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第0098話 真実こそが報酬

口笛の余韻がまだ酒場に漂っているとき、扉がきしんで再び開いた。

冷たい夜風が流れ込み、外套のフードを深くかぶった男が一歩、また一歩と踏み入ってくる。


老人だった。

白髪は乱れ、眼差しは不眠に苛まれた者のように落ちくぼんでいる。

彼は杖を突きながら、まっすぐ四人の卓へと近づいてきた。


「……諸君に、頼みたいことがある」


低く掠れた声。

シルヴィアが眉を上げ、軽薄な笑みを浮かべる。

「へぇ、今夜は人気者だね、私たち。で、おじいさん、何を依頼したいんだい?」


老人は卓に古びた羊皮紙を広げた。

そこには奇怪な数字の羅列が記されている。

ただの暗号のように見えるが、よく見ると数字の向きが逆に書かれたり、欠けたりしている。


「これは……」ライネルが低く呟く。

「逆・数字の暗号」


老人はうなずいた。

「この暗号を解けば、虚構の舞台を支配する劇団座長の正体が明らかになる。

だが、挑んだ者は皆……“多くの頭を持つ怪物”を見て、心を砕かれてきた」


アリアが青ざめ、胸の前で両手を組む。

「怪物……幻覚に取り憑かれるという噂は、本当なのですか?」


「本当だとも」老人の声は震えていた。

「私は老い先短い。だが、せめて真実を未来に残したい。

どうか、君たちの力でこの暗号を――そして劇団座長の虚構を、暴いてくれないか」


重苦しい沈黙が卓を覆う。

マリーベルが拳を握り、炎が指先にちらついた。

「面白い……虚構を操る座長とやらを、火炙りにしてやるのも悪くない」


「危ないってのにすぐ燃やすこと考えるんだから」シルヴィアが肩をすくめる。

「けど、悪くない話さ。賞金も出るんだろう?」


老人は静かに首を振った。

「金はない。ただ、真実こそが報酬だ」


シルヴィアは吹き出したが、ライネルは真顔で頷いた。

「虚構に惑わされぬためには、まず暗号を解かねばならない。……受けよう」


アリアの瞳に、淡い寂しさと希望の光が宿る。

「失われた純粋さを……取り戻せるのなら」


羊皮紙の数字が、燭火に照らされ、まるで生き物のように揺らめいた。

それは確かに、四人を待ち受ける「怪物」の影を告げているかのようだった。

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