたいのか。ふざけんな!!」

「ふざけてない!好きなの!颯汰が好きで堪らない!それだけだった!」


そう言うと、綺羅は俺のズボンに手を掛けた。

綺羅の気持ちはよく分かった。

だが、俺自身の気持ちとは真逆。

いくら好きだと言われても、こいつを好きにはなれない。

ずっと耐えてきた仕打ちは、俺の心に深くめり込んでいる。


「……やめろ。綺羅。」

「…や……んん……」

「無理だよ。お前じゃ勃たねぇよ。」

「…好き……颯汰……」

「やめろ。」


無理矢理引き剥がせると、ベッドの上に投げ飛ばした。

身なりを整えると、呆然とした綺羅に告げる。


「…警察が来たら行ってこい。」

「やだ!颯汰!助けて!」

「本当にその時一度だけだと言うのなら、検査もパスするはずだ。あれから何ヵ月か経ってるから。」

「お…お父さんたちに…バレる…」

「そこはお前の得意分野だろ。嘘で身を守れば?それで孝太郎や武来を巻き込んだりしたら絶対に許さねぇからな。

…お前が俺を好きだということは分かった。だが俺は、お前を好きになれねぇ。カレカノという演技してるだけで精一杯。お前の要求通りに行動するだけで精一杯なんだよ。俺を好きなら、それから解放してくれ。」


そして、そのまま部屋を出た。

こうなれば嫌でも思ってしまう。

どうして俺なんだ?

俺の人生は俺のものなのに、なぜこうも付きまとう?


(…どうする?どうする!?)


警察だと?クスリだと?

ふざけんな!

綺羅と付き合ってるというだけで、俺も警察に行く羽目になるかもしれない。

しばらく関わりを持たなかったなど、警察にとってただの言い訳にしか聞こえない。

選抜優勝を目指しているメンバーに、迷惑などかけられない。

エスカレートして、孝太郎や武来にも迷惑がかかったらどうするんだ。


(…クソ…!…クソ…!)


下手したら、選抜出場停止になってしまう。

そうなる前に手を打たないとダメだ!

俺一人ではどうにもならない。

孝太郎に相談するべきだ。

俺の知らないところで事は進み、俺の大切なものを巻き込んで堕ちようとしていく。

俺が付き合っているだけではダメだというのか?

ずっと我慢してきた。

それは孝太郎とバスケのために。

大切なものを作るとダメだと言うように。


「ああ!終わったーー!!」

「勇。まだだから。こっちおいで。」

「…光希さん…厳しすぎます…」

「今度はボールなんだろ?これやっておけば、失敗はなくなるし、団長から殴られなくなるぞ。ほら、肩に足上げて反らして。」

「……うぐっ!!これ、きついんだよね!」

「あと10分そうしてるんだぞ。」

「もうギブアップです!!」

「ダメだ。直角キープ……あれ?勇。お前の想い人じゃねぇの?」

「え!どこどこ?」


(…マジかよ…)


空気を読むとは違う。

苦しいと思ってるときに、会ってしまうのは何だろう?

求める声が聞こえ、公園の広場に目を移す。

どうやら団員の一人と特訓しているらしく、相手の肩に足を乗せて、上半身を90度に反らしてバランスを取っていた。

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