第0096話 日常のざわめき
街の空は、薄い朝霧に覆われていた。
昨夜までの混乱、石化、意図せず行われた仇討ち、そして祈りの言葉の誤り――全てが、まだ胸の奥に重く残っている。
四葉亭に戻った四人は、静かに椅子に腰を下ろした。
誰も口を開かず、ただそれぞれが事件を思い返していた。
「……終わったのか」
ライネルは低く呟いた。
街の被害は最小限に収まった。犠牲者の命は戻らないが、石化の連鎖は止まった。
「怖かったわね」
アリアが小さく息をつく。
「嫌な感情――恐怖も怒りも、無力感も……。
でも、それを受け止めるしかないって、初めてわかった気がします」
マリーベルは杖を床に置き、肩の力を抜いた。
「怒りも恐怖も、私たちを動かす力になる。でも制御しなければ、街を滅ぼすだけだった」
シルヴィアは羽根付き帽子を指で軽く弾きながら、口元に苦笑を浮かべた。
「嫌な感情も、間違いも、誰もが抱えてるものだって分かったよ。
でも、それを無視するんじゃなくて、向き合うしかないんだね」
ライネルは仲間たちを見渡し、少し柔らかく微笑んだ。
「人は、嫌な感情を抱える生き物だ。
それでも、行動を選び、言葉を慎み、失敗を正すことはできる。
今日の事件は、その証明だ」
アリアは天を仰ぐ。
「犠牲になった人たち、意図せず仇討ちをしてしまった若者……
誰も悪くなかった。けれど、この経験を通して、私たちは学んだ。
嫌な感情を受け入れ、理解することが、次に生きる力になる――」
静かな酒場の空気の中、四人はしばらく沈黙していた。
街の人々の笑い声はまだ戻らない。
それでも、確かに重苦しい空気は和らいでいた。
「さて……次は何を調べる?」
シルヴィアが軽口を叩く。
「石になるのは勘弁だけど、謎解きはやめられないしね」
「焦らずにだ」
ライネルは穏やかに答えた。
「嫌な感情も、解決も、急ぐものではない。
少しずつ理解し、向き合い、街を守る。それでいい」
マリーベルは杖を肩に担ぎ、立ち上がる。
「次に同じ過ちが起きないようにするだけよ。怒りも恐怖も、今度は力に変える」
アリアは小さく頷き、目を閉じる。
「悲しみも、恐怖も、怒りも……
私たちは受け止め、次に進む」
四人は街を後にし、朝霧の中を歩き出す。
事件で巻き起こった嫌な感情――恐怖、怒り、悲しみ、無力感――
それらを受け入れたことで、彼らの心には静かな強さが芽生えていた。
石化の恐怖は消えたわけではない。
だが、嫌な感情と向き合う術を知った彼らは、もう迷わない。
街は再び息を吹き返し、四葉亭の扉も、日常のざわめきを取り戻した。
探偵団の旅は終わらない。
だが今、彼らは確かに成長していた。
――嫌な感情を受け入れることが、
――解決への第一歩だと、四人は知ったのだった。




