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第0099話 怪物は、すでに彼らを見つめている

羊皮紙を挟んだ卓上に、重たい空気が沈殿していた。

数字の列は静かに、しかし挑発するように四人を見返している。


最初に声を上げたのはシルヴィアだった。

「ライネル、あんた真面目すぎるのよ。

こんな得体の知れない暗号に首突っ込んだら、こっちの首がいくつあっても足りやしない」


彼女の軽口に、マリーベルが机を叩いた。

「ふざけるな! 虚構を操る座長を野放しにしておけば、この街は舞台ごと呑まれる。

お前みたいに軽く構えていては、真実なんて一生つかめないんだよ!」


「はいはい、怒りっぽいのは治らないねぇ」シルヴィアは肩を竦める。

「でもさ、あたしたちに必要なのは頭の冷たさだろ? ……なぁ、ライネル?」


暗い瞳を伏せたまま、ライネルは低く答える。

「虚構と真実の境を見極めること――それが俺たちの役目だ。

老人の依頼は危険だが、放置すれば犠牲者が増える。選択の余地はない」


その言葉に、アリアがそっと視線を落とした。

「犠牲者……」

彼女の脳裏には、幼き日の記憶がよぎる。異郷で出会った少年少女――

彼らが虚構に呑まれていった姿。声を上げることもできず、消えていった存在。


「……私は、もう誰も失いたくない」アリアは小さく呟いた。

「虚構が真実を覆い隠すなら、その幕を破らなければならないのです」


沈黙が流れ、やがて四人は視線を交わし合った。

結論はひとつしかない。


「決まりだな」ライネルが羊皮紙を折りたたむ。

「この暗号を解き、虚構の座長を暴く」


その瞬間――


酒場の壁に掛けられた古い鏡が、ひとりでにひび割れた。

客たちがざわめき、振り返る。

ひびの中から滲み出すように、いくつもの顔が重なり合う影が覗いていた。

笑い声、泣き声、怒声……幾重にも重なり合い、やがて怪物の首群れへと変わっていく。


「……っ!」アリアが思わず口を押さえた。

マリーベルが立ち上がり、炎を構える。

シルヴィアは軽口を失い、ライネルは剣の柄へと静かに手を伸ばす。


だが、影はすぐに霧散した。

残ったのは割れた鏡と、不気味な静寂だけ。


老人の声がその隙間を震わせる。

「ほら……もう始まっているのだよ」


四人は誰も返事をしなかった。

だが心の奥底で、それぞれが同じことを悟っていた。


――怪物は、すでに彼らを見つめている。

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